「Moving Days」でやってないことをやりたかった

──ここからは最新曲「アルペジオ」について聞かせてください。この曲は広瀬アリスさんが主演を務めるドラマ「失恋めし」の主題歌で、どこか影がありつつもさわやかなギターポップに仕上がっています。福富さんは前回のインタビューで「常に次やりたいことやテーマを考えているから、まったくの無の状態から曲を書くことは少ない」と話していましたが、この曲はどのように制作を進めていったのでしょう（参照：Homecomings「Moving Days」インタビュー）。

福富　ドラマのお話をいただいた時点で頭の中にいろんなアイデアがあったんですけど、今回は「Moving Days」でやってないことをやりたかったんです。それでギターポップをやろうと決めて、音像みたいなものはパッと思いついたので完成までスムーズに進みました。

──歌詞はイチから書いたんですか？

福富　はい。去年、「ソロ活女子のススメ」というドラマに提供した「Herge」はもともとあった曲だったので、ドラマの主題歌を書き下ろすのは今回が初めてだったんですよ。映画だと「愛がなんだ」の「Cakes」も「リズと青い鳥」の「Songbirds」も、ほぼほぼ完成した映像があったり脚本がすべてそろった状態で歌詞を書いたんですけど、ドラマの場合は撮影と楽曲の制作を並行して進めるから素材がすべてそろってからというわけにはいかない。だから歌詞に関しては、これまでとは違う向き合い方をしなきゃなと。これまではその作品にぐっと入り込むイメージで歌詞を書いていたけど、今回はもう少し距離感のある作り方をやってみたくて。

──距離感？

福富　「Cakes」と「Songbirds」は、関連作品もすべてチェックしながらめちゃくちゃ作品に入り込んで歌詞を書いたんです。今回はなんというか、スピッツが劇場版「きのう何食べた？」に提供した主題歌「大好物」くらいの距離感が出せたらいいなと思っていて。具体的には作品に寄せすぎてないのにぴったりハマってる感じというか。僕ならもう少し作品に合わせにいくだろうから「大好物」の距離感を参考に、作品との向き合い方を少し変えてみたんです。

歌詞へのこだわり

──ちなみに「アルペジオ」のサビ部分の「はなたばと手のひら」というフレーズ、花束という言葉が平仮名になっていますよね。福富さんが以前どこかのインタビューで、街という言葉1つ取っても「街、町、まち、と使いわけている」と話しているのが印象に残っていて。今回の「アルペジオ」における“はなたば”にも何かこだわりがあるんですか？

福富　そうですね。これはもう感覚でしかないんですけど、“まち”という言葉だったら、都市っぽいエリアを「街」、スモールタウン的な意味の「町」みたいに使い分けていて。“はなたば”だったら僕の中では「花たば」「花束」「はなたば」の3種類に分かれるんです。「アルペジオ」に出てくる平仮名の「はなたば」やったら柔らかい光が差してるイメージで、漢字の「花束」やったら暗い中に花束がポンっと置かれてるイメージ。あと最近のHomecomingsの楽曲には花束という言葉をちょくちょく入れていて、「Whale Living」には漢字の「花束」が出てくるんです。本当に感覚なので説明が難しいんですけどね。スタッフに一度、「間違えてますよ」と直されそうになったことがあります（笑）。

──（笑）。でも福富さんの中ではその表記にした明確な理由があるという。

福富　そうそう。意味が変わってくるので大事な部分なんです。

福富優樹（G）

──そういった歌詞のイメージは、ボーカルの畳野さんにも共有されているんですか？

畳野　そうですね。基本は歌詞があってこそなので、イメージを細かく伝えてもらうようにはしてます。

──あと「アルペジオ」は、「Cakes」同様に“僕”や“私”、“彼”、“彼女”といった言葉を使っていないのも印象的でした。

福富　恋愛が始まる1歩手前の気持ちを描きたいと思っていて。「失恋めし」のドラマは、花屋さんで働く男の子が広瀬さん演じる主人公の女の子に出会うというストーリーなんですけど、「アルペジオ」では登場人物の性別をあえて描いていないんです。でもドラマを観る方が違和感を抱くこともないだろうし、ドラマ以外の場所でこの曲が鳴っていても自然と耳に入ると思う。こういうジェンダーに関することとかは、曲作りをするうえで一番のテーマになっているかもしれないです。

──Homecomingsは近年、優しさをテーマにした楽曲を歌ったり、社会性を伴った音楽を鳴らすことを意識的に行ってますよね。ライブのMCだと福富さんが社会問題についてご自身の意見を話すことが多いと思うんですけど、そのマインド的な部分はメンバー間で共有しているんですか？

福富　そういう話はよくしますね。ただ、堅苦しい雰囲気にはならないというか、どんなテーマでもみんな自然体で話せていると思います。

──そういう話が気軽にできるのはバンドとしては大きいことですよね。

福富　周りの友達から、自分が所属するコミュニティではそういう話ができなくて困ってるという話も聞きますから。それが自然にできてるのはいいことかもしれないですね。

左から福富優樹（G）、畳野彩加（Vo, G）。

──メンバー4人でいるときはどんなことを話すんですか？

福富　真面目な話もするし、本当にしょうもない話もします。ドラムのナルちゃん（石田成美）だけ栃木に住んでいるのであまり長時間は話せないんですけど、練習終わりにスタジオから新宿まで4人で話しながら歩いて、ナルちゃんが帰ったあと残りの3人で3時間くらい喫茶店にいることもあります。で、3人とも住んでる街が一緒なので、最寄り駅近くのカフェに移動してまたしゃべって、みたいな。

畳野　この間は17時に練習が終わったのに、家に着いたのは深夜2時でした（笑）。

福富　ボーリングやカラオケとかには行かずにずっとしゃべってるよね。

──もう長い付き合いなのにそんなに話すことあります？（笑）

福富　それも週2くらいのペースで会ってるんですよ（笑）。