羊文学 ロングインタビュー|不安や葛藤の中、力強く響かせる“自分自身をハグする12曲” (4/4)

「人魚」に込めた“呪い”とは

──続く「人魚」の歌詞には、「呪い」というワードがたびたび登場します。

塩塚 この曲は大失恋をして……そのことを思い出して書きました(笑)。アレンジがすごく難しかったんですよ。シューゲイザーっぽい感じになりかけたんですけど、それは今までやってきたことだからやめて。抑えめのアレンジで、めっちゃムカついているんだけど無言の圧をかけるみたいな、そういうテンション感をうまく表現できたんじゃないかと思います。

──確かに歌詞からもサウンドからも、どこか喪失感が漂っていますよね。

フクダ 少しダークな雰囲気というか、初期の羊文学を思い出す感じもありますよね。歌詞の内容も考えさせられることが多くて、演奏をしていてすごくしっくりくる楽曲でした。サウンドアプローチ的にはオルタナティブロックで、間奏でシューゲイザーっぽいライドが入るとこともあって、そこも初期のサウンドに近しい印象を持ちました。この曲は「人魚」というタイトルも含めて好きですね。

フクダヒロア(Dr)

フクダヒロア(Dr)

塩塚 これ、タイトルを付けるのがすごく難しかったんですよ。友達と実写版の「リトル・マーメイド」を観に行ったときに、その子から「ギリシャ神話では、人魚は海にいる男たちを誘惑して食べる存在なんだよ」という話を聞いたのを思い出して、その話が曲にぴったりだと思って「人魚」にしました(笑)。強い言葉を使いましたけど、怒りの感情をぶつけたいわけじゃなくて、自分のために歌っているところはありますね。

焦りや不安の中にも生命力を

──「つづく」は塩塚さんのボーカル表現の豊かさが際立ってますね。

塩塚 「つづく」もアフター大失恋の曲(笑)。歌の感じもそうだけど、演奏もプリプロのテイクを使ったりして、ビシっと決まりすぎてない感じはありますね。ギターもアルペジオを弾けてないし、少し外れちゃってるところもあるけど、空っぽな自分の不安定さと「人魚」にも通ずる虎視眈々と次の展開を考える生命力を表現したくてそのまま使っています。その気持ちは歌にも表れているんじゃないかな。

河西 焦りや不安定な感じが出ていていいですよね。それにプリプロならではの音だったり、普通に演奏しても絶対出せない音が入っているのもポイントだと思います。

塩塚 最後のギターだけ足した気がする。シュシュって音が最後に入っているんですけど、ブリッジのペダルを借りてきて、それをサンプル音源みたいに刻んで使ったりしました。羊文学は最初の頃、そういうサンプル音をたくさん重ねるのが好きだったんですよ。今回のアルバムで言うと「つづく」や「Flower」には歌のサンプル音源を散らばせていて、そういうのをひさしぶりにできたのはうれしかったですね。

羊文学が鳴らす力強さ

──アルバムの最後は、塩塚さんのボーカルやバンドサウンド含め怒りの感情に振り切った「FOOL」です。この曲はドラマ「往生際の意味を知れ!」のエンディングテーマに使用されました。「FOOL」をアルバムの最後に配置したのはなぜでしょう。

塩塚 私たちは去年まで「優しさや儚さ」をテーマにしていたんですけど、今年は「これまで以上に力強い存在としてやっていく」みたいなコンセプトで活動していて。だからこの曲を最後に置くことで、このアルバムを今年出すことに意味が出てくるのかなと思ったんです。

──なるほど。

塩塚 この曲も歌詞が前半までしかできてなくて、その前半はただ「めっちゃムカつく。怒ってる」という感じだったんですけど、タイアップのお話をいただいてからサビ以降を書いていきました。結果的には少しでも前を向けるような曲になったのかなと思います。

──塩塚さんは「FOOL」を書いているときは何に対して怒っていたんですか?

