2025年に迎える結成25周年に向けて、昨年からさまざまな活動を展開してきたHY。2024年の大晦日には約12年ぶりに「NHK紅白歌合戦」に出場し、新年への勢いを付けた。
そんなHYがニューアルバム「TIME」をリリースした。本作には公開中の映画「366日」の主題歌「恋をして」を含む、さまざまな“時間”に思いを寄せた楽曲が収められている。音楽ナタリーではHYメンバー4人にインタビューを行い、「紅白」出場時の舞台裏や、今後も続いていくアニバーサリーイヤーへの思い、そしてアルバム収録曲についてじっくり話を聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 山口真由子
「終わったら、いつ死んでもいい」12年ぶり「紅白」の裏側
──昨年から今年にかけて、25周年アニバーサリーイヤーとして全国ツアーをはじめさまざまな活動が繰り広げられていますが、手応えはどうですか?
新里英之(Vo, G) 「25周年、みんなで盛り上げよう!」「行くぞ! 走るぞ!」という気持ちでここまで来て、すごく充実した活動ができてますね。
名嘉俊(Dr) やっぱりツアーの存在は大きいです。今回はベスト盤(「LOVE STORY~HY BEST」)を携えたツアーですけど、一緒に25周年をお祝いして、皆さんには日頃の自分を労ってもらって、温かい空気感の中で全国を回れているし、すごくハッピーです。
新里 うん。ファンのみんなとか周りの方々に「25周年おめでとう」「ここまでバンドを続けられるって、すごいよね」と言ってもらって。これまでのことを振り返ることでさらに皆さんに感謝するようになったし、いろんな経験が自分たちを後押ししてくれる感覚もあるんですよ。ライブのときの気持ちも変わってきました。以前は緊張感があったし、目の前のことだけで必死でしたけど、今は周りをちゃんと見ながら楽しめています。25周年のお祝いにどっぷり浸かりつつ、すごくいいツアーになってますね。
仲宗根泉(Key, Vo) ツアーが始まる前は個人的にちょっと緊張してたんですけど、始まったら「メンバーもファンも、みんな仲間だよね」という気持ちになって。どこに行ってもホーム感があるし、MCのときにお客さんとやりとりして、「今日はこういう人たちが来てくれるんだな」と実感したりしています。
許田信介(B) 自分も楽しんでやれてます。いつも来てくれる方の姿を見て安心している自分もいるし、ひさしぶりに来たという声にうれしくなったり。改めて「ありがとう」という感謝の気持ちを込めてライブができています。
──2024年の大晦日には12年ぶりに「NHK紅白歌合戦」に出演し、名曲「366日」を披露しました。
名嘉 総括プロデューサーの方が本番前に「一緒に素敵な時間を作りましょう」と挨拶してくださって、その時点でウルウルしちゃって。でも「紅白」の現場はやっぱり緊張感がありましたね。
仲宗根 私はもう「これが終わったら、いつ死んでもいい」くらいの気持ちでした。ドラマ「366日」のためにデュエットバージョンを作ったから、去年はヒデ(新里)と一緒に「366日」を歌うことが多かったんです。でも「紅白」は私1人で歌うオリジナルバージョンだったので、プレッシャーがすごかった。「めちゃくちゃ緊張するんだろうな」と思って当日を迎えたけど、以前出演させてもらったこともあったので、意外と落ち着いていました。
──すごく集中しているのが画面越しに伝わってきました。
仲宗根 無事に歌えたというより、すべてを出し切った感じだったかな。出番が終わったあと、友達とごはんを食べたんだけど、そのときもボーッとしてて。1年間ずっとハードな中、いろいろと思うこともあったし、「みんなで乗り越えた」という気持ちもあったし……。そしたら友達が「ヒデがインスタライブやってるよ」と教えてくれて。ヒデはライブのあとも配信したりしてるんですけど、「紅白」のあとも感想をしゃべってたんです。それをラジオみたいに聴いてたら、「Dメロでカメラが引いて、メンバー全員が映るところでみんなイズ(仲宗根)のほうを見てるから、録画している人は見てみて」と言ってて。バラードを演奏するとき、メンバーは手元や遠くのほうを見てることが多いんだけど、「私のほうを見てたんだ」と。そんなの25年で初めてだったし、なんだか泣けてきましたね。
名嘉 ……俺は普段からけっこう見てますよ(笑)。ドラムだから位置的にメンバーが目に入りやすいというのもあるけど。HYのライブはクールな感じではないし、お客さんかメンバーを見てることが多いです。
仲宗根 そっか(笑)。でも「366日」を歌ってるときにみんながこっちを見てることってなくない? あれって打ち合わせしてたの?
許田 打ち合わせはしてないね。「楽しんでやろう」と言って、その流れで自然と見てたのかも。
新里 その前に俺と信介の目が合ったよね?
