ナタリー PowerPush - THE イナズマ戦隊
デビュー8年目のイナ戦が放つまっすぐな自信作「未来の地図」
バカ正直で、まっすぐで。それなのに、いや、だからこそ、THE イナズマ戦隊はそのライブパフォーマンスには絶大な自信を持ちながらも、レコーディング作品では世の中へのその届き方に不足があるように思えた。しかし、デビュー8年目を迎えてレーベルを移籍したこの状況で、「俺らにはこれしかない」と断言できるアルバムがようやく完成した。全14曲というボリュームで、ストレートなラブソングから幕を開ける「未来の地図」。ターニングポイントにふさわしい1枚だ。
取材・文/佐々木美夏 インタビュー撮影/中西求
「これが俺はかっこいいと思うねん!」と言えるアルバム
──1年4カ月ぶりのアルバムですね。レコーディングに入る前はどんなことを考えていました?
上中丈弥(Vo) ちゃんとライブが見えてかっこいいアルバムにしたいっていうことですね。もともとイナズマ戦隊を始めて歌を書き出した頃って、ギター持って、例えば好きな子たった1人のために歌うとかそんなもんだったのに、それがいつのまにか10人おったら10人納得させてやろう、僕らいろんな球種持ってます、みたいなところを見せなあかんのか、みたいになってきて。だから2009年から2010年に変わるあたりにライブやったりしながらいろんなことを考えて。FM802の「MEET THE WORLD BEAT」っていうイベントのビデオを、昔ギターの武郎とよく観てたんですよ。それには清志郎さんがアンコールでみんなを呼んで歌うシーンがあるんですけど、かっこええな! って。その感じ、かっこいい、それだけを考えて作ったアルバムですね。
──でも何がかっこいいか、その基準は個人的なものですよね。
上中 そうそう。だから「これが俺はかっこいいと思うねん!」っていうのをちゃんとやった。「これがかっこいいんでしょ? これがいいんでしょ?」じゃなくて、「これが俺はかっこええねん!」と思えるもの。だからそうですね。今回のアルバムは、僕らの中でのかっこいい、になるのかもわからへん……俺らズレてるか?(笑)
久保裕行(Dr) いや、ズレてないズレてない(笑)。
上中 いや、ズレてるよ。だってこれがかっこいいと思ってんやろ?(久保のシャツを指差す)
久保 ちょっと待て。これは俺の中ではかっこいい(笑)。
上中 まぁでも、演奏してて気持ちいい、かっこいい、自分らがライブで表現したいものっていうのを考えて作った。
「がんばろうぜ」って言えるのは「努力は裏切らない」と思ってるから
──アルバムに入れる曲の選び方は民主主義なんですか?
久保 わりと民主主義です。
上中 僕の意見は絶対に通りますね。3対1になっても。
久保 一応多数決はとるんですよ。多数決とって、3対1で1が採用。そういうのもある民主主義です(笑)。
上中 でも今回あまり流れとか考えてないね。何かわからない「これやろ!」って感覚で作ったっていうほうが大きいかもわからない。
──その何かわからない感覚とは?
上中 いや何かわからんもんはわからんですよ。今回のアルバムの「唄」って曲にもあるんですけど、大事な何かはわからんけども、みたいな。だから世の中的にはどうなのかわからんけども自分らがかっこいいと思ってるものを自信満々で出す、その何かを感じたパワーを信じたい、っていうのもあったんですよ。
──THE イナズマ戦隊って一般的なイメージだとすごく熱いバンドで、「応援歌」(2003年リリースの2ndシングル)が代名詞的存在になってますけど、その感じは今も変わらない?
上中 やっぱりそうですね。ライブで歌っても力がありますし。あれこそ12年前とかに作った歌で、もう本当に幼馴染みに向けて歌った歌。たったひとりの。それが偶然人の耳に入ってどこかからみんなに伝わったって感じなんで、今回もそれでええんちゃうか、みたいなところに戻った感じがあるんですよ。歌詞書くときも、これをおまえに聴かせたい、みたいな。
──でも人を応援する歌って難しくないですか?
上中 難しいですね。
──テーマとしては世の中にあふれてるけど、だからこそ、難しい。
上中 なんなんやろう。わからんものはわからへんし、31歳になってボロへこみすることもあるしめちゃめちゃうれしいこともあるし、せやけど感じたことの中でわかってきたことを踏まえてがんばろうぜ、っていうメッセージに変わってきてると思うんですね、23歳のときに書いた曲と今31歳で書いた曲を比べれば。そういう風に僕自身生きてしまってるんで、しゃあないのかもしれないですね。もうそれが普通なんですよ。「警視庁24時」みたいなテレビ見てたら、自殺しようとした人に対しては「がんばろう」って言っちゃダメなんです、って警察の人が言ってたんですよ。僕はそれ見てて、「こいつとは気が合わんな」って(笑)。だからわからへん。がんばろうって言っちゃあかんねんで、っていうのがわからへん。だからすべてわかった上でがんばろうと言うてるのかっていうと、そんな重たいもんじゃなくて、僕がここまで来たのはきっとがんばってきたからやと思うし、努力は裏切りへんのちゃうか、どんな形かわからんけど(努力は)何かを返してくれるのちゃうんか、っていう風に思ってる。そういうことを感じた中でのがんばろうぜ、っていうことやから。
THE イナズマ戦隊(ざいなずませんたい)
歌心あふれるメロディと力強いバンドサウンドが魅力の4人組ロックバンド。1997年に札幌で結成され、2002年8月にインディーズからミニアルバム「THE イナズマ戦隊」を発表。2003年2月にシングル「月に吠えろ」でメジャーデビューする。リリースに連動して年間100本を超えるライブツアーを敢行し話題を集める。また福岡の「HIGHER GROUND」などの大型フェスにも出演し、毎回好評を博す。2010年にSony Music Artistsが新たに立ち上げたSMALLER RECORDINGSに移籍し、通算7枚目となるアルバム「未来の地図」をリリース。