HYが15枚目となるオリジナルアルバム「Kafuu」をリリースした。
本作には2次元の恋人に対する愛を描いたバラード「スイッチ」、「自分の足で前に進んで、素敵な輝きを見つけよう」というメッセージが込められた「キラリ」、沖縄への思いを歌った「優しい世界」など9曲を収録。沖縄の方言で“いい知らせを運ぶ”という意味を持つ「Kafuu」というタイトル通り、ポジティブなパワーや幸せがたっぷり伝わってくる作品となっている。
音楽ナタリーでは新里英之(Vo, G)、名嘉俊(Dr)、許田信介(B)、仲宗根泉(Key, Vo)にインタビュー。「自分たちの生活の中で、しっかり時間をかけて制作できた」という本作について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 曽我美芽
生活の中でゆったりと作れたアルバム
──ニューアルバム「Kafuu」はポジティブなパワーにあふれた作品ですね。
新里英之(Vo, G) よかったです。ありがとうございます。
──前作「HANAEMI」以来1年7カ月ぶりのアルバムですが、制作はいつ頃始まったんですか?
新里 どうだったかな? タイミングが合ったときに、みんなで曲を出し合って。今回は「さあレコーディングしよう」と期間を決めてやるんじゃなくて、ゆっくり時間をかけてできあがっていったんですよ。
名嘉俊(Dr) 生活に馴染むというか、自分たちの日常の中で生まれたアルバムなんです。今までは「よし、アルバム作るぞ!」という感じで作り始めることが多かったんですけど、今回はそうじゃなくて。沖縄でいろんなお仕事をやりながら、「今週、レコーディングしようか」みたいな感じで少しずつ作っていったんです。気付いたら曲が溜まっていて、「アルバムにする?」っていう。
仲宗根泉(Key, Vo) 作り方が今までと全然違っていたから、すごく新鮮でしたね。アルバムを作った感覚がないというか、「いつの間にか完成していた」みたいな感じです。
許田信介(B) 日々の生活の中でゆったり作れたので、変に焦ることもなくて。楽しみながら制作できましたね。
新里 今までは大きな紙に行程表を書いて、それを1つひとつ埋めていたんですよ。喉の調子なども考えながら、流れの中で作っていて。今回はそれもやらなかったんです。
名嘉 あと、メンバーそれぞれがHY以外の時間を持てるようになったのも大きいと思っていて。俺だったら絵本(2022年3月発売「バードランド」)を作ったり、イーズ(仲宗根)はYouTubeチャンネルをやってたり、ヒデ(新里)はソロ活動だったり、信介もプロテイン飲み続けているし(笑)。
許田 (笑)。
名嘉 それぞれの時間の中で曲が生まれて、みんなで形にして。そういう作り方の第1作だと思いますね、今回のアルバムは。
──HY以外のプライベートな時間も充実していたと。
仲宗根 そうかもしれないですね。私の場合は娘と一緒の時間を作るようにしていて。以前は男性メンバーに対して申し訳ないと思って、「子供との時間を持ちたい」と言えなかったんです。最近はそれもちゃんと言えるようになったし、以前よりゆとりもできて。その中でふと「こういうふうに曲を書いてみようかな」と思うことも増えたんですよね。コロナ禍でライブができない時期もありましたけど、この2、3年、自分としては充実した時間を持てた気がします。子供が大きくなることで、自分も成長させてもらっているので。
新里 自分も以前は常に「HYのメンバー」という意識があって。「何か曲の材料はないか」と、いつも気を張ってがんばっていたというか。でも3年前くらいから自分の時間を増やすようになったんです。プライベートで友達や先輩に会ったり、つながりを大事にして、いろんな話をして。その中で「ヒデはいつもナチュラルだよね。そのままでいいと思うよ」と言われることもあって、それが自分の自信につながったんです。前は自分のナチュラルさに対して「プロ意識が足りないんじゃないか?」と葛藤していたこともあるんですけど、「このままでいいんだな」と。背伸びしなくてもいいし、自分のスタイルを自分で受け入れるというか。その感覚は今回のアルバムにも出ていると思うし、これから先も楽しみですね。
