Homecomings「Moon Shaped」特集|大きな変化を迎えて気付いた大切なこと (2/2)

4人でレコーディングした最後の曲

──ここからは映画「三日月とネコ」の主題歌「Moon Shaped」についてお聞きします。この曲は昨年12月の大さん橋ホール公演でも演奏されていて、時期的に石田さんを含めた4人で作った曲ということですよね?

福富 そうですね。主題歌のお話をいただいた時点でなるの卒業は決まっていたし、リリースされる頃になるはもういないこともわかっていたけど、別の人にドラムをお願いしようとは考えてなかったです。

畳野 なんだかバタバタしてる最中で、私は「これで最後だ!」と思う暇もなかったです。スタジオに入って「そう言えばなるとの録音はこれで最後じゃない?」みたいな(笑)。

──では、皆さんとしてはいつも通りの制作という感覚だったんですか?

畳野 うーん、そういうわけでもなくて。何か新しいものを作ろうという意識はありました。それにスタジオに入る頃には、4人でレコーディングする最後の曲やし、Homecomingsの今後の方向性を定める大事な曲になる予感があったから、みんな気合いが入ってたと思います。アレンジもかなり時間をかけて考えたので。

福富 そうだね。

Homecomings

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畳野 「New Neighbors」(2023年4月発表のメジャー2ndアルバム)のときはそれぞれがデモを出し合って、なんとなく形ができたらスタジオで微調整するという流れが多かったんです。でも「Moon Shaped」は「ドラムはもっとこうだ!」って全員で時間をかけてアレンジを練ったりして、その感じはすごくひさしぶりで今思うとエモい瞬間でした(笑)。

福富 間奏になるのドラムにスポットライトが当たる部分があるんですけど、そこはかなり時間をかけて作りました。でも彩加さんはなるが卒業するからあのパートを作ったわけじゃないんだよね?

畳野 全然。もともと間奏にはギターソロじゃなくて、ドラムとベースがグワーッと絡むようなパートを入れたかったんです。

福富 僕はその構成が面白かったので、なるには「もっとできる!」と言ってがんばってもらいました(笑)。

Homecomingsが今やりたいことを形に

──福富さんは以前、アイデアの種をストックしているから無の状態から曲を作ることは少ないと話していましたけど、「Moon Shaped」の制作はどう進めていったんですか?

福富 この曲に関してはなんの種もなかったんですよ。ただ、A&Rの方と2人で飲んだときに、この主題歌の話とは関係なく「次はどんな曲があったらうれしいですか?」と聞いたら「The Smashing Pumpkinsの『Mayonaise』みたいな曲がいい」と言われたんです。それがなんとなく頭に残ってたから、「Mayonaise」は1つのテーマになってましたね。でも、本人にデモを送ったら全然気付いてなかった(笑)。

畳野 まあ、そのひと言のおかげで曲ができたから(笑)。

福富 歌詞はもちろん映画の世界観に合わせて書いたんですけど、楽曲としてはHomecomingsが今やりたいことを形にした感じ。僕の中でオルタナ、美しさ、シューゲイズ、「Mayonaise」……というイメージの箇条書きがあって、それを彩加さんがうまく形にしてくれました。

──福田さんはベースのフレーズを入れる際に難しかったことはありますか?

福田 この曲は全然迷わずにスッと入れることができた気がします。しっくりくるというか、そういうときはめっちゃうれしくなります。

福田穂那美(B)

福田穂那美(B)

福富 間奏部分のベースは複雑なんですけど、迷わずにあのフレーズを弾けるのがほなのすごさだと思います。

福田 入れてるときは悩んでたんやろうけどね。でも曲自体がスッと自分に入ってきた感覚はありました。あと彩加が作るコーラスがすごいんですよ。「US / アス」くらいからメロディの上と下を行くコーラスが増えてきたんですけど、やっていてめっちゃ楽しいんです。

バンド外の活動で得た気付き

──僕は畳野さんのボーカルの美しさ、表現の豊かさも「Moon Shaped」の聴きどころの1つだと感じて。畳野さんはここ数年ソロで弾き語りをする機会が増えましたが、その経験が反映されていたりするのでしょうか?

