今のHomecomingsだから生まれた
──3曲目の「Moon Shaped」は2月にバンドを卒業した石田さんがレコーディングに参加した最後の作品で、本作の中では唯一の既発曲になります。
福富 「Moon Shaped」だけ制作時期が半年くらい前になるんですけど、ほかと並べて聴いたときに同じアルバムの曲として違和感がないんですよね。この曲が「see you, frail angel. sea adore you.」の出発点になっているから、そんな曲がちゃんと真ん中にあるアルバムを作れたのはよかったなと思います。
──続く「blue poetry」はグリッジノイズから始まるエレクトロ色のロックナンバーで、ここから一気にアルバムのムードが変わっていきます。これまでのHomecomingsにはない作風ですが、何かイメージがあったんですか?
福富 前々からアーメンブレイクやドラムンベースを取り入れたフレーズの曲があったらいいなと思っていて、たまにスタジオでふざけて叩いてもらってたんですよ。で、全然別の曲のレコーディングでスタジオに入ったときに機材トラブルが起きて。復旧するまで時間が空いたからみんなでセッションをすることにしたんです。コード進行のアイデアが3つくらいあったから、ユナを含めた4人で合わせてみて、結局30分くらいで復旧したから予定通りレコーディングに移ったんですけど、そのときのセッションの音源を聴き返したら面白かった。コードの整合性も取れてなければ、展開もめっちゃ変やったけど、これをそのまま曲にしたいなと思ったんです。だから「blue poetry」は本当に想定外で生まれた曲なんですよ。言い方が難しいけど、ずっと同じメンバーでバンドをやっていると、自分の中でパッと思い浮かんだアイデアと、いい空気感でバンドを続けることを天秤にかける瞬間があって。これまでふざけてセッションするとかなかったもんね?
畳野 うん、ないね。
福富 たぶん以前は、僕がそういうことを言っても冗談で終わってたと思うんです。それはいい悪いじゃなくて4人の関係性だから。「blue poetry」はサポートメンバーが入るようになった今のHomecomingsだからこそ生まれた曲という感じがします。
──畳野さんは「blue poetry」の制作を振り返ってみていかがですか?
畳野 ……めっちゃ難しかったです(笑)。オケはすでにあったんですけど、みんなには「私、これが一番できないと思う」と言って後回しにしていて。
福富 「もうインストでいいんじゃないか」みたいなこと言ってたもんな(笑)。
畳野 そうそう(笑)。この曲の制作をしていて思い出したんですけど、「SALE OF BROKEN DREAMS」(2016年発表の2ndアルバム)はレコーディング当日にエンジニアの荻野(真也)さんと2人でMTRを使って歌録りする作業をずっとやってたんですよ。「blue poetry」はレコーディング当日にスタジオに行って「歌ってみます」みたいことを何年ぶりかにやった曲で、アルバムの中でも本当に一番悩みに悩んで、なんとかメロディが出てきました。
──「blue poetry」はこれまで以上にエレクトロに振り切られていますが、何かリファレンスにした作品はあるんですか?
福富 僕はY2K的な未来感という意味で「モード学園のCMっぽくしたい」とずっと言ってて(笑)。あとはチャーリー・XCXの「Brat」の感じも面白いんちゃう?みたいなことは話してたかな。
畳野 でも結局そこからも変化して、最終的には絶妙なラインで今の形に着地しました。
福富 あ、このアルバムはアレンジやミックスを荻野さんとめちゃくちゃ詰めたんですよ。荻野さんは大阪に住んでいるので、僕が直接会いに行って一緒に作業をしたり、Audiomoversという遠隔でもミックスができるツールを試したりして。だからこのアルバムはこれまで以上に荻野さんと一緒に作った感覚が強いし、特に「blue poetry」はその要素が反映されてる気がする。ふざけてやったセッションをユナが面白がってくれたり、荻野さんと密にミックスを練ったり、これまでだったら使われなかっただろう僕が作った打ち込みパートが採用されていたりして、ライブでやるのが楽しみな曲です。
あの海岸で聴いていた音楽たち
──それで言うと「luminous」や「ghostpia」も、シューゲイザーを軸にした激しい展開のある、ライブ映えする曲になりましたね。
福富 今年の4月から新しい試みとして、デモ出しミーティングをすることになって。そのときに僕は「luminous」「ghostpia」「Air」のデモを提出したんですよ。初期段階からあったこの3曲は「see you, frail angel. sea adore you.」の中でもコマーシャルな立ち位置というか。歌詞も早い段階で着手していたから震災のこともストレートに入ってますし、アルバムの音像や世界観を示す曲になっている気がします。録った順番は「Moon Shaped」が最初だけど、音像という意味ではこの3曲が出発点になるのかな。
畳野 「luminous」と「ghostpia」は今ライブでやりたい音像が明確に表れている2曲ですけど、歌を乗せるときにシューゲイズやエレクトロニカの温度感を自分のメロディに変換するのは難しかったです。浮遊感や宅録感を出すために、声を張り上げずに囁くような表現に挑戦してみたり、声を重ねて加工したり、これまでやったことのない手法をいくつか取り入れました。
福富 個人的に「luminous」の制作で印象に残っているのは、冒頭のループするギターのフレーズ。これは自分で弾いたギターをサンプリングして作ったんですよ。Logicを上手に使えなかったところからめちゃくちゃ勉強して、自分がやれなかったことを1つ形にできたのはうれしかったですね。
──Homecomingsは過去のアルバムでも新しいことに挑戦してきましたが、今回シューゲイズやエレクトロの要素をここまで色濃く取り入れたのには何か理由があるんですか?
