10年間で築き上げてきたバンドマジックが、よくも悪くもリセットされてしまう
──2018年10月に松本さんの加入を発表して、晴れて新体制の活動が始まったわけですけど。4人で音を合わせたとき、今までと感触は違いましたか。
黒木 マジで全然違いますね! 「ベースが変わるとバンドが変わるよ」というのは周りからもけっこう言われてたんですけど、本当にそうなんだなって。歌モノとしてのクオリティの変化もありますけど、一番面白かったのは竹縄の歌がどんどん変わっていったことで。拓郎は音程をちゃんと残してくれるし、歌心をわかっているベーシストなので、より歌いやすくなっていると思いました。
松本 逆に言えば、これまでHOWL BE QUIETが10年間で築き上げてきたバンドマジックが、僕の加入によってリセットされてしまうわけなんですよ。黒木さんはいい意味で「ベースが変わるとバンド自体が変わる」と言いましたけど、よくも悪くも変わってしまうんです。どれだけ昔のイメージを持っていようが、前の通りにはならない。それであれば僕の持っている土壌を一気に持ち込んでみて、彼らに合わせるのではなくて、新しく構築していく。今までのファンからすれば、よくも悪くも別のバンドになってしまったのかもしれないですけど、それだけ彼らが10年間作り上げたものが大きいわけで。そこにリスペクトを持ちつつも、僕が持っているフェーズを提示しました。その結果が今作に表れていると思います。
──同じリズム隊として、岩野さんは初めてこの4人で音を鳴らしたときにどう感じました?
岩野 めちゃくちゃよかったです! これまではタケが作ってきた曲をスタジオで合わせてみて「演奏できないから、ライブでやるのやめよう」ということはなかったんですよ。「最高の曲なんだから、やればよくね?」「下手でもなんでもライブでやりたいでしょ?」という感じだった。だけど拓郎は「ダメです、まだバラバラです。今の時点だったら、まだやらないほうがいいと思います」と言ったんです。ライブでやろうという気持ちになるまでにすごく時間がかかったからこそ、メンバーが満場一致で「今ならステージで演奏できるね」となった瞬間がすごくうれしかったですね。
──今までは勢いで乗り切っていたことも、冷静にストップをかける人が現れたと。先ほどの「感性で音楽を楽しむ自分、音楽的に音楽を楽しむ松本さん」という対比がいい相乗効果を生んでいるんですね。
岩野 それは本当に思います。知らないことをお互いに刺激し合えるからこそ、みんな楽しいんだと思うんですよ。もちろん和気あいあいとしていることばかりじゃなくて「なにくそ」と思う場面の方が多いですけど、実はそういうときのほうが楽しくて。今、すごくいい方向へ進んでいると思いますね。
“第2の初期衝動”みたいな感覚
──アルバム全体のお話も聞かせてください。「Mr. HOLIC」は恋愛へのヘイトをポップソングに昇華した印象だったのが、「Andante」では希望を歌っているように感じたんです。もしかしたら竹縄さんの中で、心境の変化があったのかなと。
竹縄 「Mr. HOLIC」もすごく好きなアルバムですし、本当に自分の言いたいことを曲に昇華できたなっていう自負はあるんです。けど作り終わってから聴き返してみると、言いたいことは言えているんだけど、「音楽としてもう少しマッチする言葉があったな」と思うところがすごくあったんですよ。もし言いたいことを言うだけならエッセイを書けばいいし、それこそブロガーとか文字だけで完結する表現をやればいい。だけど僕は音楽家だし、言いたいことをしっかり音楽に乗っけないとなって。そうやって改めて自分がやるべきことを見つめ直したのが、この2年間だったんですよね。いいメロディが浮かんだとき、そこにどんな言葉を乗せたら自分の思いを裏切らず、メロディの魅力を生かしたまま曲として完成させられるか。そういう音楽に対する意識の変化はあったと思います。
──曲を作るにあたって、聴いた人がどう感じるものにしようと思っていましたか?