畳野 どうだろう……ソロのときも基本的にはバンドの曲をメインに演奏するんですけど、「この曲は意外と1人で歌うのもいいな」とか「これはバンドのサウンドがないとダメだ」という発見があるんです。それに自分の声のトーンの「ここが気持ちいい」みたいなところは弾き語りを通して気付くことが多いから、最近はバンドで曲を作るときにこれまでと違うキーにすることもありますね。「Moon Shaped」は弾き語りでも歌えるようにしたいという意識は少しありました。

──福富さんは、畳野さんから受け取った「Moon Shaped」のデモを聴いてどのように感じました?

福富 彩加さんのデモは送られてきた時点である程度アレンジが乗っているので、そういう意識があるとは考えてなかったな。僕はアイデアの面白さや音の完成度に関心があって。全体のアレンジを含めて曲作りをしてるんだと思ってた。でも、音を引いても歌えるってことだから最強ですよね。

Homecomings

Homecomings

福田 私もよく彩加の弾き語りを観に行くんですけど、バンドじゃ表現できないようなことをやってるんですよね。例えば「US / アス」は打ち込みがめちゃ入ってる曲やけど、弾き語りで聴くと全然違う印象になっていて。同じバンドの一員としても新しい発見があるし、すごく素敵やなって思います。

「三日月とネコ」に感じたシンパシー

──「Moon Shaped」の歌詞には原作マンガのセリフの引用も出てきますけど、どのように書き進めていったんですか?

福富 まず1つの作品のために曲を書き下ろせるってすごく幸せなことだと思うんですよ。

──それはどういった点が?

福富 タイアップには既存曲を提供するパターンもありますよね。だから書き下ろしを条件にオファーをいただくと「どういうことなんやろう?」って毎回考えるし、監督さんとの打ち合わせもたくさんするんです。今回は監督さんに「『i care』の歌詞がすごく好きです」とおっしゃっていただいたので、それは歌詞を書くうえで意識しました。

Homecomings

Homecomings

──なるほど。

福富 あとは「三日月とネコ」という作品に、これまでのタイアップの中でも一番共感できたことが大きかったです。具体的に言うと、独自の視点で何かを描こうとあまり思わなかった。例えば「愛がなんだ」に「Cakes」を書き下ろしたときは、自分なりに恋愛について考えて「男女ではない組み合わせの恋愛もあるから」という思いがあったんです。それに対して、今回は「三日月とネコ」の物語から受け取ったものをそのまま音楽にする感覚でした。

──なぜ「三日月とネコ」にそこまで共感したんだと思います?

福富 恋愛や友情でつながってるわけじゃないバラバラの3人が同じ家に住んで、ある意味隣人として手を取り合っていて。それが閉鎖的ではないところがすごくいいなと思ったんです。それは「カギはかけない小さな世界」という歌詞につながるんですけど、周りの人や社会とつながりながらそれぞれが自分の選択をしていく。社会に対する疑問や怒りが表現されているところにもシンパシーを感じていて、例えばジェンダーのことを登場人物が完全に理解しているとかじゃなくて、配慮を欠いていたり無知な部分があったりするんだけど、それをお互いに補い合ったりケアをしていく。それはある意味Homecomingsがやりたいことと重なると思ったんです。

畳野 私も原作を読んで曲を書いたんですけど、こういう作品に携われるようになったことがうれしくて。「三日月とネコ」の内容と自分たちが伝えてきたことが合致してるから、曲ができるのも早かったんですよね。歌詞もすごく美しいし、ちゃんと原作の内容をうまく入れ込んでる。私はサビの歌詞が一番好きで、「トミーは本当にいい歌詞を書くなあ」っていうのが全部ここに詰まってる気がしました。サビのメロディを考えるときもそうやし、レコーディングのときも、この歌詞は原作があったからこそできたんやろうなと感じてました。

