HYDE|「黑ミサ」が導いた新たな岐路

HYDEが自身の誕生日である1月29日にライブBlu-ray / DVD「HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黑ミサ BIRTHDAY -WAKAYAMA-」をリリースした。

本作は2019年1月29日、彼が故郷にある和歌山・和歌山ビッグホエールで開催したアコースティックコンサートの模様を収めた作品で、アンコールを含めたほぼ全編がノーカットで収録されている。HYDEの節目の誕生日を記念して行われたこの日の公演には、サプライズゲストとして盟友であるKen(L'Arc-en-Ciel)も出演し、「White Feathers」を披露するという特別な演出もあった。そこで今回は、HYDEに故郷への思い、「黑ミサ」で感じたこと、そして2020年の展望を聞いた。

取材・文 / 中野明子 撮影 / 緒車寿一

故郷で「黑ミサ」を開催して吹っ切れた

──昨年1月29日にHYDEさんの出身地である和歌山で行われた「黑ミサ」がついに映像化されました。もともと「黑ミサ」はファンクラブ限定のディナーショーから始まったそうですが、今回ご自身の地元で大きな規模で開催しようと思った理由はなんだったんですか?

2017年に幕張メッセで開催したときに大きな反響があって(参照:HYDE、幕張「黒ミサ」で18曲熱唱「来年もみんなを楽しませる」)。その後、「黑ミサ」をアジアでやってほしいという要望を受けて2018年にアジアツアーをしたときにも反響があったので、「これだけ人気があるんだったら、自分の誕生日に地元の大きな会場でやるにはすごくちょうどいいんじゃないか」と思ったんです。和歌山出身の人間としてはいつか和歌山ビッグホエールでライブをやりたいとは思ってたんですけど、和歌山であんな大きな会場でやってお客さんが入るかなという心配があって。でも、自分の誕生日と「黑ミサ」の組み合わせだったらいけるんじゃないかと。

HYDE(撮影:田中和子)

──HYDEさんほどのキャリアがある方でも、和歌山の大きな会場で公演をするのは難しいですか?

難しいですね。ビッグホエールが作られた当初、「なんでこんなに大きいハコを和歌山に作ったんだろう?」と思ったんです。地元民の感覚としたら、満員にしようと思ったらよっぽど人気のあるアーティストじゃないと難しい。そもそも、ビッグホエールを満員にできるアーティストなら、大阪で何日かドーム公演ができるような人だし。だったらわざわざ和歌山でライブをやる必要はないでしょ(笑)。ただ、「黑ミサ」だったらいけるだろうと。

HYDE

──過去の実績を踏まえて地元での開催を決められたと。ご自身の誕生日にここまで大きなイベントをされるようなことは今までは……。

なかったですね。

──プロフィールについてもHYDEさん自身はこれまで公にされてはいませんでしたよね。コンサートのMCでは和歌山への思いやご自身の年齢などを語っていました。

今さら隠してもね(笑)。素性も年齢も何もわからないような謎のあるアーティストに憧れて音楽活動を始めたんだけど、ところどころで自分の情報が漏れたり、誤解があったまま世に出た情報があったりして。インターネット社会になった状況では隠しようはないなと思ってたんです。どこかのタイミングで自分のことを明らかにするほうがスムーズなのかな。で、和歌山でバースデーコンサートをすることを決めてから吹っ切れた部分はありますね。

──コンサートを経て何か変化はありましたか?

コンサートをやる前は、自分がここまで和歌山をプッシュする存在になるとは思ってなかった(笑)。

──(笑)。「黑ミサ」の和歌山公演の2日目には「和歌山市ふるさと観光大使」の任命式が行われましたね(参照:HYDE「和歌山市ふるさと観光大使」就任、地元の黒ミサ最終公演で任命式)。

就任することが決まったときは、僕ができることはあまりないだろうなと思ってたんですけどね。でも普通の人よりは影響力があるからか、Twitterでのつぶやき1つでも妙に拡散されるので、それを見てこれは貢献できることがあるなと。自分がやれること、興味があることを発信しようかと思うようになったんです。そうすると、例えば雑誌や新聞を読んでいるときでも「和歌山」という文字があると頭に入ってくるんです。それでもっと知りたくなって調査するし。以前より和歌山に詳しくなりましたね。

左からHYDE、尾花正啓和歌山市長。(撮影:田中和子)

──若い頃と比べて故郷に対する思いは違いますか?

違いますね。今は落ち着く場所、懐かしむ場所、郷愁を感じる場所になりました。それと「この街、かわいいな」と思うようになりましたね。昔は全然気にしてなかったけど港町独特の雰囲気のよさとか、ただの古い家だと思ってたけど今見るとかわいいなあと思ったり(笑)。

──和歌山観光大使としての活動の一環で、昨年の12月からラッピングトレインが地元で走っています(参照:和歌山市ふるさと観光大使HYDE、南海電鉄の特急サザンとコラボ)。意外なコラボに驚きました。これは約1年にわたって走行するんですよね。

デザインのアイデアを練るのに時間をかけました。自分のこだわりもありますけど、和歌山のよさも表現したいし、「黑ミサ」のよさも出したいので、それを含めてどうやったら地元で愛される存在にするか考えてデザインしました。一時期だけ「黑ミサ」をアピールするだけではなくて、1年間親しまれるような列車であってほしくて、そのイメージを大事にしました。この電車がホームに入ってきて陰鬱な気持ちになられても困るし(笑)。「黑ミサ」とのコラボだからとゴシックになりすぎてもね。どうせなら和歌山をアピールできて、かわいい電車でありながら、HYDEのイメージを壊さない……そのバランスを考えました。