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report東洋化成に聞く 盛況アナログレコード市場の実情

11月3日は「レコードの日」

アナログレコードを普及するべく、昨年11月3日にスタートした催事「レコードの日」。今年も11月3日に合わせてたくさんのアナログ盤の作品がリリースされる。加えて今回は各地でライブイベントやリスニングイベントなどが実施されることになっているので、より多くの音楽ファンがアナログ盤の魅力に気が付かされる機会となりそうだ。ここからは「レコードの日」を主催する東洋化成の本根誠氏にお話を伺いながら、今年の「レコードの日」の概要を紹介していく。

「レコードの日」ロゴ

秋冬にもイベントを

「レコードの日」のポスター。

──今回で2回目の「レコードの日」ですが、改めて始めたきっかけを教えてください。

社内のスタッフたちの間で、「『Record Store Day』のようにアナログレコードを盛り上げる機会が秋冬にもう1つくらいあったらいいんじゃないか」という話が挙がったことがきっかけです。それと、リリースするアナログ盤がネットを通して全国どこでも買えるようなイベントをやりたいという思いもあって。

──正直、まだ「Record Store Day」と「レコードの日」の区別が付いていない人も多いと思いますが、年に2度も催しが行われることで、アナログレコード市場の盛り上がりが一般にも伝わっている気がします。

そうですね。「レコードの日」は去年始めたばかりですが、今年の開催にあたり、事前段階で販売店さんや一般のお客様から問い合わせを多くいただきました。また我々が情報出しすると、すぐに受け止めてリツイートしてくれるアーティストもたくさんいて。今ではアナログレコードで出すこと自体が作品のメッセージの一部のような行為だと思いますので、それをエンドユーザーにストレートに伝えることができて彼らもうれしいんだと思います。

目玉級のタイトルがずらり

──今年のラインナップもバラエティ豊かです。初のアナログ盤の発売となるrei harakamiさんの「lust」や、まさかの7inchでのリリースとなったLAMP EYEの「証言」、かねてからアナログ盤の人気がとても高い金延幸子さんの「み空」の復刻など、目玉級のタイトルがたくさんそろいました。

今回の「レコードの日」で初めてアナログ盤がリリースされるrei harakami「lust」のジャケット。 「レコードの日」に合わせて制作されたLAMP EYE「証言」のアナログ7inchジャケット。

面白いラインナップになりましたね。個人的にはどれも“アナログ盤に適した”タイトルだと思っています。時間的な制約があったので昨年より作品数が減ってしまいまして、できればもっとリリースしたかったですね。

──「アナログ盤に適した作品」とは?

1つは音質的にアナログ盤で聴くと熱くなれるもの。もう1つはジャケですね。アナログ盤はひねくれた装丁をも受け入れる文化なんです。今回で言うと頭脳警察の「頭脳警察1」なんかは、アナログ盤で欲しくなるジャケットですよね。

「レコードの日」と本秀康のコラボトートバッグ。「レコードの日」参加店舗の店頭で5400円以上アナログレコードを購入するとプレゼントされる。

──これらのタイトルは、東洋化成側からレーベルやアーティストにアナログ盤のリリースを持ちかけたものなのですか?

さまざまなケースがありますが、HMVさんやdiskunionさんなどの販売店が作品を制作して、「レコードの日」に合わせてリリースしてくださる場合が多いです。アナログレコードに限ったことではなく音楽ソフト全般が売れづらいご時世なので、メーカーさんとしても着実に売り上げの見込めるアイテムのみの発売に傾注せざるを得ない。それでもアナログ盤が多く再発されている理由は、販売店側が版権の保有者に働きかけ、印税を支払ってアナログ盤を作っているケースもあるからです。もちろんすべてがそうではありませんが。

──販売店側が権利を借りてまでアナログ盤を作っているんですね。

ええ。そして販売店にはお客さん……つまり音楽リスナーの声が届いていますから、そういう意味ではストリートの意思が反映されたラインナップになっていると思います。リスナーが聴きたいもの、アーティストが出したいものがそろったと言っていいでしょうね。それと「レコードの日」では、海外プレス盤の販売もOKにしているんですよ。アナログレコード自体の魅力が伝わればいいですからね。

関連イベントも

──今回の「レコードの日」では、アナログ盤の発売のほかに何か催しはあるのですか?

昨年TECHNICSさんが十数年ぶりに日本でのプレーヤーの販売を復活させましたよね。TECHNICSのSL-1200シリーズは世界で350万台を売っているプレーヤーで、レコード文化への貢献性も高いブランドです。そこでTECHNICSさんと組んで、僕らがやる催事に協力してもらったり、逆に僕らが協力したりしています。例えば吉祥寺のQUATTRO LABOというお店に1カ月間TECHNICSのプレーヤーを置いて、お客さんに自由に聴いてもらえるようにしておくというイベントとか。こちらも11月3日からの開催です。

TECHNICSが2016年冬に発売する最新のレコードプレーヤーSL-1200G。QUATTRO LABOで試聴できるのはこのモデル。

TECHNICSが2016年冬に発売する最新のレコードプレーヤーSL-1200G。QUATTRO LABOで試聴できるのはこのモデル。

──では今後の「レコードの日」の展望は?

