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column 音楽メディアとリスニングスタイルの変遷

APPLEが新たに発表したiPhoneシリーズの最新モデルであるiPhone 7は、本体からイヤフォンジャックが姿を消したことが大きな話題となった。各メーカーからワイアレスに対応したヘッドフォンやイヤフォンの新機種が続々と発表される中での出来事ということもあり、iPhone 7の決断は“無線”という新たなリスニングスタイルへの流れを加速させるものと言えそうだ。振り返ってみれば、「ダウンロードした楽曲をスマートフォンで持ち歩く」というのは今では当たり前だが、ほんの数年前までは想像もできなかったこと。そういった現状を踏まえ、ここでは音楽のリスニングスタイルの変遷を簡単に振り返ってみたい。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

アナログレコード、カセットテープ

アナログレコードプレーヤー

“リスニング”の歴史を考えれば、19世紀、蓄音機とSPレコード(SPはStandard Playの略)の時代にまでさかのぼる。日本レコード協会によると、日本で初めて国産のLPレコード(LPはLong Playの略)が販売されたのは1953年8月のこと。それから音楽を再生するためのステレオ機器も進化し、一般家庭でもレコードで気軽に音楽を楽しめる時代が訪れた。リスニング環境の進化に伴いポピュラー音楽も大きく発展して、時代にマッチした楽曲のレコードは大ヒットを記録。例えばフジテレビの子供向けの番組「ひらけ!ポンキッキ」から生まれ、1975年に子門真人の歌唱でシングルリリースされた楽曲「およげ!たいやきくん」は爆発的なヒットとなり、現在もなお邦楽シングル売上数において1位の記録をキープしている。

子門真人「およげ!たいやきくん」の7inchレコード。

子門真人「およげ!たいやきくん」の7inchレコード。

もともと標準的なアナログレコードであったSPレコードが1分間に78回転という回転速度だったのに対し、その後に登場したLPレコードは1分間に33 1/3回転。このLPレコードの登場により、片面に20~30分ほどの音楽を収録することが可能に。この収録時間の増加が「アルバム」という作品形態を生み、楽曲の収録順をドラマチックに構成したコンセプチュアルなアルバム作品も数多く生み出された。一方、1分間に45回転で、7inch(直径17cm)とコンパクトなEPレコード(EPはExtended Playの略)は1~2曲のみを収録する「シングル」として発展。レコードになじみのない世代には、現在でもたまに使われる「両A面シングル」という言葉にピンとこないかもしれないが、これは裏表をA面とB面で分けていたアナログレコード時代の名残りだ。

7inchのEPレコード(左)と12inchのLPレコード(右)。

7inchのEPレコード(左)と12inchのLPレコード(右)。

カセットテープ

そしてアナログレコードの時代には、レコードを録音して気軽に扱えるカセットテープも登場。アナログレコードのほかにも、ラジオやテレビの音声などを録音して楽しむ向きもあった。このカセットテープは、そのサイズから再生機器の小型化を促進させていく。エポックメイキングだったのは1979年にSONYが発売したポータブルカセットプレーヤー・Walkmanだろう。これにより「音楽を持ち歩く」という新たなリスニングスタイルが生まれた。その後はポータブルCDプレーヤー、MDプレーヤー、デジタルオーディオプレーヤー、スマートフォンと、手のひらサイズの再生機はどんどん進化していく。

CD、MD

CD

1982年10月、SONYより世界初の民生用CDプレーヤー・CDP-101が発売され、同時に音楽レーベルのCBS・ソニーやEPICソニー、日本コロムビアが世界初のCDソフトを発売した。記念すべきCD第1号は、ビリー・ジョエルのアルバム「ニューヨーク52番街」。盤の溝を針でこすって音を出すアナログレコードと違って物理的劣化がないことや、コンパクトなサイズにLPレコード以上の情報が記録できることから、CDは1980年代後半にはアナログレコードに代わる音楽メディアの主流となった。

CDの登場によりA面、B面の概念がなくなったことは、アーティストたちの作品性にも大きな影響を与えることになる。例えばピチカート・ファイヴはCDのみで発売することを前提にした作品「女王陛下のピチカート・ファイヴ」(1989年7月発売)で、約60分におよぶアルバムの全体像を途切れなく表現するべく、さまざまなエディットを施した。またデザイナーの信藤三雄氏は同作で、CDのプラスチックトレイに透明ケースを採用。トレイの裏側までデザインする手法を初めて取り入れた。

透明ケースで裏面までデザインが施されたピチカート・ファイヴ「女王陛下のピチカート・ファイヴ」のアートワーク。

透明ケースで裏面までデザインが施されたピチカート・ファイヴ「女王陛下のピチカート・ファイヴ」のアートワーク。

「女王陛下のピチカート・ファイヴ」の歌詞カードはブックレットではなく折り畳み式。

「女王陛下のピチカート・ファイヴ」の歌詞カードはブックレットではなく折り畳み式。

そしてCDと同じく光ディスクを使用した記録メディア、MD(Mini Disc)が登場したのは1991年のこと。カセットテープ並みの手軽さで、記録した楽曲データのトラック分けや結合・消去などが容易にでき、サイズはわずか2.5inch(64mm)。ビットレートを下げることにより長時間の録音も可能で、カセットテープに代わる録音&再生メディアとして日本では広く普及した。

CD以降のデジタルオーディオ

1995年のMICROSOFT Windows 95の登場を機に、一般家庭にもパソコンとインターネットが普及。ISDN、ADSL、光回線と高速化するネットの発達で、音楽は物理的な形を飛び越えてリスナーの元へ届けられるものになった。

パソコンが普及したあとは、CD内データをパソコンのハードディスクにコピーしたり、配信サイトなどから音楽データをダウンロード購入したりすることがスタンダード化。ハードディスクの進化も手伝って、“音楽の容れ物”はもはや無限大とも言える状態になり、現在のように大量のストックから1曲ずつピックアップして、あるいはランダムに再生して楽しむ時代に突入していった。現在でもCDは生産され続けているが、すでにCDよりも配信によって音楽を購入することが主流になっている国もある。また楽曲単位ではなく、定額料金を払うことで好きなだけ音楽が聴き放題のサブスクリプションサービスが人気を集めるなど、音楽のリスニングスタイルの歴史は現在進行形で進んでいる。

なお配信音源で使用されるMP3、AAC、WMAといったファイル形式は、もともとの音源から人間が耳で認識することができない周波数帯域を間引いて、データの容量が小さくなるよう圧縮したものが多かった。圧縮ファイルの普及は、よりたくさんの曲を持ち歩いたり、インターネットで配信することを可能にしたが、データを圧縮すればやはり音質の劣化は避けられない。このような現状の中、とりわけ存在感を高めているのが“ハイレゾ音源”だ。


2016年12月21日更新