HYがニューアルバム「HANAEMI」をリリースした。
2020年に結成20周年を迎えたHY。記念のツアーは延期になったものの、6月から5カ月連続で生配信ライブ「HY HOME LIVE」を開催し、さらに9月からは5カ月連続配信リリースを行うなど、精力的な活動を続けてきた。
「HANAEMI」(花笑み、花咲み)とタイトルされた本作には、“受け取った人が笑顔になるように”というメンバーの思いが込められているという。音楽ナタリーでは、メンバーの新里英之、名嘉俊、仲宗根泉、許田信介にインタビュー。4人体制になって初となる本作について聞いた。
取材・文 / 森朋之
コロナ禍の中の実り
──ニューアルバム「HANAEMI」は、20周年を経たHYの現在地を示すと同時に、この先の新たなビジョンが感じられる作品だと思います。アルバムの制作はいつ頃スタートしたんですか?
新里英之(Vo, G) 前作「RAINBOW」のツアー(2019年10月~2020年2月)が終わったあとですね。「RAINBOW」も僕たちにとってスペシャルなアルバムだったんですよ。20周年のタイミングで、空にきれいな虹がかかるようなアルバムを作れたと思うし、ツアーでもたくさんのファンの皆さんに会うことができて。その余韻に浸りつつ、さらにがんばっていこうと思っていたときに、コロナの状況になってしまったんですよね。予定していたことができなくなったけど、「今、自分たちにできることは曲作りだな」と思って。時間があった分、1つひとつの楽曲を大切に磨き上げていきました。
仲宗根泉(Key, Vo) 今までみたいに「早く書かなきゃ」と追われることもなくて。だからこそ、自分と向き合いながら作れたのかなと思います。心の中にあったものを出し切れたというか。
名嘉俊(Dr) 楽曲制作を中心にしながら、音楽の届け方をメンバーやスタッフと模索して。いろいろ冒険できた1年だったと思いますね。楽曲もいつも以上に作れたし、そこから削ぎ落したり、しっかり練っていく時間もあって。そこはコロナ禍の中でも、ポジティブで実りのある部分だったのかなと。
許田信介(B) 1曲1曲に向き合う時間もあったし、みんなでコミュニケーションを取りながら作れたのもよかったと思います。
──なかなか顔を合わせられない時期もあったのでは?
名嘉 そうですね。そういうときはリモートで話をして。最初は変な感じでしたけど、馴れました。その分、会えたときのうれしさもありましたね。夏休み明けの小学生みたいな感じで(笑)。
仲宗根 ちょっと照れくさいんだよね(笑)。
「好きに作れ」
──ニューアルバム「HANAEMI」には新里さん、名嘉さんの作詞作曲による楽曲が3曲ずつ、仲宗根さんの楽曲が4曲収録されています。まず新里さんの「夢を見に行こう この指とまれ」「花束」「棒」について聞かせてもらえますか?
新里 アルバムに向けて制作に入ったときに、自分の中で「好きなように作ろう」というコンセプトを決めて、作業する部屋の壁に「好きに作れ」と書いた紙を貼っていたんです(笑)。HYを始めて20年が過ぎましたけど、転ぶのを怖がるのではなく、これまでの経験を自信に変えて、自分らしさをありのままで表現したいなと。遊び心を持って自由に形にすることを目標にしていましたし、3曲とも好きなように作りました。それが全面に出てるのが「棒」という曲ですね。
──リズム、ギターフレーズも個性的だし、いろいろなアイデアが詰め込まれたミクスチャーロックですよね。
新里 祭りみたいな雰囲気もあるし、まさに遊び心満載ですね。そういう心を忘れたくないなという思いは年々強くなってます。
仲宗根 ヒデが好きなアーティスト、影響を受けているアーティストもよく知ってるし、やりたい路線もわかっていて。「棒」はそれがすべて合わさっているし、生き生きしてましたよ、作ってるとき。
新里 そうね(笑)。
仲宗根 サウンドに関しても、ヒデの中に「こうしたい」というものがしっかりあって。HYは私とヒデ、シュンが主に曲を書くんですけど、「ギターはこう弾いて」「ドラムはこんな感じで」みたいなことはあまり言わないんですよ。コード進行だけ渡して、「あとは自分で考えて」ということが多かったんだけど、今回のヒデは、例えばピアノにしても「こう弾いてほしい」というものがはっきりしていたみたいで。
新里 「花束」と「夢を見に行こう」もそうですけど、頭の中でビジョンができてたんですよね。なので、メンバーにも「こういうふうにやってほしい」と提案しました。
名嘉 楽しかったですよ。演奏の方向を示してくれたほうが取りかかりやすし、ヒデが考えていることもよくわかったので。「こういう感じを狙っているんだろうな」ってニヤニヤしてました(笑)。
──付き合いも長いし、新里さんがやろうとしてることをすぐに理解できるというか。
名嘉 ホントに昔から一緒にいますからね。「あの曲のフレーズが好き」みたいな話も何百回もしているし(笑)、ドラムの好みも知ってますからね。
許田 ヒデの曲はときどき不思議なリズムが出てきたり、「これ、大丈夫かな」と思うこともあるんですよ。でも演奏に入った瞬間に楽しくなって、感動が生まれて。今回は特にその感覚が強かったですね。
──「花束」のベースラインなんて、すごくカッコいいですよね。
許田 ファンクですよね。あと、新しいプロデューサーの方が入ってくれたことも大きいです。
名嘉 松岡モトキさん(Superfly、阿部真央などの楽曲を手がけるプロデューサー)がプロデューサーとして参加してくれて。4人体制となって1枚目のアルバムということもあって、ギターアレンジもできて、バンド全体のアレンジもできる方に入ってほしかったんです。自分たちが表現したいことを形にしてくれたし、とにかく引き出しの数がすごいんですよ。メンバーの誰よりも音のことで悩んでましたから。最後の最後までHYの音を追求してくれました。最高の出会いでしたね。
──HYは昨年9月から4人体制となって、ギタリストは新里さん1人になりました。そのことはどう感じていました?