福富 さっきも話したように自分のルーツにあるものやし、今好きで追いかけている世界各国のいろんなシーンもそういう流れになっている気がするので、その時代性も含めてやってみたかったんです。あとは「地元の海岸で聴いてた音楽をやりたい」というのも裏テーマとしてあって。当時あの海岸でSUPERCARの「HIGHVISION」や、くるりの「THE WORLD IS MINE」を聴いてたんですけど、打ち込みが入ってるし、どちらも少し暗さがあるじゃないですか。どのアーティストにも1枚はある、内に向いたアルバムというか。時代的にRadioheadの「Kid A」の流れもあると思うんですけど、そういった音楽が隔世遺伝的に自分のルーツになってる。これまでのアルバムにも火種になるような曲は入れてきたけど、自分がやりたいことをしっかりと形にできるようになったからこそ、今回のような音像で曲を思いっきり作ってみたかったんです。
ドラムは絶対にThe Novembers吉木諒祐しかいなかった
──6曲目の「recall (I'm with you)」には、サポートドラマーとしてThe Novembersの吉木諒祐さんが参加しています。吉木さんとはもともと面識があったんですか?
畳野 HomecomingsとThe Novembersで共通の知人がいて、その人が吉木さんに私たちのCDを渡してくれたのがきっかけでつながりました。知り合ったのはめちゃくちゃ前だよね?
福富 うん。吉木さんは僕らが代官山UNITで初めてワンマンをやったときも観に来てくれて、ずっと気にかけてくれているんです。今年の2月に名古屋で僕らとKhaki、ayutthayaの3組で対バンしたんですけど、ayutthayaのサポートで吉木さんが来ていて。ひさしぶりに吉木さんのドラムを聴いて、「アルバムに参加してもらいたいな」みたいな話はしていたんですけど。
──「recall (I'm with you)」の制作はどのように始まったのでしょう?
福富 この曲のデモはめっちゃ前からあったんですよ。アルバム曲が出そろってきた頃に「何かもう1曲やりたいな」と過去のデモを漁っていたら、「Shadow Boxer」のときに形にならなかった曲のデモのデータが見つかって。
──「Shadow Boxer」は2022年8月発表のメジャー3rdシングルで、のちに「New Neighbors」に収録されました。Homecomingsがエモにグッと接近した1曲でもあり、畳野さんは以前のインタビューで「ライブで演奏したときに体に浸透していく感覚があった」と話されていましたね。
畳野 個人的に「Shadow Boxer」は「New Neighbors」の中でも大きい存在で、今回のアルバムではそこに続くような超オルタナな曲を絶対に作りたかったんです。「Shadow Boxer」はオープンD(※すべての弦を開放弦で鳴らしたときにDコードになるチューニング)で作っていて、そのチューニングでもう1曲ライブで演奏できるようなものを、と考えていたんですけど全然形にならなくて(笑)。そんなときにトミーが「『Shadow Boxer』を作ってたときのデモがあるよ」と送ってくれて、それと別のデモをかけ合わせて「recall (I'm with you)」のベースができました。
──ちなみに、なぜ「Shadow Boxer」に続くような曲を作りたかったんですか?
畳野 「Shadow Boxer」は手応えのある曲ではあるけど、その一方で制作中にできなかったこともたくさんあるんですよ。ライブを重ねるごとに進化していったというか、その「Shadow Boxer」の音源ではできなかったことを「recall (I'm with you)」でやりたくて。そのためにも絶対、ムキムキな吉木さんに叩いてもらいたかったんです(笑)。
福富 本当に吉木さんに当て書きしたみたいな感じやったよな。吉木さんに叩いてもらうの前提で作ったというか。
福富 「Shadow Boxer」に限らず、「New Neighbors」はやり残したことが多いアルバムなんです。「4人それぞれのやりたいことをやる」っていう矢印がいろんな方向に向いてる曲が並んだアルバムだったので、その1本1本の矢印にまだまだ伸び代があった気がしてて。それは「ここまでやっていいのか?」という確認をしながら制作を進めたからなんですけど。今回は前提として「めちゃくちゃにしましょう」という共通認識があったから、僕も積極的にミックスに参加して「ここは割れてもいいから音圧を上げましょう」と意見を出したりして。だから「recall (I'm with you)」は、音像的にも「Shadow Boxer」でやりたかったことの1つ上までいけたんじゃないかと思います。
畳野 うん。自分のやりたかったことをちゃんと形にできた感覚がありました。
──アルバムの後半には「recall (I'm with you)」の熱を鎮めるように、浮遊感のある電子音とノイズで構成されたインスト曲「(all the bright places)」が配置されています。この曲は福富さんが作ったそうですね。
福富 制作が進むにつれて、自分が思っている以上に“ちゃんとしたアルバム”になってきた感覚があって。「THE WORLD IS MINE」も「HIGHVISION」も、少しいびつなところがあったなと思い出したんです。あとはエレクトロニカをしっかりやってるというのを形にしたくて、曲の伴奏としてではなく、アルバムの後半にインストとして入れることにしました。
──このトラックが入ることでアルバム全体の雰囲気が変わりますよね。
畳野 うん。コンセプトアルバムっぽくなりました。
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この2曲が並んでいることに意味がある