許田 うん。
新里 俺はあのときも「イズを応援しよう」という気持ちだったんだよね。
仲宗根 そうなんだ。2人が目を合わせてるのは見えたから、「仲よくやってるな」と思ったけど(笑)。
新里 (笑)。「紅白」の演奏はチームワークの結晶だと思います。
皆さんの時間軸の一部になってほしい
──では2年4カ月ぶり、通算16枚目となるニューアルバム「TIME」について聞かせてください。心から元気になれる作品だなと思いました。
仲宗根 ありがとうございます。私たちとしては、いろんなバリエーションのHYが詰まったアルバムだと思ってます。
新里 そうだね。
──「TIME」というタイトルにはどんな思いが?
名嘉 25周年というのもあるし、いろんな“時間”が込められた作品だなと。HYとファンのみんな、スタッフ、家族との時間の中で作ってきた楽曲もあるし、今のことを歌った曲、これからのことを歌った曲もあるから「TIME」というタイトルが合うと思いました。このアルバムが聴いてくれる皆さんの時間軸の一部になってほしいという気持ちもあります。あと、2曲目以降はレコーディングした順番に収録してるんですよ。リード曲の「恋をして」を1曲目にして、そのあとは“作った順”です。2曲目の「きのこいぬ」は去年の今頃作りました。
仲宗根 1年前くらいだよね。このアルバムは「1カ月集中して作る」という感じではなくて、ほかの活動をしながら「この3日間で1曲レコーディングしよう」みたいなことが多くて、1曲1曲仕上げていった感覚がありますね。
名嘉 曲を並べて、「この順番で作ってきたんだな」と改めて気付けたのもよかったです。
許田 時間に追われることなくレコーディングできたし、自然な流れの中で制作に臨めましたね。ライブで演奏している場面が想像できる楽曲が多くて、披露するのが楽しみです。
新里 この1年はかなり忙しかったんですけど、自分たちにとってはお祝いの年で、すごくリラックスできていたんですよ。曲作りやレコ—ディングも楽しんで自由にやれたし、それぞれの個性を思い切り出せたアルバムになっていると思います。
恋愛だけではない「366日」そして「恋をして」
──ここからは収録曲について詳しく聞かせてください。1曲目「恋をして」は「366日」をモチーフにした映画「366日」の主題歌です。
仲宗根 「366日」は去年ドラマ化されて、ドラマと同じように映画も「366日」が主題歌になるのかなと思ってたら、「新曲でお願いします」というお話をいただいて。そこでまず、ヒデと私の2人で歌う曲にしたいと思いました。「366日」をたくさんの方に聴いてもらえたことで、私がHYのボーカルという印象を持たれることもあるんですけど、自分としてはそれが悔しくて。映画「366日」の主題歌として新曲を書くのなら、「ヒデがHYのボーカリスト」というところをしっかり見せたくて、私のパートは鍵盤とハモリ、メインで歌うのはヒデという構成にしました。
──“「366日」のアンサーソング”というテーマもあったそうですね。
仲宗根 はい。「366日」は17年前に作った曲で、そのときは自分の中の「好き」という思いや、「こんなに好きなのに、どうして?」と相手にすがりつくような愛を歌っていたんです。その後、自分たちの生活環境が変わってきて、少しずつ曲に対する思いも変化して。一番大きかったのは、2011年3月11日の震災のあと、被災された方々の前で歌わせていただいたことです。その中には大切な人を亡くした方もいらっしゃるし、恋愛の曲を歌うことにすごく違和感があった。そのときに初めて「会えなくなってしまった、あなたの大好きな人たちのことを思って聴いてみてください」という話をして……。そこから私の気持ちも変わって、「366日」は浄化の歌でもあると思うようになりました。
──楽曲の意味合いが広がった、と。
仲宗根 うん。「366日」の映画の話をいただいたときも、そのときの話をさせてもらって。「366日」は2度と会えない人のことを思って歌っているから、恋愛だけの映画にしてほしくない……ということをお伝えしたら、それを見事に物語に落とし込んでくれました。「恋をして」も恋愛だけではなく、家族や友達のことを思ったり、それぞれの人生を振り返ってもらえたりする言葉を歌詞にちりばめているんです。
新里 イズが「恋をして」を作ってきたときから、1つひとつの歌詞に深さを感じて、いろいろな経験やバックグラウンドからこの言葉たちが生まれてきたんだなと思いました。鋭さと温かさの両方が感じられたし、みんなでプリプロしながら「これはすごいな」と話しました。その日、家に戻ってから「とってもいい曲だから、みんなで盛り上げていこう」とメンバーにメールをしたのを覚えてます。映画も素晴らしいんですよ。「366日」に寄り添いながら、さっきイズが話したこともしっかり描かれていて。エンディングで流れる「恋をして」を含めてすべてがつながっているので、ぜひ観てほしいです。
名嘉 自分たちの地元も映画にめっちゃ出てくるんですよ。
仲宗根 通っていた母校も出てくるし、アーティスト写真を撮った場所もロケに使われています。
新里 海中道路を走るシーンもあるよね。沖縄の空気を感じてもらえると思います。