音楽ナタリー Power Push - いきものがかり
国民的グループが届ける“普通”というファンタジー
タイアップが向き合ってる人の数
──今回のベストアルバムの収録曲を見ると、45曲中36曲が映画やCMなどのタイアップ曲です。クライアントから求められて曲を作ることについてはどう捉えていますか?
水野 タイアップがいいのは、曲が流れてる場面が想像できるところですね。このドラマのこういう場面で流れる音楽はどんなのがいいかなとか、「じょいふる」だったら街頭のビジョンで流れるんだろうなとか。社会のどの場面で、どんな人たちの前でその音楽がスタートするのか。それが見えるからイメージが湧きやすい。だからタイアップなしでいきなり自由に作れって言われると逆にすごく大変だったりして(笑)。
──さらにいきものがかりは、1つの商品やテレビドラマだけじゃなく、オリンピックとか学校音楽コンクールみたいな大きな枠組みのタイアップも担当していますよね。そういうお題を与えられたとき、曲の書き方は変わってくるものですか?
水野 うーん、立場的にタイアップに優劣を付けることはできないんですけど、そのタイアップが向き合ってる人の数ってあるじゃないですか。一番わかりやすいのはやっぱり「風が吹いている」。ロンドンオリンピックのNHKの放送テーマソングですからね。ヘタしたらオリンピックを観てない人も相手にしなきゃいけない。
──全国民に向けて曲を書くわけですね。
水野 もうなんかそういう感じですよね(笑)。そこには当然いきものがかりが嫌いな人もいるし、「オリンピックなんかやってる場合か」って言ってるような人もいるわけだし。そんな人にも聴いてもらえる曲、ちょっとでもつながれる曲っていうふうに考えて。すごく大変でしたよ。過去最大の路上ライブをやってるみたいな感じ(笑)。
曲がどんどん大きくなっていく
──大きなタイアップを経験したことで変わったことはありますか?
水野 これはいいことじゃないかもしれないけど、書けることは少なくなっていきましたよね。「ありがとう」とか「風が吹いている」以降は曲のテーマがどんどん大きくなっちゃって、些細な恋の歌みたいなものを書くのが難しくなっていった。
──軽い曲が書けなくなった?
水野 そうですね。「いろんな人に当てはまらなきゃ」っていう意識が、いい意味でも悪い意味でも自分を縛りつけるようになっていって。
吉岡 あの頃リーダー(水野)が「どうしても大きい言葉を使っちゃうな」ってぼやいてたのを覚えてますね。個性的な主人公が書けなくて、より多くの人が持ってる気持ちのほうに向かっていってしまうって。
──山下さんもそうでしたか?
山下 そこまで論理的には考えてなかったと思うんですけど、でも例えば学生時代とかに書いてた曲はやっぱり無邪気ですよね。なんの制約もない中、次のライブどうしようって考えて、こんな曲を書いてったらお客さんが喜ぶんじゃないかなとか。でもデビューしてから何年か経つと、こういうタイアップの話があるとか、そこに向かっていく作業とかが増えてきたので、無邪気に書くっていうのはけっこう減っていったかな。
──難しいものですね。
山下 でもそれが悪いわけじゃないんです。お題があって、そこに向き合うことで広がった幅っていうのは全然あります。例えば「じょいふる」なんかはポッキーのCMの話がなかったら生まれてない曲だけど、今ではそれがライブの定番曲になったりもしてる。そうやっていきものがかりっていうものが世の中に浸透していったし、自分たちの幅も広げていけたと思うんで。
歌の中では誰の味方もしない
──いきものがかりはポジティブな感情を歌に乗せることが多いと思うんですが、例えばさまざまな社会問題のニュースが毎日流れてくる中、楽曲を通して政治的なメッセージを伝えたり、怒りの感情をぶつけたくなったりしたことはないですか?
山下 確かに振り返ってみるとそういう曲はあんまりないけど……。でも「これはNG」というルールも特にないんですよね。ただこのグループでそれをやる意味があるかどうか。今のところはそこに手を触れてもあんまり得しないと思うからやってないだけで、今後もしそういう機会があったら触れていくし、踏み込んでいくかもしれないですね。
水野 僕が最近思ってるのは「歌の中では誰の味方もしない」っていうのがすごく大事だなってことで。
──どういうことですか?
