Homecomings「knit」特集|バンドのすべてを注いだ新体制初シングル

昨年12月に東京・EX THEATER ROPPONGIで行われた過去最大規模のワンマンライブ「the aquarium of illumination and night glare」をもって福田穂那美(B)が卒業し、新体制となったHomecomings。結成から10年以上の月日をともにしたメンバーとの別れという変化の季節を経て、畳野彩加(Vo, G)と福富優樹(G)から新曲「knit」が届けられた。

「knit」は日本テレビ系で放送されている杉咲花主演のドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」の主題歌として書き下ろされた1曲。ドラマの監督・脚本を務めるのは今泉力哉で、Homecomingsとタッグを組むのは2019年公開の映画「愛がなんだ」、昨年8月公開の積水ハウスのCM「帰ろう。」編に続き、これが3度目となる。

音楽ナタリーでは「knit」のリリースを記念して、畳野と福富の2人にインタビュー。バンドに大きな変化をもたらした前作「see you, frail angel. sea adore you.」発表以降の活動から、解散も考えたという2人がバンドを続ける決断をした経緯、「knit」を制作するうえで今泉から受け取った言葉について語ってもらった。

取材・文 / 下原研二撮影 / Asami Nobuoka

シンプルにライブが楽しい

──まずは前作「see you, frail angel. sea adore you.」(2024年11月発表)リリース以降の活動について聞かせてください。新たな音楽性を提示したあのアルバムを出したことは、バンドにとって大きな転換期だったのでは?

福富優樹(G) これまでのアルバムの中で反響は一番大きかったような気がしますね。なんなら英語詞が中心だった僕らが日本語詞にシフトした「WHALE LIVING」(2018年10月発表)を出したときよりも反応があって、みんなの中にあるHomecomings像をいい意味で裏切ることができたのかなと。バンドとして大きく変化したわけですけど、「これが聴きたかった」とポジティブに受け取ってもらえた印象です。

──アルバムリリース後すぐにツアーが始まりましたが、実際にお客さんの前で演奏してみての感触はいかがでした?

福富 アルバムの音像として、打ち込みっぽい音と生演奏をかけ合わせていて、どこまでが生でどこまでが打ち込みかわかりづらい作りになっているので、みんな「これをライブでどう表現するんだろう?」と気になっていたと思うんです。ライブハウスで観たい、聴きたいと思ってもらえるような音像だったし、結果的にアルバムとライブでお互いが補完し合っているような内容になったので、期待に応えられたんじゃないかと。

畳野彩加(Vo, G) ライブ映えするアルバムだとは思ってたけど、自分たちが想像していた以上でした。それはサポートで入ってくれているユナや吉木(諒祐 / The Novembers)さんのおかげでもあって、2人は私たちが今やりたいことを明確に表現するために何をすべきかをすごく考えてくれていて。その強度のようなものがライブを重ねるたびに増していく感覚はありました。「see you, frail angel. sea adore you.」をきっかけにユナや吉木さんと曲を作るようになったけど、あの頃よりもライブで表現できることが拡張されてきた気がします。

左から畳野彩加(Vo, G)、福富優樹(G)。

左から畳野彩加(Vo, G)、福富優樹(G)。

福富 うん。ただ演奏するんじゃなく、表現するってことをより意識するきっかけになりました。サウンドの幅も広いし、打ち込みと混ぜながら演奏することもそうだし。結果的にアルバムを表現するツアーではあったけど、その後のフェスやイベントにも地続きにつながっていて。「Air」とかはもしかしたらツアーだけでやる曲になるかなと思っていたけど全然そんなことはないし、お客さんもそれを求めてくれているので、1年間ライブで演奏したことでアルバムの音像がHomecomingsってもの自体になって血肉化してきた感じはありますね。

──それで言うと先日のEX THEATER ROPPONGIでのワンマンは素晴らしかったです。「Air」の演奏中にお客さんがみんな踊っていて、それまでのライブではあまり見ない光景でしたよね。

畳野 うんうん。1年かけて理想としてる会場の雰囲気になりました。お客さんに対して「もうちょっと盛り上がってほしいな」と求めてしまうこともあるけど、私たちは煽るようなバンドではないので。それが自然発生してくれるのが理想だとしたら、EX THEATERは本当に自然だった気がしていて、「やっとこの光景を見ることができた」と思いながら演奏してました。

福富 説得力のあるライブをできるようになった気がしますね。吉木さんがよく「間違えないことだけが正解じゃない」って言うんです。間違えないように40分なりの持ち時間を駆け抜けるんじゃなくて、何かを伝えたり、何かを起こそうとする姿勢のほうが大事だって。ミスを恐れずに何か迷ったら1歩前に行く、その空気感を作ってくれたのはすごくありがたかったし、実践してみて言葉の意味をより理解することができました。僕はその感覚を“スパークする”って言葉で表現してるんですけど、我を忘れて自分の殻を破ることを体感できた1年だったのかな。シンプルにライブが楽しくなってきてます。

The Novembers・吉木諒祐から学んだこと

──吉木さんのお客さんを巻き込む力はすごいですよね。サポートメンバーという立ち位置の人が、それだけバンドのことを考えて関わってくれるっていうのは幸せなことなんだろうなと思います。

福富 本当にそう思います。

──吉木さんのように経験の多い先輩バンドマンから学ぶことは多いですか?