許田 僕はコロナ禍の中でおうち時間が増えたことで、自分のことをやれるようになって。家の掃除もやれたし(笑)、健康にも気を遣うようになりました。
名嘉 やりたいことはいろいろあるし、「生きている時間の中で、やれることは全部やりたい」という気持ちもありますからね。ただ、HY以外の場所であっても、いつの間にかメンバーがいたりするんですよ。自分の撮影のときにヒデが来て、「釣りに行くか?」とか(笑)。
新里 ハハハハ。
名嘉 笑っちゃうんですけど(笑)、それも自分たちらしいのかなと。「友達と遊んでる」みたいな関係は変わってないですからね。
今までとは違ったラブソングが書けるんじゃないか
──では、アルバムの収録曲について聞かせてください。1曲目に収められたリード曲「スイッチ」は仲宗根さんの作詞作曲によるバラードナンバーです。
仲宗根 バラードをリード曲にしたのは今回が初めてなんですよ。「バラードをリードにしてみよう」って、シュン(名嘉)が言ってくれて。
名嘉 アルバムの曲がそろってきたときに、「そういえばバラードを1曲目にしたことないな」と気付いて。そういう壁はどんどん壊していきたいので、今回は「スイッチ」をリードにしたいと思ったんですよね。「HYといえばバラード」というイメージを持ってる方も多いだろうし、「366日」や「Song for…」「NAO」が好きな人にも「スイッチ」はダイレクトに響くんじゃないかなと。
仲宗根 これまでのアルバムのリード曲はヒデかシュンの曲だったから、こういう取材では2人が率先して話をしていたんですよ。なので、自分の曲がリードになったのは変な感じです。もともと後ろにいたいタイプだし、最初はちょっと遠慮してたんですけど(笑)、今はもう受け入れていますね。
──「スイッチ」は娘さんとの会話から生まれた楽曲だとか。
仲宗根 そうなんです。ずっとラブソングを書いてきたんですけど、独身の頃と結婚してからでは歌う内容も変わってきて。シングルになったときには“さよなら”の曲を書いたし。そして「次に何を書こう」と思ったときに、なかなか浮かんでこなかったんです。昔の恋愛を引っ張り出すのも違うし、「恋愛ってどんな感じだったかな?」という感覚になって(笑)。いろいろ考えてたんですけど、あるとき「そうだ、娘がいる!」と思ったんですよね。私が実際に経験していなくても、娘の話を聞いて恋愛している感覚を知ることで今までとは違ったラブソングが書けるんじゃないかなって。
──「スイッチ」は2次元のキャラクターへの思いが描かれていますが、これは娘さんの体験がもとになっているんですか?
仲宗根 はい。「好きな人はいるの?」って聞いたら、アニメのキャラクターだったんです。しかもメインのキャラではないから、グッズとかも売ってなくて。イベントとかにも出てこないし、娘は自分の気持ちを届ける方法がないんですよ。「私の思いはどうすれば成就できるんだろう?」みたいなことを言ってたから、それを叶えてあげられる曲を作ってあげたいと思って。アニメだけじゃなくて、恋愛ゲームにハマっている人も多いし、アイドルに本気で恋している方もいるじゃないですか。きっかけは娘の話ですけど、2次元だけじゃなくて、3次元の恋愛にも当てはまる歌詞にしたかったんですよね。
──なるほど。確かに2次元のキャラクターに恋している方も多いし、現代ならではのラブソングかも。
許田 時代ですよね。この曲はベースラインも歌ってるような感じになっていて。そのアレンジも初めての試みだし、ライブで演奏するのも楽しみです。
新里 すごく透明感のあるコード進行だし、アコギのフレーズもめちゃくちゃカッコいいんですよ。歌詞の内容だけじゃなくて、サウンドやアレンジの雰囲気を含めて、新しいHYを感じてもらえると思います。
仲宗根 娘も喜んでいるみたいです。娘とその友達を車で学校に送ってるときに、「ママ、あの曲かけて」って言うので(笑)。
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