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report東洋化成に聞く 盛況アナログレコード市場の実情

ハイレゾ音源の配信や定額制サブスクリプションサービスの普及などにより音楽リスナーのリスニングスタイルが多様化を極める現在、世界的にアナログレコードが売れている。

デジタル音源と比べると利便性の面で不利だと言えるアナログレコードが、なぜ存在感を高めているのだろうか。現状を理解すべく、音楽ナタリーでは日本唯一のレコードプレス工場を擁する東洋化成の小林美憲氏に、日本におけるアナログレコード事情を解説してもらった。また後半では、東洋化成が主催する催事「レコードの日」を紹介。東洋化成の本根誠氏に概要を伺った。

取材・文 / 加藤一陽

日本のアナログレコード事情

5年前に比べ5倍の生産量

──世界的にアナログレコードが流行していますが、日本ではどうなんですか?

生産量についてはここ5年で5倍。1タイトルあたりのプレス枚数も増えていますし、そもそもアナログ盤を作るタイトル数も増えています。海外に比べて遅れている部分もありますが、徐々に盛り上がってきていると言えますね。

東洋化成のアナログレコードプレス工場にあるカッティングマシンNEUMANN VMS70。

東洋化成のアナログレコードプレス工場にあるカッティングマシンNEUMANN VMS70。

──CD登場以降の日本におけるアナログレコード全盛期は、10~15年前ですよね。渋谷には世界中のアナログ盤が集まったと言われていて。現在のブームは当時のブームとはまた内容が違いそうです。

そうですね。その頃ってDJたちがアナログ盤を使っていました。そのためレコード店の数も買われる量もすごかったんです。1タイトルあたりのプレス数は今より当時のほうが多いと思います。でもタイトル数は当時以上になっています。

カッティング時の様子。

カッティング時の様子。

──そうなんですね。

10~15年前はJ-POPやロックのアナログ盤はそれほど作られてはいなかったんです。クラブ系やマニア向けのものが多かった。その手のジャンルは輸入レコードの数も半端じゃなかったと思います。そのようにDJや一部の熱狂的なファンが市場を牽引していた当時に比べると、今は輸入盤よりも国内アーティストの作品のほうが売れています。つまり一般的な音楽リスナーがアナログ盤を買っている。1タイトルあたりのプレス数はそこまで多くありませんが、タイトル数はかなりのものになっていますから。

正常な役割を取り戻した

──極地的な需要ではなく、幅広く求められているのが現在なんですね。

先ほども言いましたが、当時は新譜のアナログ盤はDJが買うことが多かったので、“2枚買い”もされていたし、12inchシングルなども売れていました。

東洋化成のアナログレコードプレス工場。

東洋化成のアナログレコードプレス工場。

──今はデジタル音源を扱うDJが多いので、同じレコードが2枚なくてもジャグリングできますからね。

そうなんです。12inchもLP、つまりアルバムが売れているんですね。シングルだったら7inchを買う。それらが何を意味しているかというと、クラブユースではなくて、家でリスニングを楽しむためにアナログが求められる傾向になっているということです。正常な使われ方に戻っているとも言えますよね。

東洋化成のアナログレコードプレス工場。

東洋化成のアナログレコードプレス工場。

──DJのツールやサンプリングソースではなく、“聴くもの”として売れていると。ちなみにアーティスト側にとって、アナログ盤を出すことでどんなメリットがあるのでしょうか。

どうでしょうね。アナログ盤ってジャケットは大きいし、レーベルもあるからアートワークを考えるのが大変だと思うんですよ。でもそれは表現したいことをより深く表現できるということでもあると思うんです。作るのには手間と時間がかかりますが、そのぶん“作品を作っている”という感覚をひしひしと感じられる。それは作り手にとっての魅力だと思います。個人的な意見ですが、アナログ盤を出しているレーベルやアーティストには「音楽について真面目に考えているんだな」という印象を持っていて。そしてそう感じるのは僕だけじゃないと思うんです。

ジャンクな魅力もある

──小林さんはアナログレコードのどこに惹かれているのですか?

気持ちいいんですよね。これはもうなんか、理論で説明しろと言われても困っちゃうんですけど。歪みとかノイズとか……理論的には悪いのかもしれないですけど、やっぱり音質が好きなんです。アナログはピュアで音がいいと言われることもありますが、ジャンクな魅力もある。デジタル音源はアナログの悪い点を解消していく方向で作り出されたと思うんです。けど今は逆にアナログ盤の音質に近づけようと思っている人たちが出てきていますよね。それは面白いです。ハイレゾもすごいものはすごいと思いますけど、それとは違ったよさがアナログレコードにはあると思います。

工場で出荷のときを待つアナログレコード群。

工場で出荷のときを待つアナログレコード群。

──東洋化成の今後の取り組みについても教えていただけますか。

受注が増えたことにより以前よりも製造に時間がかかるようになってしまっているので、今はそれを解消すべく動いています。また「レコードの日」などのイベントを通してアナログレコードを聴く方を増やして、さらに定着してもらう。それと、アナログの聴き方や買い方をレクチャーできる場を設けられたいいですね。“わからない”が原因でアナログ盤に手を伸ばせない人も確かに多いと思うので、そのあたりをフォローしていけたらと思います。


2016年12月21日更新