音楽ナタリー PowerPush - 平井堅
“平井堅だからこそできること” 話題沸騰インドPVの真相
最終的に曲に行き着けば、取っ掛かりはなんでもいい
──「ソレデモシタイ」の曲自体のお話も聞かせてください。そもそもこれ、トラックが相当ドープだと思うんですけど。コンペで選ばれたんですか?
そうです。ビジュアルに沿って音もちょっととがったものを、ということでこの曲を選びました。カッコいいですよね。
──じゃあ順番としてはPVの構想があって、曲を選んで、詞を付けたと。
そうです。
──詞の内容はどのように思い付いたんですか? 「本命に匂いでバレないように、私の家のシャワーでボディソープを使わない彼」への思いをぶちまける、いわゆる不倫ソングですが。
以前こういう経験をしている女友達がいて、ボディソープの話を聞いていたんです。僕はまっとうに生きてきたもんですから、そういう経験も考えもなくて、ああそういうもんなんだと感嘆して。その子の前で許可を得て、その場で携帯でバーッと書いておいたんですね。で、今回それを思い出して当ててみたら妙にメロディにハマって。「ホントにこれがシングルでいいのかな」とかギリギリまで悩みましたが、思い切って……はい。
──「ホントにこれがシングルでいいのかな」というのは?
性格上不安は常にあるんですけど……ぶっちゃけ、ノータイアップでシングルを出すっていうのは今の時代誰しも勇気がいることだと思うんで。逆にタイアップじゃないからこそ自由に書ける、エッジィなフレーズが使えるっていうのもあって、その意味でもこういうビデオを作ったんですけど。つまり取っ掛かりはなんでもよくて、“平井堅、インド人と踊る”→「ちょっとウケるんだけど」→YouTube触ってみる→「この人はどこに向かってんのガハハ」→何回か聴いてるうちに曲をいいと思う、とか、順序はなんでもいいから最終的に曲に行き着けばいいなと思っていて。要するに聴いてもらわないとしょうがないから。
──人々をつかむキャッチを付けたいと。
平井堅が新曲を出すっていうときにタイアップがない場合、何をきっかけに聴いてもらうかってことで、それが今回はインドだったんです。インドがタイアップみたいなものです。自分としてはすごく濃い思い出と潔い曲ができたなという自負はありますけど、やっぱり世間っていうのはどういうものかわからないから毎回不安ではありますね。
──でもいざ世に出してみたら、“平井堅、インド人と踊る”というビジュアルの取っ掛かりから大きな話題になり、YouTubeを観て爆笑して、「曲がいい」「詞がすごいな」と思った人はかなりいると思うんです。平井さんの考えた“戦略”は大成功と言えるんじゃないでしょうか。
成功(笑)。だといいんですけど。
道徳から外れた恋愛のほうが描きやすい
──こういうスリリングなラブソングは、平井さんの得意とするスタイルの1つですよね。道徳的には背いてるけど本能のままに走る禁断の愛だったり、一筋縄では結ばれない関係だったり。
うーん、そうですね。闇を描くというか、背徳感、賞賛されない恋愛……そういうものを描きたいというより、そういう恋愛のほうが本質が見えやすいっていうか。なんでそうなってしまったのかとか、その人の寂しさとか侘しさとか、格差とか対比とか、いろんな点から描けるんです。「おんなじさみしさ」も若干そうなんですけど、ラブソングに関しては、道徳とか「こうあるべき」っていうものから外れてしまった恋愛のほうが曲にしやすいですね。
──確かに黒いところをフィーチャーすればおのずと白いところも目立ちますし、対比を作ればドラマチックになりますね。
うんうん。あなたがいて私がいて、今日も幸せ、明日も幸せ……太陽……そよ風……みたいな歌だとなかなか描きづらいところはあるかもしれないですね。もちろんそういう曲も全然あるし、歌っていきたいんだけど、最近は前者の方向が多い気がするし、そういうモードなのかもしれないですね。
女性は折れない強さを兼ね備えた動物
──先ほどの発言を汲み取ると、「おんなじさみしさ」は「ソレデモシタイ」とまったく違う曲調ではあるけど、どこか共通してる部分もあるんですね。
そうですね、奇しくも(笑)。まあ……みんなさみしいって歌ですね。こちらに関してはドラマ「さよなら私」の主題歌のオファーがあったので(参照:平井堅、永作博美主演NHKドラマの主題歌担当)、その主人公の気持ちをなぞって書きました。どっちも女性目線なのは偶然なんですけど。
──どうして平井さんは女性の心理がこんなにわかるんですかね。よく聞かれる質問かもしれないですけど。
(笑)。全然わかってなくてですね、尊敬してます、女性のことは。男性より平均寿命長いし、圧倒的に男より強いなっていつも思ってて。男のほうが全然弱い感じがします。
──平井さんが思う、男性と女性の違いってどんなところですか。
男の人って意地とプライドとロマンで生きてるから、それを崩すなら死ぬっていうくらいの人もいて、何かあったらポキッと折れちゃう人が多い気がするんだけど、女の人って情緒的だから、すぐ傾くけどしなるっていうかね、絶対折れない。蛇みたいに絶対這い上がってくるっていうか。そういう強さを兼ね備えた動物だなと思うんです。
──なるほど。
あと、どちらも歳を重ねて老いるわけだけど、子供を産むなりキャリアなりっていう揺れ動く選択肢が男性よりも明確にあるでしょ。そういう意味では女の人のほうが面白いし、ドラマにしたくなりますよね。だって僕が生まれる前から、女性が結婚でなんやら、職場でなんやら、そういうドラマってあるけど、男のものは少ないですもんね。男が仕事を取るか恋を取るかで悩むストーリーなんて誰も見たくないと思うんですよね(笑)。
- ニューシングル「ソレデモシタイ / おんなじさみしさ」 / 2014年12月10日 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1620円 / BVCL-619~20
- 通常盤 [CD] 1490円 / BVCL-621
初回限定盤CD収録曲
- ソレデモシタイ
- おんなじさみしさ
初回限定盤DVD収録内容
- ソレデモシタイ MUSIC VIDEO+MAKING SCENE
通常盤CD収録曲
- ソレデモシタイ
- おんなじさみしさ
- 残響
- Tomorrow
- ソレデモシタイ(less vocal)
- おんなじさみしさ(less vocal)
平井堅(ヒライケン)
1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションに入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも3作発表。フェイバリットアーティストはダニー・ハサウェイ。