塩塚 仕事がうまくいかないとかそういうことですね。私は自分の中で勝手に推測しちゃうんですよ。もっと自由にやらない自分がいけないだけなのに、そういうことに対して「はいはい」みたいな姿勢になってたっていう。

──はい。

塩塚 私は大学を卒業したあと会社員として働いていた時期があって。その会社の新人研修で、相手が出した案に対してはまず「いいですね」と言いましょうって教えられたんです。何か意見があっても「いいですね、でも~」と会話を進めましょうと。それでみんながそのやり方を実践し始めたんですけど、その時点で「いいですね」という言葉にはなんの意味もないじゃないですか。状況を見て1回肯定してから自分の意見を言ってくる人に対して、「はっきり言ってよ」と思うようになってしまって(笑)。そういうストレスが溜まって、やっぱり社会って大変だなと思ったんです。

──その怒りの感情で書いた曲が、結果的に前向きなものになったのは?

塩塚 ドラマの主人公はボロボロなんだけど、「絶対に自分が欲しいものを手に入れる」みたいな力強さがある。「傷付いても何があっても絶対に離さない」という執念深さは強さとは違うかもしれないけど、それもある意味強いってことだよなと思ったんです。

羊文学

──その「力強い存在」というモードは、今作っている楽曲にも反映されているんですか?

塩塚 今作っている曲はまた少し違う感じになりそう。ずっと力強い楽曲を作ってきたつもりでいたけど、あまり理解されていない感覚があって、それを今年はわかりやすく提示した感じですね。これからもそういうモードではあるけど、「意地でも力強く見せてやる」という力強さではなくて、今年の活動を経たことで自然にやっても伝わるのかなと思います。

横浜アリーナ公演「III」に込めた思い

──では最後に、来年4月に横浜アリーナで行われるワンマンライブ「羊文学 LIVE 2024 “III”」について聞かせてください。羊文学にとって過去最大規模のワンマンになりますが、タイトルの「III」にはどんな思いが込められているんですか?

河西 タイトルは私たち3人のことを表しています。羊文学にとって過去最大規模の公演だし、横浜アリーナは冒頭に話した、違う世界にある一段上のステージだと思っていて。大きなステージに立っても初心を忘れないように、羊文学としての柱をしっかり立てたいという気持ちも込めています。

──なるほど。

河西 横浜アリーナ公演は、これまで地道にやってきた羊文学の節目でもあるし、自分たちだけで1段上のステージに上がる初めての日でもあるので、「羊文学はこの3人でやっているんだよ」ということを一番に見せられたらと思います。

羊文学

ライブ情報

まほうがつかえる2023

  • 2023年12月14日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2023年12月25日(月)大阪府 フェスティバルホール

羊文学 LIVE 2024 “III”

2024年4月21日(日)神奈川県 横浜アリーナ

プロフィール

羊文学(ヒツジブンガク)

塩塚モエカ(Vo, G)、河西ゆりか(B)、フクダヒロア(Dr)の3人からなるオルタナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、同年10月に初の全国流通盤「トンネルを抜けたら」をリリースした。その後は1stアルバム「若者たちへ」や、“対になる作品”として発表された音源集「きらめき」「ざわめき」などコンスタントに作品を発表。2020年8月にソニー・ミュージックレーベルズ内のレーベル・F.C.L.S.からメジャーデビューを果たし、12月にメジャー1stアルバム「POWERS」をリリースした。2022年4月にはメジャー2ndアルバム「our hope」をリリース。本作は全日本CDショップ店員組合が選出する音楽アワード「第15回CDショップ大賞2023」で大賞の“青”を受賞した。2023年6月に台湾・Legacy Taipeiで初の海外単独公演を開催。香港、仁川、温州などの野外音楽フェスへの出演も果たした。2023年12月にアニメ「『呪術廻戦』第2期『渋谷事変』」のエンディングテーマ「more than words」や、NTTドコモ「ドコモ青春割」のCMソング「永遠のブルー」、テレビドラマ「往生際の意味を知れ!」のエンディング主題歌「FOOL」などを収録したメジャー3rdアルバム「12 hugs (like butterflies)」を発表。12月に東京、大阪でクリスマスライブ「まほうがつかえる2023」、2024年4月に過去最大規模となる神奈川・横浜アリーナでのワンマンライブ「羊文学 LIVE 2024 “III”」の開催を控えている。