HYDE|「黑ミサ」が導いた新たな岐路

「ファンを泣かせてやろう」と思ってたのに

──さて、昨年の「黑ミサ」は2017年の幕張公演、2018年のアジアツアーとはかなりセットリストを変えられていました。特徴としてはL'Arc-en-Cielの楽曲も半分近く組み込まれていて、ご自身のキャリアを総括するような内容でした。

HYDE

これまではソロのときにラルクの曲を歌うのは避けていたところがあったんです。なるべく自分名義の曲でやりたいと思っていたんですけど、今回は誕生日ということもあって、そういったこだわりをなくして自分が歌いたい曲、節目となった曲を選びたいと思って。そうしたら、こういうセットリストになった。1つひとつが自分の中で意味のある曲ですね。

──すべての曲にオーケストラアレンジが施されているのも特徴です。オーケストラの演奏の中で歌うことで感じたことはありますか?

オーケストラ全体が生き物のような感じなんですよね。それが作り出す波に自分がノれたときの感覚、演奏の抑揚を感じるのは気持ちがいいし、聴いている皆さんにもそれが伝わると思うんです。曲の細部まで染みる感じというか。

──確かに映像を通しても、オーケストラが作り出すグルーヴの中心にHYDEさんの歌があり、すべての音が溶け合っていくのを観ているのはとても心地よかったです。編集にあたって何度も映像をチェックされたそうですが、ご自身で映像を観て「ここがハイライトだったな」と感じたところはありますか?

一番は「MEMORIES」かなあ。歌ってるときに和歌山の風景を思い浮かべたし、友人と離れて寂しかったことも思い出したし、その景色を背負って生きていく思いも感じたし……この曲は泣かずには歌えないですね。そして泣かずにライブ映像を観れたことがない(笑)。映像チェックを何度もしましたけど、いまだに泣いてしまいますね。HYDEがHYDEにもらい泣き(笑)。それと最後に披露した「White Feathers」はラストにふさわしいシーンでしたね。サプライズでKenさんも来てくれたし。

──Kenさんがいらっしゃるというのは本当にサプライズだったんですか?

知ってたらあんな反応しませんよ!(笑)

──あまりにもステージ上の準備が万端だったので一瞬ご存知だったのかと疑ってしまいました。確かに戸惑いと喜びが混ざったようなリアクションされていましたね。

ふふふ(笑)。何もかもが驚きでしたね。Kenさんが来たのも驚きだったし、ギターがステージにあったのにも驚いたし、みんながいきなり演奏し始めたのもびっくりしたし……もうすべてがサプライズで完全にしてやられました。自分のライブに華を添えていただいた感じでしたね。もちろんあのまま「星空」で完璧に終わるのもありだったと思うんですけど、見事なハイライトを作ってもらって、ファンも喜んでくれたしすごくよかったと思います。

左からHYDE、Ken。(撮影:岡田貴之)

──KenさんはMCで「HYDEは俺のアイドルのようだ」とおっしゃってました。

いやあ、うれしいですね。一緒にバンド活動をしていて、節々でそう思ってくれているということは感じてましたけど(笑)。

──それと、ご自身にとって「黑ミサ」は“ご褒美”だと言っていて。観ている側からすると普段のライブとはだいぶ異なる内容ですし、準備にも時間がかかるでしょうし、同時に成功させなきゃというプレッシャーもあるので大変なことのほうが多いのでは?と思うのですが。

HYDE

もちろん当日までは自分で“お膳立て”はしましたけど、お客さんに会場に集まってもらってからは自分へのご褒美ですよ。ファンが「HYDEを観に来てよかったな」と思ってもらえることが自分にとっての最大の喜びだし、実際に喜んでもらえる時間を作ることができたので。そもそも準備している間も仕事という感じがなかったし、「来た人を感動させてやろう」という気持ちで準備していましたね。まあ、「ファンを泣かせてやろう」と思ってメニューとか作りましたけど、逆に自分が泣いてしまって(笑)。普段から人を笑わせようとしても、自分が先に笑っちゃうタイプなんです。

──(笑)。最近のHYDEさんはご自身の感情を素直に表している印象があります。

昔は泣くことが恥ずかしかったけど、最近は恥ずかしくなくなりましたね。もう汗みたいなもので、人として泣くことが自然だなと思うようになった。前は感動するタイプの映画を観るのも恥ずかしくて、「僕はホラー映画しか観ない」とか思ってましたけど。今は素直に感動できる映画も観れるようになりましたね。逆にここ最近はスプラッタホラーなんて観れないし、血なまぐさいものとかグロいのは無理になっちゃいました(笑)。