ほなが“ホムカミっぽさ”を握ってた
──福田さんの卒業公演として、12月に京都と東京でワンマンライブが開催されました。3人編成最後のステージはいかがでした?
福富 京都はユナ、東京は吉木さんに叩いてもらって、そういうことができるのもすごく美しいなと思いました。京都ではライブが終わったあと深夜にアフターパーティをしたんですけど、泣いたり笑ったりもあって、あれが最後でもおかしくないくらいの盛り上がりでした。東京公演は最後だからってお祭り感を出すんじゃなく、自分たちが今やりたいことを表現できてよかったですね。セットリストも全然違うんですよ。
畳野 京都は私、東京はトミーがセトリを組みました。京都は「I WANT YOU BACK」とか昔の曲も演奏したし、東京よりもう少し明るい雰囲気だったかな。
福富 ライブの雰囲気は違うけど、最後に行き着く感情は同じで。さびしさは当然あるものの、ちゃんと送り出せたうれしさもありましたね。自分たちが表現したいことをやり切って終われた東京も素敵やったし、朝5時にモー娘。のレコードをかけたり、彩加さんが歌ってみんなが泣いてる京都の感じも最高やった。メンバーの卒業公演を楽しく終われるってなかなかないことだと思うので、それができるバンドでよかったと思いますね。
──お二人にとって福田さんというベーシストがどんな存在であったか聞かせてください。
畳野 まだ新体制でライブをしてないので言語化できないけど、音源を作ったときの“ホムカミっぽさ”の大きな部分を、ほなが握っていたのかなと思います。メロディみたいなフレーズを弾いてたり、ほな自身は天然でやってると思うんだけど、その感覚的にやってる部分にホムカミっぽさがあった気がする。コーラスに関してもそうで、私がコーラスを考えるときは「ほなの声で歌ってもらうならこんなフレーズかな」とイメージしながら曲を作っていたので、あの声が今後はないんだと思うとなかなか想像できないですね。
福富 ほなは性格やキャラクター的にまったくベーシスト然としてなくて、僕の中では“友達以上家族未満”という感覚が強かったです。一緒に東京に出てきて、3人で同じ街に住んだり、しょっちゅう一緒にいたから友達としての比重が大きかった。ほなをベーシストとして意識するようになったのは卒業が決まってからで、ライブの映像や写真を見返してみると立ち姿がめちゃくちゃカッコいいんですよ。スマパン(The Smashing Pumpkins)のダーシー(・レッキー)のような、自分にとってカッコいい存在やったんやなって。ほながステージで演奏して歌ってるだけで表現になるんです。本人は自覚してないだろうけど、独特で不思議な華のあるベーシストやと思います。
カーシェアで街鳴りを確認
──2人体制初の楽曲として「knit」が誕生したわけですが、制作はどのように進めていったんですか?
福富 ほなの卒業に向けてライブがたくさんあったんですけど、ちょうど海外公演が続いてる時期だったので、今まで以上に1曲の制作に対して一丸になって臨みました。ちょうど2人になるタイミングで曲作りという、バンドを続けていくうえでとても大事な行為をしっかりとやる機会があったのはよかったですね。2週間くらいの短い時間の中でアイデアを出し合って、彩加さんの家にパソコンを持って行ってフレーズを組み合わせたり、カーシェアして車内で音源を聴いてみたり、根を詰めて作業しました。
畳野 こんなにがっつり2人でがむしゃらに曲を作ったのは初めてなんですよ。もう今できることは全部やったってくらい。
福富 僕が先に歌詞を書いて、彩加さんが曲を付けるいつもの流れは変わらないんですけど、今回は「歌詞は書いたからあとはお願い」という感じではなくて。彩加さんがメロディを付けてくれたあとは、一緒にアレンジを考えたり、コードのアイデアを出し合ったりしました。彩加さんも歌詞に対して「もう少しいける気がする」といつもより踏み込んできてくれて、お互いがお互いの持ち場に入る強烈な作業でした。
──そういう進め方は今までなかった?
畳野 いい意味で任せてたんですよ。イチからイメージを擦り合わせて、お互いにアイデアをガーッと出し合いながら1曲を作ったのは初めてで。これまではどっちかがやりたいことを持ってきてそれに合わせる形が多かったけど、今回はお互いのやりたいことを照らし合わせてその中間を探るような進め方でした。
──なるほど。少し気になったんですけど、車の中で音源をチェックするというのは?
畳野 最近、カーシェアしてスーパー銭湯に行くんです(笑)。いろんな音楽を流しながら目的地に向かうんですけど、自分たちの曲をチェックしてみたら聞こえ方が全然違ったんですよ。
福富 ヘッドフォンで集中して聴くのとは違う感覚ですね。普段自分がリラックスした状態で音楽を聴く空間だからか新鮮で、「ここをもう少し直したい」ってアイデアが浮かんでくるんです。くるりの「音博」のサポートの話がきたときは事前にセトリをいただいて、その曲を車でずっと流しながら練習しました。
畳野 かなりいいよね。
福富 うん。閉じてるわけでもなければ開いているわけでもない、そういう空間ってあまりないじゃないですか。
畳野 自分たちの曲がラジオで流れてるイメージで聴けるし。
福富 そう、街鳴りを確認する感覚ですね。
──「knit」は車内で聴いてみて手直しはしたんですか?