水野 3人それぞれ、例えば目の前の社会問題に対して立場がないなんて絶対ありえないわけで。投票もしてるし、それぞれ思ってることは確実にあるんだけど、歌の中においては誰の味方もしない。誰かの正義に味方した途端に、そこにつながれない人が出てきちゃうんです。
──「敵を作らない」じゃなく「誰の味方もしない」なんですね。
水野 はい。だってどっちが正義かなんてわかんないじゃないですか。僕が曲を書いてる理由は「自分がわかり合えない人とどうつながるか」っていうことでしかないから。だから曲を書くことで、わかり合えない人を増やしちゃったら意味がないんです。
吉岡 こういう話、普段しないよね(笑)。でも例えば自分たちの怒りの感情をぶつけるっていうことは、私たちはたぶんやらないだろうな。すごく怒ってる主人公の曲だったらアリかもしれないけど、そういうものをいきものがかりでやる意味を感じてないっていうか。
水野 もしいきものがかりの3人が考えてることを歌にしても、それは3人の限界を超えていかないんです。3人が想像できる範囲の人としかつながれなくなっちゃう。このグループがいいのは、作る人間と歌う人間が基本的には別で、だからこそお互いの限界を超えたところに曲が届くっていう、それが一番の魅力だと思うんです。だから山下と僕の政治的な考えが全然違ってたとしても、常にその上に曲が来る。それがポップソングを作る意味だと思うんですよね。
山下 結局さっきの話に戻るんですけど、やっぱ引いてやってるってことなんでしょうね。自分の主張を歌でガツガツ訴えても、そこが路上で、知らない人が行き交う場所だとしたら、誰も反応しないんですよ。だから1人ひとりの思いはともかく、グループとしてそれをやる意味はあんまりない。
──「泣き笑いせつなPOP3人組」としてやるべきことじゃない、ということですかね。
一同 あははは(笑)。
吉岡 このタイミングでそれ(笑)。
──デビュー当時からのキャッチコピーですよね。
山下 10年言い続けてますからね(笑)。僕らの中にたぶんなんとなく「自分たちはここからここまで」みたいなイメージがあるんですよ。その幅はかなり広いし、言葉では説明しづらいんですけど。そういう無意識的なルールの中で、球を投げ続けてきたってことなんだと思います。
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- ベストアルバム「超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~」 / 2016年3月15日発売 / EPICレコードジャパン
- ベストアルバム「超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~」
- 初回生産限定盤 [CD4枚組] / 4800円 / ESCL-5555~8
- 初回仕様限定盤 [CD3枚組] / 3600円 / ESCL-5560~2
DISC 1
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- キミがいる
- 気まぐれロマンティック
- 茜色の約束
- あなた
- キラリ
- 帰りたくなったよ
- ふたり
- コイスルオトメ -激情編-
- 涙がきえるなら
- いこう
- なくもんか
- 心の花を咲かせよう
- 地球
DISC 2
- ありがとう
- じょいふる
- ブルーバード
- いつだって僕らは
- 翼
- 歩いていこう
- YELL
- GOLDEN GIRL
- Good Morning
- Sweet! Sweet! Music!
- 1 2 3 ~恋がはじまる~
- 東京
- 恋詩
- 熱情のスペクトラム
- マイステージ
- 会いにいくよ
DISC 3
- 風が吹いている
- 笑ってたいんだ
- ラブソングはとまらないよ
- NEW WORLD MUSIC
- うるわしきひと
- 夏空グラフィティ
- KISS KISS BANG BANG
- 花は桜 君は美し
- プラネタリウム
- LIFE
- ラブとピース!
- 真夏のエレジー
- 笑顔
- 夢題~遠くへ~
-No Fade Out ver.- - ぼくらのゆめ
DISC 4 ※初回生産限定盤付属
- ホットミルク
- 甘い苦い時間
- 二輪花
- 蒼い舟
- 月夜恋風
- 最後の放課後
- 夏色惑星
- おもいでのすきま
- オリオン
- my rain
- 赤いかさ
- ホントウノヒビ
- ハジマリノウタ~遠い空澄んで~
- 白いダイアリー
- ノスタルジア -Original Lyrics ver.-
いきものがかり「超いきものまつり2016 地元でSHOW!! ~海老名でしょー!!!~」
- 2016年8月27日(土)
- 神奈川県 海老名運動公園
- 2016年8月28日(日)
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いきものがかり「超いきものまつり2016 地元でSHOW!! ~厚木でしょー!!!~」
- 2016年9月10日(土)
- 神奈川県 厚木市荻野運動公園
- 2016年9月11日(日)
- 神奈川県 厚木市荻野運動公園
いきものがかり
吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(G)、山下穂尊(G, Harmonica)の3人組ユニット。1999年結成。当初は地元・神奈川での路上ライブを中心に活動し、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくて温かい等身大のポップチューンが老若男女問わず幅広い層から強い支持を集めている。2010年には初のベストアルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」をリリースし、ミリオンセラーを記録した。2012年にはNHKロンドンオリンピック放送のテーマソング「風が吹いている」でグループ史上最長となる7分40秒の大作に挑戦する。2014年12月に7thアルバム「FUN! FUN! FANFARE!」を発表し、2015年には2年ぶりの全国ツアー「いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2015 ~FUN! FUN! FANFARE!~」を開催、25万人を動員する。同年11月に31枚目のシングル「ラブとピース! / 夢題~遠くへ~」をリリース。2016年3月15日にはメジャーデビュー10周年を記念するベストアルバム「超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~」を発表する。