福富 そうですね。吉木さんには3月に京都でやった羊文学とのツーマンからライブのサポートをお願いするようになったんですけど、その時点ではここまでお世話になるとは思ってなかったです。それくらい、めちゃくちゃ助けられる場面が多い1年でした。吉木さん自身も楽しんでくれていて、グッと入り込んでくれることもあれば、大事な場面では「ここは3人で考えたほうがいい」って引くところもあって。だから先輩というより、吉木さんの存在が大きかった。

畳野 私は心配性なので、ライブ直前に「今日は無理かも」と思う日もあったけど、吉木さんが「一生懸命やるんだよ! それだけで十分だ!」って気合いを入れてくれるんです(笑)。一緒に曲作りをするにしても共通言語が多いし、経験も豊富だから、私たちがやりたい音楽についても相談しやすくて頼り甲斐があります。それに吉木さんもユナもバンドのことをすごく考えて、2人でいろいろと話してくれてるみたいなんです。私たちは本当に恵まれているって日々思いますね。

福富 うん、あの2人と一緒にやれたのは大きかったですね。ユナは別のサポートで海外ツアーがあったりして一緒に演奏できへんタイミングもあったけど、ずっと気にかけてくれていて。吉木さんはHomecomingsってものをよくしようと思ってくれているし、僕らのサポートをすることで自分に還元されるものがあると信じてやってくれているので、すごくいい関係だなと思います。

畳野彩加(Vo, G)

畳野彩加(Vo, G)

福富優樹(G)

福富優樹(G)

手応えを感じた海外遠征

──2025年は海外でライブする機会も多かったと思いますが、現地リスナーの反応はいかがでした?

福富 それこそアルバムの反響が大きくて、以前は反応はあるけど自分たちの音楽がどの程度伝わっているかはわからなかったんですよ。でも今年回った会場はどこも「この曲を聴きに来た!」という盛り上がりがありました。

畳野 来日アーティストみたいなね(笑)。何をやっても大丈夫というか、海外用に日本ではやってない昔の曲を入れなくてもよくて、新しい曲だけ持って行っても安心してライブができる空気感がありました。

福富 フェスにしてもライブハウスにしても、ちゃんと届いてる感触があったんですよ。終演後のサイン会で現地のみんなが「『see you, frail angel. sea adore you.』がすごく好き」と話しかけてくれて、あのアルバムを作って本当によかったと思えた瞬間でした。

畳野 歌詞を翻訳して、私たちが今やりたいことやメッセージを読み解いてくれる海外のリスナーが多くて。「日々助けられています」と言ってもらえたのが印象的だったし、そこまで深く聴いてくれていることがうれしかったですね。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

左から福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)。

音楽は続けないといけない気がした

──年末のEX THEATER公演をもってベースの福田さんがバンドを卒業されました。福田さんの卒業はいつ頃決まっていたんですか?

福富 アルバムのツアーが終わったタイミングだったので春ですね。ほな(福田)から僕たちそれぞれに話があって、チームで今後どうするかを話し合いました。

畳野 その後の活動もあるので、7月までには決めてくださいって感じだった。

福富 彩加さんは「2人になるならもう辞めようか」とも言っていて。

畳野 2人だけのアー写が想像できなかったんですよ。

福富 僕は絶対続けたかったけど、彩加さんが辞めるって決めたらしょうがないので。

──畳野さんが踏みとどまった理由は何かあったんですか?

畳野 本当に直前まで悩んでたんですよ。ほなから話を聞いたあと、トミーと1カ月間まるまる毎日飲みに行ったりもして。

福富 でも、今後についての話は一切せんかったよな。お互いに卒業のことは知ってるのに、ただただ他愛もない話をしてた。で、毎日飲んだらクレジットの支払い額がこんなになるんやと思ってやめました(笑)。

畳野 (笑)。それから私は1人で考える時間を作ろうと思い実家に帰ったんですよ。何か特別なことをしていたわけではないけど、スパッと辞める決心がつかないままでいたんです。そしたら、くるりの「音博(京都音楽博覧会2025)」にコーラスで参加してほしいって話がきて、そのあとすぐに「Regulus」(※くるりが2025年10月に発表した配信シングル。畳野はゲストボーカルとして参加した)のオファーをいただきました。くるりから続けてオファーをもらったときに、これは辞めてられないなと。それで決心がついたというか、音楽は続けないといけない気がして、7月の東名阪ツアーが終わった頃にみんなにバンドを続けることを伝えました。

福富 吉木さんと一緒にライブするようになったのも大きかったですね。さっきも話したように「前に前に」という姿勢に引っ張ってもらったし、自分たちとしても範囲外のことができるようになってライブが楽しくなってきたタイミングだったので。続けるかどうかはわからへんけど、何かしら前に進んで行ってる感覚があったんです。