畳野彩加(Vo, G)

畳野彩加(Vo, G)

福田 私は最後の「耳をすませば胸をたたく はなればなれのよわい予感 それも抱いて眠る部屋で 欠けたかたちは 寄り添い合ってゆく」の部分に切なさがあって好き。

福富 その部分はなるのことも少し入ってたりして。

福田 そうなんだ? 私はトミーと彩加がそれぞれ個別にメロディと歌詞を書いて、この曲を作ってるってことが改めて本当にすごいなと思う。私は担当していない部分なので、この2人のタッグはやっぱり間違いないなって。

Homecomingsの次なるモードは?

──先ほど畳野さんから「Moon Shaped」では新しいことをやりたかったというお話がありましたけど、Homecomingsはこれからどんなモードを提示していく予定なんですか?

福富 7月に東名阪のCLUB QUATTROを回るツアーがあるんですけど、ゲストのメンツがまさに新しいことの象徴という感じで。「自分たちはこれからこういう音を鳴らしていくぞ」というのを、このツアーで先に表現できたらいいなと思ってるんです。

畳野 言葉にできない感じはあるよね。「New Neighbors」の流れを汲みつつ、また新しい方向に行く予感はします。

福富 うん。次のアルバムは「New Neighbors」と同じことを表現していても、方向性みたいなものは対になりそうです。あとは引き続き“美しさ”みたいなものは変わらず意識してますね。

畳野 私はもう少しライブの空気感が入るのかなと思ってるんだけど、どう?

福富 どうでしょうか……。

畳野 違うみたいです。またケンカです(笑)。

一同 (笑)。

──とりあえずは7月のツアーに足を運べば、Homecomingsの新しいモードを感じることができるということですよね。

福富 そうですね。新曲もたくさん演奏するので楽しみにしておいてほしいです。あとは今の時点で言えることだと、そのモードはツアーのフライヤーの雰囲気にも表れている気がします。

──では最後に、福田さんが今年の活動で何か実現したいことがあれば教えてください。

福富 これはいいね(笑)。

福田 えー、なんやろう。ここ数年ずっと言い続けてる海外でのライブを本当にどうにか実現したいです。

Homecomings

Homecomings

ライブ情報

Homecomings presents 「many shapes, many echoes」

  • 2024年7月6日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
    <出演者>
    Homecomings
    ゲスト:Laura day romance
  • 2024年7月7日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
    <出演者>
    Homecomings
    ゲスト:揺らぎ / BROTHER SUN SISTER MOON
  • 2024年7月13日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
    <出演者>
    Homecomings
    ゲスト:kurayamisaka / downt

プロフィール

Homecomings(ホームカミングス)

2012年、京都精華大学在学中に福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)、石田成美(Dr)、福田穂那美(B)の4人により結成されたバンド。2014年に1stアルバム「Somehow,Somewhere」、2016年に2ndアルバム「SALE OF BROKEN DREAMS」、2018年に3rdアルバム「WHALE LIVING」をリリースした。台湾やイギリスなどでの海外ツアーや、「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演などライブ活動も精力的に展開。2017年にはイラストレーターのサヌキナオヤと共同で、映画と音楽のイベント「New Neighbors」もスタートさせた。また2019年には活動拠点を京都から東京に移し、2021年5月にはポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからアルバム「Moving Days」をリリースしてメジャーデビュー。2023年4月にはメジャー2ndアルバム「New Neighbors」を発表した。2024年2月にくるりを迎えて地元・京都のKBSホールで開催したライブイベントをもって石田がバンドを卒業。5月に新体制初のシングル「Moon Shaped」を配信リリースした。7月からは東名阪のCLUB QUATTROを巡る対バンツアー「many shapes, many echoes」を行う。