HYDE|「黑ミサ」が導いた新たな岐路

「僕の人生に悔いはない」の真意

──映像を編集していた際に、「MEMORIES」「White Feathers」以外に印象に残ったシーンはありましたか?

ハイライトというよりは、映像がほぼノーカットな部分ですね。KenさんのMCが数十秒カットされてますけど(笑)。そこ以外は、コンサートが始まってから曲と曲の間、僕の息遣いなんかも含めて全部入ってます。曲が終わって拍手が起きて、次の曲が始まるまで咳払いもできない感じ……あの緊張感。僕は独特の雰囲気があるのが「黑ミサ」のいいところだと思ってるんです。その空気感を封じ込めたくて、間も含めて楽しめるようにこだわりました。あとは字幕! 歌詞も含めて楽しんでもらえるように、歌詞と英詞の日本語訳の字幕も出るようにしたり、ブックレットに1曲1曲の解説を付けました。歌詞を知ることで感動することもあるだろうし。僕のことを知らない人が観てもちゃんと感動できるような作品を目指しました。地元のおじいちゃんおばあちゃんが「HYDEってこういう人なのかい」とわかってもらえるような(笑)。

「HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黒ミサ BIRTHDAY」の様子。(撮影:岡田貴之)

──音楽を聴くうえで歌詞は重要視する部分ですか?

そうですね。僕の場合、英語の曲も多いからね。あと、人のコンサートに行ったときにどんなに丁寧に日本語で歌ってくれても、何を言ってるかわからないと感動が薄れてしまうんです。もちろんメロディの美しさやサウンドでも感動できるんですけど……それを人のライブを観て感じたときに、僕のライブを観てそう思う人もたくさんいるだろうなと。言葉でも感動してもらいたいというのがあって字幕を付けました。

──歌詞とは少し異なりますが、言葉という意味ではMCでも印象的な発言が多かったように感じました。

うーん、でも自分では何を言ってるのか覚えてないんですよね(笑)。映像を観て思い出したくらい。アンコールのサプライズのあとはどうやって締めるんだろうと客観的に観ながら心配になりましたよ。でも最後に「皆さんに会えたことが最高の誕生日プレゼントです」と言ってて、「ええこと言うな、お前」と我ながら思いました(笑)。

──「僕の人生に悔いはない」といった発言もありましたが。

ええ。自分のゴールをどこに定めるかで何をすべきか決まってくるんですね。

──はい。

HYDE

とりあえず僕は1つひとつやりきることを意識していて。例え失敗してもいいから毎日やりきる。あの日のステージ上では、自分でやりきったと感じられたので「悔いはない」と言いました。友人や家族、たくさんのファンが来てくれるだけでも、これまでのたくさんの失敗が水に流れてしまった。失敗もここに来るためだったら、仕方がないことだったなと思いましたね。終活と言うんですかね? そんな気持ちもありました(笑)。

──HYDEさんのお歳にしては早い気もしますが……。

でも、「黑ミサ」をやったことで自分自身の整理整頓ができたんで、あの瞬間は本当に悔いはありませんでした。

──かといって、燃え尽きたわけではなくて、そこから新しい夢や活動の方針が生まれたりもしている。

もちろん。だから「黑ミサ」はいい区切りでしたね。

肩を並べたい対象はhideさん

──「黑ミサ」を含めていろんなトピックがあった1年だったと思いますが、HYDEさんにとって2019年はどんな1年でしたか?

「黑ミサ」で始まって、本当に一瞬で駆け抜けた印象です。ただ1つひとつの活動を振り返ると濃厚でしたね。アメリカツアーが2回とアジアツアーもあったので、海外で50本以上ライブをやって。それ以外にも国内ツアーをやって、合間で曲を作ったり、レコーディングをしたりして、いろんなことをした1年でした。仕事を減らそう減らそうとしているのに。

──そうは見えないのですが……。

どんどん活動が濃厚になってるんですよ。自分の最終的な目標を考えると、やらざるを得ないという感じです。

──最終的な目標というのは「ANTI」のリリース時のインタビューでおっしゃっていた、アメリカでアーティストとして評価されることですか?(参照:HYDE「ANTI」インタビュー

はい。

──2019年の活動を経て、その目標に対する手応えはありますか?

あります。めちゃめちゃバンドも成長してるしね。ただ、やればやるほど別の部分が見えてきて、「ここをもっとこうすればいいのに」といった発見もあるので、バンドも自分も成長してはいるんですけど、もっとやりたいことが増えてきました。だからまだ進化の途中。やっぱり、アーティストとして生まれたからには、聴いている人に爪痕を残したいんです。僕自身、客観的にHYDEというアーティストを見たときに「まだまだつまんねえやつだな」と思うんです。

──そうなんですか?

HYDE

自分よりもっとすごい奴らがいるし、そこに肩を並べるようなアーティストになって死にたいんですよ。まだまだやらないといけないことばかりで、仕事を減らしたいけどこれくらいこなしていかないと自分の理想には近付けない。

──具体的に肩を並べたい対象というのは?

日本だと一番はhideさんですね。今、あの人が生きてたらどうなってたんだろうって思うし、僕よく迷ったときに「hideさんだったらどうしたかな?」と思うんです。彼は今でもすごい人。

──確かにhideさんは先見の明がありましたし、亡くなって20年が経った今も大きな影響をたくさんの人たちに与えています。ところでHYDEさんが爪痕を残したいというのは、ご自身の歌の話ですか? それともHYDEという存在を残したいと思っているんですか?

両方ですけど、どちらかと言えばHYDEという存在かもしれない。でも、歌もまだまだ進化させたいね。歌への取り組み方が今までぬるかったんです。前は歌えない曲やフレーズがあったらあきらめていたけど、今はどうやったら歌えるのか考えて。それがクリアできたときに歌がグッと伸びるんですよね。やってなかった分、伸びしろがある。今までは楽しくなかったからこそやってなかったところがあったけど、歌を楽しむためには練習しなくちゃいけないと気付いて。

──そして歌い続ける思いは変わらないと。

うん。前もお話しましたが、歌うことが僕の宿命だし、天職だからね。僕が歌うことによって少なからず誰かが救われるような存在ではあると思ってるので。

──2019年はTHE ORAL CIGARETTESをはじめ新しい世代とのコラボレーションやイベントでの競演の機会もたくさんありましたが、そこから刺激を受けることはありましたか?

あります。僕は井の中の蛙の時代が長かったので、若手の活動を見たり、音楽を聴いたりすると目からウロコが落ちますね。「ああ、こういう曲でお客さんは盛り上がるんだな」とか。アメリカも含めて、いろんなバンドを観て、自分の立ち位置を理解しないとつまらないアーティストになるなと。もちろんオンリーワンを目指さなきゃいけないけど、周りのことも理解しないといけない。今、視野がどんどん広がっている感じです。

──最後に、2020年の展望について教えてください。

L'Arc-en-Cielのツアーもありますけど、ソロとしては2019年と近い活動の形になると思います。チャンスがあればアメリカに行ってライブもしますし、国内でもツアーをしますし。新作の制作も始まってるんで、目標としては2020年内にアルバムを出せたらいいですね。

HYDE