最近では弊社だけでも、メジャーとインディーズを合わせて毎月100タイトル以上のアナログ盤が出ていますので、それらすべてを一挙にアピールする催事ができないだろうかと考えています。全タイトルを掌握して、皆さまにお伝えしたいという思いがありますね。

──個人的な質問になってしまいますが、本根さんはなぜアナログ盤に魅かれるのでしょう。

アナログレコードって適切な環境を与えるとちゃんと鳴るけれど、そうじゃないと実力が発揮できないんですよね。しかも時間が経つとどうしても劣化していくし、邪魔くさい。でもそれが可愛いんです。デジタルは人間が死んでも残ると言われていますけど、一緒に歳を取ってしわくちゃになって、傷が付いて音にノイズが乗ったりして、最後は一緒に滅びていける……ってところも含めて、僕はアナログ盤のほうが生々しくて好き。そういう意味で恋愛や結婚に似ていると思っていて……(笑)。

──「ほかのメディアと比べて音質が云々」という話以前に、物としての愛着があるんですね。

音質の話をすると、「どのオーディオでどう聴くか?」を考えることもアナログ盤の楽しさだと思います。でも、ただお金をかければ自分の好きな音で鳴るわけではないんですよね。例えば冷牟田竜之(DAD MOM GOD、MORE THE MAN)さんのオーディオショップでのリファレンスはWild Cherryの「Play That Funky Music」なんですって。「優しい」「豊か」といういうよりもタイトな曲です。冷牟田さんはあの曲の中域がバキッと出ていないとダメらしくて。そのように人には趣味嗜好がありますから、ハイブランドの機材でレンジが広い音源を鳴らしたものが必ずしもいい音というわけではないんです。聴き手に自身が求めるスタイルがあるかどうかが大事だと思います。

「レコードの日」発売タイトル一覧

7inch

  • アシモフが手品師「タネとしかけ c/w N」
  • AWANE and his foundfootage orchestra「something about us」
  • おとぎ話「めぐり逢えたら」
  • おやすみホログラム「ニューロマンサー VMO remix」
  • おやすみホログラム「ニューロマンサー Have a Nice Day! remix」
  • QUANTIC presenta FLOWERING INFERNO「ALL I DO IS THINK ABOUT YOU/ALL I DO IS THINK ABOUT YOU(FAR EAST DUB)」
  • 偶想Drop「Hirari hira hira / I do! I do!」
  • GROOVE UNCHANT「鏡の中の十月 / I Thought It Was You」
  • サイプレス上野とロベルト吉野「PRINCE OF YOKOHAMA 2016」
  • TENDER LEAF「COUNTRYSIDE BEAUTY / BEAUTIFUL HAWAII KAI」
  • シンリズム「彼女のカメラ / ラジオネームが読まれたら」
  • ハナレグミ「深呼吸 / 別れの予感」
  • 平山みき「真夜中のエンジェル・ベイビー」
  • BLUE CAFE / Ritmo Fantastico feat.Yuki Ohta「Le Theme de Blue Cafe pt.1 / Haven't We Met」
  • みうらじゅん&前野健太「変態か / Kill Bear」
  • ミラーボールズ(タイトル未定)
  • LAMP EYE「証言」
  • Los Stellarians「Didn't I / Young Gifted and Brown」
  • TINY PANX、Sexy T.K.O.ほか「MAJOR FORCE MAGNIFICENT 7×5」(7inch 5枚組)
  • 台風クラブ「ずる休み」
  • Charlie-Hz「P.S. I Love You(Takeshi Nakatsuka Twist Edition)」
  • ボンボヤーズ「亜熱帯道中・五月の青い風」
  • 山崎まさよし「Just the Two of Us / Englishman in Newyork」
  • LEARNERS / THE SWING KIDS「LEARNERS×THE SWING KIDS」

12inch

  • いしだあゆみ「アワー・コネクション」
  • 石川晶「BAKISHINBA~MEMORIES OF AFRICA」
  • 大貫妙子「SUNSHOWER」
  • 金延幸子「み空」
  • 纐纈歩美「アート」(180g LP)
  • 国分友里恵「Relief 72 hours」(※メーカー都合により12月14日に発売延期)
  • Keishi Tanaka「What's A Trunk?」
  • 佐野元春「BACK TO THE STREET」(※メーカー都合により12月21日に発売延期)
  • 佐野元春「Heart Beat」(※メーカー都合により12月21日に発売延期)
  • 佐野元春「SOMEDAY」(※メーカー都合により12月21日に発売延期)
  • サロメの唇 「魅惑のゴールデンヒット集」
  • 鈴木宏昌「ハイ・フライング」
  • 頭脳警察「頭脳警察1」
  • ソウル・フラワー・ユニオン「DANCE HITS 2010-2014」
  • The Pen Friend Club「Season Of The Pen Friend Club」
  • Boris+ENDON「EROS」
  • fox capture plan & bohemianvoodoo「color & monochrome LP」
  • 3776「3776を聴かない理由があるとすれば-Vinyl Edition-」
  • rei harakami「lust」(2枚組LP)

2016年12月21日更新