竹縄 恋愛のフィルターを通して歌っている曲もあれば、自分らしく歌っている曲もありますけど、アルバム全体としては「失ったものを取り戻したい気持ち」だったり「小さくてもようやく見えるようになった光をつかみたい思い」だったりを考えてました。その意思が曲にも出ちゃっていたな、って自分でも思います。どうしようもなく前を向いていたかったというか。
──「Andante」はラブソングにも聴こえるし、恋愛をHOWL BE QUIETの歩みに置き換えて歌っているようにも聴こえました。そういういろいろな解釈の仕方を含んだ音楽こそ、本当の意味でのポップソングな気もして。
竹縄 ああ、そう言ってもらえるのは本当にうれしいですね。
──1曲目の「覆水盆に返らず」なんて、歌詞の内容的にダークな雰囲気に仕上げることもできたと思うんですよ。
竹縄 うんうん、そうですね。「覆水盆に返らず」って、もともとは恋愛のことしか考えてないで作った歌なんですけど、このタイミングで聴くと、作曲した自分ですら違う目線に感じる。我ながら「すげえ、グッとくるな」と思うんですよね。今まで応援してくれたお客さんだけでなく、まだ俺らの名前を知っているだけの人にも届くといいなと思ってます。
──黒木さんはアルバムが完成した今、どんなことを感じてますか。
黒木 けっこう必死だったなという印象はあって。4月の渋谷CLUB QUATTROで、アルバムのリリースを発表したじゃないですか。ぶっちゃけ、あのときは「ヌレギヌ」しかできてなくて。あとの7曲は骨組みまではあっても、形は何もできてなかったんです。「Mr. HOLIC」は今まで僕らが歩いてきた集大成であって、あれを作ったことで確実に1つの物語が完結したんです。だからこそ「Andante」は、今までのHOWL BE QUIETではなくて新しいものを作った感覚なんですよね。いわゆる初期衝動みたいなものがすごくあると思うんですよ。スタッフとも「僕らにとって新しい『DECEMBER』みたいなアルバムを作らないとね」って話はしてました。
竹縄 「DECEMBER」を作った2013年は、確かに初期衝動でバンドをやってたもんな。
──今、HOWL BE QUIETの第2章が始まったと。
岩野 本当にそう思いますね。
──以前、竹縄さんが「ツアーに向かうワゴン車の移動すら楽しく感じる」と言ってましたけど、その感覚って10代のバンドマンみたいだなと思って。音楽だけじゃなくて、バンドにまつわるいろんなことを新鮮に感じているんですね。
竹縄 そうなんですよ。初めてバンドで遠征したときってめちゃめちゃドキドキしたし、ワクワクして。今、あの頃に戻っているような感じなんですよね。何度も行ったことのある土地だけど、サービスエリアに寄ってソフトクリームを買うとか、そんなアホみたいなことがやけに楽しかったり、やけに笑えたり。ツアーや遠征の過程すらも楽しんでいるのはひさびさな感じがして。そういう意味でも“第2の初期衝動”みたいな感覚です。なんか今は「俺ら、ちゃんとバンドをやれているんだな」と思いますね。
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僕らを待ってくれていたお客さんに「名脇役」を返したいと思った
- HOWL BE QUIET「Andante」
- 2019年7月31日発売 / ポニーキャニオン
- 収録曲
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- 覆水盆に返らず
- fantasia
- ヌレギヌ
- Reversi
- バーバラ
- 名脇役
- 幽霊に会えたら
- Dream End
公演情報
- HOWL BE QUIET「HOWL BE QUIET 2019 album release ONE MAN LIVE」
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2019年9月1日(日)千葉県 千葉LOOK
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2019年9月8日(日)宮城県 enn 2nd
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2019年9月21日(土)福岡県 INSA
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2019年9月23日(月・祝)愛知県 伏見JAMMIN'
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2019年9月28日(土)広島県 Back Beat
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2019年9月29日(日)大阪府 Music Club JANUS
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2019年10月3日(木)東京都 LIQUIDROOM
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2019年9月1日(日)千葉県 千葉LOOK
- HOWL BE QUIET(ハウルビークワイエット)
- 2010年結成のピアノロックバンド。2013年12月に発表した1stアルバム「DECEMBER」が、タワーレコードのスタッフが選ぶ「タワレコメン」に選出される。2016年3月にシングル「MONSTER WORLD」でポニーキャニオンよりメジャーデビュー。8月にテレビアニメ「DAYS」のオープニングテーマを表題曲とするシングル「Wake We Up」を発表し、2017年5月にメジャー1stアルバム「Mr. HOLIC」をリリースした。2018年秋からは竹縄航太(Vo, G, Piano)、黒木健志(G)、松本拓郎(B)、岩野亨(Dr)の4人編成で活動。2019年7月に2年ぶりのアルバム「Andante」を発売した。