福富 テンポを1上げる下げるとか、細かく調整しました。前のアルバムからミックスに時間をかけるようになっていて、音がどこから聞こえてくるか、配置や空間を意識するようになったんです。車内でチェックすると「こっちからこの音が聞こえたら気持ちいいかも」という発見があって、それはかなり制作に影響してると思いますね。
今泉力哉が求めた“視点”
──「knit」は、今泉力哉さんが監督・脚本を担当するドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」の主題歌です。Homecomingsは過去に今泉監督の「愛がなんだ」に主題歌「Cakes」を書き下ろしていたこともあり、両者のファンにとって待望の再タッグとも言えます。曲作りを始めるにあたって、今泉監督から何か要望はあったんですか?
福富 「Cakes」は性別を限定しない恋愛を描いた曲で、そこにあるのは「愛がなんだ」で描かれた物語とはまた違う視点だったんですね。僕たちとしては特別新しいことをしようと思っていたわけではないけど、そのことが今泉さんの中に残っていたみたいで。最初の打ち合わせで今泉さんに「冬のなんかさ、春のなんかね」は“好き”ってことをいろんな角度から描くドラマだから、「愛がなんだ」に対して「Cakes」を書いた視点が欲しい、と言われたのを覚えています。ドラマの登場人物にはロマンティック・アセクシャルの人もいて。それこそ“恋愛をしない”ということも含めた多様な恋愛の作品になるから、Homecomingsだったらお願いできるんじゃないかって。それは僕たちがバンドとして大切にしてきたことでもあるので、脚本を読んで「この登場人物に寄り添った曲にするぞ」というより、今泉さんから受け取った気持ちを大切に1曲に落とし込むイメージでした。
──福富さんが歌詞を書くうえで大切にしたことは?
福富 ラブソングとも言えるし、ラブソングとも言えへん、みたいなところを描きたいなとは考えてましたね。“好き”ってことについて考えるというか、恋愛する人もいれば、恋愛しない人もいるって視点を1曲の中に入れたかった。例えば僕は彩加さんのことがめっちゃ好きやけど、恋愛の好きとは違うわけで、そういう“好き”も入れたかったんです。シスターフッドという言葉には男性は含まれていないと感じる人もいるかもしれないけど、性別を限定しない形のシスターフッドとしても聴けて、ラブソングとしても聴けるものをぼんやりと想像していました。あとは1番と2番でカメラが切り替わるように、登場人物が変わってそれぞれのことが描かれるけど、お互いが親しさやかけがえのなさを感じているっていうようなイメージ。でも、それぞれが「天使“たち”」「ひかり“たち”」って思ってるのが自分の中では大事なことかもしれません。閉じた、強い関係ではなくてっていう。
全力の歌詞とメロディ
──畳野さんは歌詞を受け取ったときに、どんなメロディが浮かんできて、どんな曲にしたいと思いましたか?
畳野 2人になって初めて出す曲を今泉さんと一緒に作れる機会をいただけたこと自体が、バンドを続ける決断をして本当によかったと思える大きな出来事だったんです。だからトミーにはとにかく明るくいきたいって伝えました。
福富 外に向いたイメージだよね。
畳野 そう。去年の夏に出した「every breath」はHomecomingsが今やりたいことを詰め込んでいて、ライブを想定した曲になっているんですけど、その流れとは分離したくて、ここで一度自分の殻を破らないといけない気がしたんです。バンドとしてとにかく前向きだし、私たちは大丈夫だってことを絶対に伝えたかった。
──なるほど。
畳野 それに今泉さんから冬がテーマのドラマだと聞いた時点で、いい曲ができる予感はあったんです。私は冬が大好きだから、それだけでもう大丈夫ですって(笑)。だから今泉さんに言っていただいたことを踏まえて、Homecomingsとしてのベストを考えながら曲作りを進めていました。そしたらトミーから歌詞が送られてきて。初めて歌詞を見て泣きそうになったんですよ。
福富 うれしいなあ。
畳野 私が1人で前のめりになっていたわけじゃなくて、そのアンサーがちゃんと歌詞として送られてきたことがうれしかったし、トミーの全力が伝わってきた。それでこっちも気合いを入れて、全力のメロディを乗せることに集中しました。
──畳野さんは「knit」の歌詞のどんなところに、福富さんの全力を感じたのでしょう?
畳野 いつもと比べると歌詞に具体性がある気がしたんです。描写がわかりやすいし、「ありがとう」という言葉をストレートに使っていたり、トミーの中で新しいことに挑戦しているんだなっていうことが伝わってきました。
福富 登場人物のリアルな心情を想像したときに、「ありがとう」と改まって伝えるのは恥ずかしいだろうから、「ありがとう」という言葉を使わないことで感謝を表現することが多かったんですよ。これまでは“具体的に描かないことで醸し出る詩の美しさがある”という書き方を意識していて、伝わり切らない部分は文章なりMCなりで補完してた。でも、せっかく今泉さんとご一緒するし、2人になって初めての曲だからと自分の中でチャレンジしたことが、彩加さんにも伝わったのかもしれないですね。
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関根史織、高井息吹を迎えて