新里 自分のプレイをカバーするのが“味”だと信じていて。楽曲を作るときと同じように、ギターにも自分の個性をより出していけたらいいなと思っていました。
──アレンジに関しても、4人で演奏することをイメージしていた?
新里 いや、そこまで決めてはいないです。型にはめるのではなくて、楽曲が進んでいきたい方向だったり、僕たちが見せたい景色を表現するために、4人以外の音、ストリングスやホーンなどもどんどん取り入れて。そのスタイルはいつも通りでしたね。
仲宗根泉の確変
──仲宗根さんの楽曲は「Complex feeling」「Good Bye」「%~m.e.r~」「てぃんさぐぬ花~チムにすみてぃ~」の4曲です。仲宗根さんらしいラブソングあり、自身のコンプレックスと向き合った曲あり、沖縄の伝統的な音楽を取り入れた楽曲ありと、すごく幅が広いですね。
仲宗根 ありがとうございます。これまでのアルバムはヒデ、シュンの曲が多くて、私の曲は2曲くらいだったんですけど、今回は私が一番多いんですよ。
名嘉 助かりました(笑)。
仲宗根 (笑)。さっきも言いましたけど、去年は時間があった分、ずっと溜め込んでいた思いだったり、知らないうちに抱えていたストレスにも気付けて、それがすべて曲になっていったんですよね。いろんな感情があったからこそ、それぞれ違う雰囲気の歌詞になったんだと思います。アルバムに入ってる4曲は、ほぼ1カ月の間に書いたんですよ。何をしていても曲が降ってくるような状態で、パチンコの大当たりみたいな(笑)。
名嘉 確変だ(笑)。
仲宗根 しかも1曲丸ごと見事に降りてきて、あとはそれを譜面に書き写すだけだったんです。すごくスムーズでしたね。
──以前から仲宗根さんは「曲が書ける時期と書けない時期がはっきりしている」と言ってましたけど、去年はまさに書ける時期だったんですね。新里さんは今回の仲宗根さんの曲に対して、どんな印象を持ってますか?
新里 どの曲も素晴らしいですね。「Complex feeling」をみんなでアレンジしているときに、「これ、ヒデが歌うんだよ」って言われたときはビックリしましたけど(笑)。「え、俺? イズ(仲宗根)じゃないの?」って。イズ、シュンの曲を歌うときは、曲の中で描かれている人生を自分に置き換えて、自分に落とし込むようにしてるんですけど、「Complex feeling」はそれが難しくて。僕の人生で経験していないことがたくさん入ってる曲だなと思ったんですよね、最初は。でもこういうインタビューなどで、この曲をイズがどんな思いで作ったのかがわかってきたんです。自分が落ち込んでいるとき、悲しいときは、ほかの人が幸せそうに見えたり、うらやましいと思う瞬間がある。実際はそうじゃなくて、自分の中には素敵なものがいっぱいあるのに、そう思えなくなるっていう……。その話を聞いたときに、「俺もそうだな」と思って。小さいことで悩んでしまうし、「あの人はすごいな」って考えてしまうこともけっこうありますからね。そのことに気付いてからは、しっかり自分の言葉として歌えるようになりました。
仲宗根 「Complex feeling」は曲が降りてきたときから男性の声が鳴っていたし、自分で歌うと重くなりすぎちゃうかなと。ヒデに思いを託して、第三者の目線を入れることで、もうちょっと軽く聴いてもらえると思ったし、聴いてくれる人も感情移入できる曲になったと思います。
名嘉 恋愛以外の曲、人生観を歌った曲が増えてきてるんですよね、イズは。自分もそこに期待しているし、どんどん書いてほしいです。
──歌いたいことの範囲が広がっている?
仲宗根 そうですね。ヒデ、シュンはもともと人生観や人間性をテーマにした曲を書いていて。「私もいつかそういう曲を作ってみたい」と思ってたんです。それがようやく形にできたのかなって。それもやっぱり、去年じっくり自分と向き合えたからだと思いますね。
許田 「Good Bye」もそうですけど、イズの中で心境や環境の変化があったのかなと。一番驚いたのは、「てぃんさぐぬ花~チムにすみてぃ~」ですね。サビで(沖縄民謡の)「てぃんさぐぬの花」のメロディがしっかり取り入れられていて。
仲宗根 最初からそうなっていたんですよ。頭からサビの部分を含めて、全部がきれいに降りてきたので。なんで「てぃんさぐぬの花」なのかは自分でもわからないんですけど、すごく曲に合っていたし、こういう使い方をしても大丈夫なのか確認してもらって、形にしました。
新里 自由だなと思いましたね。オリジナル曲に別の曲を取り入れるのは初めてだし、イズには決まった枠がまったくないんだなって。
名嘉 こういう曲、大好きですね。KICK THE CAN CREWさんが山下達郎さんの曲を使ったときみたいな感じで。
──「クリスマス・イブRAP」ですね。
名嘉 はい。そういう手法はヒップホップではずっと前からあるし、「てぃんさぐぬの花」もすごく自然にいいなと思いました。
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あと2回は売れたい