この流れをきっかけに、また音楽シーンが面白くなっていくのかな

──最近はストリーミングやサブスクリプションサービスでの楽曲配信をきっかけに、サーフミュージックファン以外からの人気も急上昇しているそうですね。

僕自身、サブスクリプションとか詳しくない人間なので、どういう反響が起こっているのか実感がないというか、よくわからないんですよね。ただ、スタッフさんから数字を聞かされて、そんなに聴いていただいているんだなって（笑）。本当にうれしいことですよ。

──平井さんの音楽って、昔ながらのアナログ感があるアコースティックなものですよね。それを最新のデバイスを駆使して、多くの人が聴いているって、面白い現象だなと思います。

僕の昔ながらの手法で作られるシンプルな楽曲が、最先端のテクノロジーを使って聴かれているって、面白い状況ですよね。でも、そういう音を今の人たちが求めているのって、なんとなくわかる気がするし、またこういう流れをきっかけに、また音楽シーンが面白くなっていくのかなって。

──平井さん自身、最近の状況に応じて、音楽表現スタイルを変化させている部分はありますか？

アルバム「Slow & Easy」（2015年発表）をリリースして以降、「Life is Beautiful」までの音の流れって、そんなに変化はないんですよね。でも、アコースティックサウンドを深く追求している部分はあります。結果、音の密度がより濃密になっているような気がしますね。

──このたび完成したミニアルバム「Love is Beautiful」は、これまでの作品の中で最も濃密で温かみのあるアコースティックな作品になっている気がしましたが。

これまで秋や冬に作品をリリースしたことがほとんどなくて。どういう音をリスナーの皆さんに聴いていただくのがいいのかを考えたときに、寒い季節にも心が温まる音、また大切な人との心の距離がより縮まるような音にしたいと思ったんです。

きっかけはドノヴァンから誘われたセッション

──本作は、セルフカバーを含めカバー曲ばかりで構成されています。

そもそも、この作品をリリースする予定はなかったんです。しかし、去年僕がリハーサルをしていたスタジオの近くで、ドノヴァン・フランケンレイターさんがライブをやるという情報を耳にして、バンドのメンバーと一緒に足を運んだら「どうせだったらセッションしない？」って話になって、ステージに上がったんです。そこで意気投合して、以降も沖縄や都内でも共演させていただいた流れから「一緒にスタジオに入ろう」ということで、ライブでも一緒に演奏させていただいたことのある彼の楽曲「It Don't Matter」ををセッションすることになったんですね。でも、完成したものの、楽曲を発表できるいいタイミングが見当たらなくて。それだったらほかにもカバーを入れて、アルバムを作ろうという話になったんです。

──そうだったんですね。実際、ドノヴァンとのレコーディングは、どんな雰囲気でしたか？

大抵、フィーチャリングで楽曲制作をする際って、事前に相手とどういう方向性の楽曲にするかをじっくり話し合ってからスタートするものなんですけど、ドノヴァンさんとは、何度も共演させていただいているので、そういう話し合いをする必要がなかったんです。ライブの延長線上で、自然な流れでレコーディングできたのが心地よかったですね。また音楽性も通じる部分が多いし、とてもレコーディングしやすかったです。

──ほかにも本作では、3曲の洋楽カバーを収録されています。

小さい頃から父親の影響で、エリック・クラプトンさんの楽曲やブルースをよく聴いていて。特に「Change the World」は、強い影響を受けた1曲だったので。「I Don't Want to Miss a Thing」は、この曲が主題歌になっている映画「アルマゲドン」が、すごく好きで。小学生の頃「男ってこうあるべき！」「こういうふうに生きていくべき」と教えてくれた作品だったんです。また、Aerosmithも昔から好きで聴いていたので。アリシア・キーズさんの「If I Ain't Got You」は、リリースされた2003年頃ってR&Bサウンドが主流だったんですけど、その中でも群を抜いてクオリティの高い楽曲だったというか。ブラックミュージックのルーツであるゴスペルやブルースの要素も感じる仕上がり。どれも、僕にとって大切な楽曲であるので、カバーすることにしました。

──また、ほかに「Beautiful」と「Life is Beautiful」のセルフカバーも収録されています。

僕の楽曲って、夏や海をイメージしたものが多くて。どれが秋や冬の季節にぴったりなのかを選ぶのが大変だったんです（苦笑）。その中で、この2曲がぴったりなのかなと思って。結果、楽曲の持つダイナミクスを表現できたというか、より僕の核心を突くような内容に仕上がったと思いますね。

自分の表現方法をもっと多角的なものに進化させる

──レコーディングするにあたって、リリースされる時期を意識して作った部分はありますか？

バンドとのセッションで音を作るとか、根本的な部分での変化はないと思います。ただ、今回はギターではなくピアノの音色をメインにしました。ギターをメインにしてしまうと、どうしても夏や海っぽさが、僕の場合は出てしまうので（笑）。いい部分は残しつつも、今の季節にフィットする音を表現できた気がしますね。

──全体的に、優しくて温かい音になっていますよね。

ありがとうございます（笑）。実はこの作品は「Life is Beautiful」で表現しきれなかった要素を表現している部分もあるんです。具体的なことを言うと、さっきも言ったようにダイナミックな音というか。ダイナミックなバラードを「Life is Beautiful」では、あんまり収録することができなかったんですね。その部分を「Love is Beautiful」では表現することができた気がします。

──また、タイトルにもありますが、愛を感じる仕上がりにもなっている気が。

そうですね。愛って人生において一番大切なものだと思うんです。それは音楽に対してもそうだし、日常生活においてもそう。それがなければ、日々を過ごすモチベーションにならない、普遍的で切り離せないもの。「Life is Beautiful」と「Love is Beautiful」の制作を通じて、そんな思いがより強くなりました。

──11月から年末にかけては、アコースティックツアーを開催します。そこでも、純粋で芯の太い愛を感じられそうですね。

今回のツアーは、ドラムがいない編成なので、より僕の芯に迫ったステージになるかなって。楽曲も「Love is Beautiful」の収録曲はもちろんですが、過去のものもアコースティックにリアレンジして披露します。オリジナルでは、いろいろ欲張って音を加えたりしたものもあるんですけど、今回はそこを練り直して、現在自分が届けたい音のカタチにしているので、楽しみにしてほしいですね。

──2016年は2枚のアルバムを発表したり、ライブも相当な数をこなし、精力的に活動をされていましたが、2017年はどんな1年にしたいですか？

よりアコースティック感を強めていきたいという思いはありますが、ほかにも楽曲の幅を広めたいという気分もあります。例えばインスト曲とか、ウクレレとボーカルだけとか。自分の表現方法をもっと多角的なものに進化させる1年にしていきたいですね。

──よりシーズンレスな音になっていきそうですか？

そこはなかなか厳しいですね（苦笑）。「Love is Beautiful」でも、やはりどこかに“海感”が出てしまっていますから。そこも含めて、アルバムを楽しんでもらえたら。