死の核心に触れた関係者との対話
──ロスの解放的な雰囲気から一転、hideさんが足しげく通った西麻布のバー、Rallyでのインタビューはかなりシリアスなムードでした。松本さん、レコード会社の宣伝担当だった姉帯恒さん、hideさんのボディガードだった江夏洋三さん、そしてRallyの門野久志さんに亡くなる前日の話を聞くというシーンですが、撮影にはどんな気持ちで臨まれたんですか?
集まってくれた4人の方から「あの日の話には踏み込んでほしくない」という雰囲気はビシビシ感じていましたが、そこに向き合わないと真実は見えてこないだろうなと思っていました。ただ、Rallyに入る前、僕も矢本くんもめっちゃビビってたんですよ。「まあ、話の流れで聞けたら」「いや、矢本悠馬だったらやれるでしょ」みたいな話をしていたんですが、「hideさんが亡くなった日のことをお伺いします」ということで集まってもらっただけで、どこまで掘り下げられるかはまったくわからなかったんです。その部分に向き合うことはものすごくセンシティブだし、ファンの中には「こういう場面は観たくない」と思う人もいるかもしれない。だけど、その部分がないと映画が成立しないという気がしたので……。実際に撮影が始まると、しっかりと踏み込んだ話をしてくれたし、すごく大事な話をしてくれたと思います。あそこまで具体的でリアリティのある話が聞けたからこそ、最初に言った「そんなことどうでもいいよね?」というところにつながったんじゃないかな。
──映画全体の中でも特に重要なポイントですね。
そうですね。本当は4人の方々もしゃべりたくないだろうし、こっちも聞きたくないんですよ。ただ、僕の中では1つの確信があったんです。亡くなってから3年とか5年では傷が癒えてない人がいっぱいいたと思うんですが、20年目という節目を迎えて、そこに踏み込んで真実を追求しても、しっかり受け止めてもらえるんじゃないかなと。もちろん、そこに正義があれば、ですけどね。
生きていたらどんなことをしていただろう
──「ROCKIN'ON JAPAN」の山崎洋一郎編集長による、hideさんの音楽的な功績についてのコメントも心に残りました。
山崎さんは、アーティストとしてのhideさん像を論理的に語れる人だと思いました。僕らも知らなかった音楽的な魅力をわかりやすく話してもらえたことも大きかったですね。もともとは映画のタイトルにもなっている楽曲「HURRY GO ROUND」について話を聞こうと思っていたんです。「この曲の歌詞は遺書じゃないか? とも言われていますが、山崎さんはどう思いますか?」と。山崎さんは亡くなる1カ月前にロスでhideさんの取材をしているし、どういう思いで「HURRY GO ROUND」の歌詞を書いたのかを分析してもらうのが目的だったんですが、それ以上の答えをいただきましたね。
──完全限定生産のボックスセット「hide 1998-Last Words-」に掲載されている、「ROCKIN'ON JAPAN」1998年6月号の山崎さんによるインタビュー記事を合わせて読むと、映画の中で話していたことがさらに理解できるかもしれないですね。
そうですね。これは映画には使っていない部分ですが、山崎さんは「『ROCKET DIVE』(1998年1月発売)のあとに『ピンク スパイダー』(1998年5月発売)を出したことがすごい」と言っていたんです。一般の人にも受け入れられる応援歌のようなキャッチーな「ROCKET DIVE」から一転、自分の世界を表現したロックチューン「ピンク スパイダー」でリスナーをグッと引きずり込んだっていう。自分がやりたい世界にリスナーを連れてくるのがうまい人だったということですよね。
hide起動…2018
──先ほども話題に上がりましたが、hideさんの命日にあたる5月2日には6枚のCDとDVD、音楽雑誌のインタビュー記事をまとめた書籍などをコンパイルしたボックスセット「hide 1998-Last Words-」が発売されました。どれも本当に面白くて。hideさんはメディアの使い方も抜群にうまいですよね。
そうなんですよね。雑誌ごとに「こういうビジュアルで、こういう話をして」としっかり考えていたみたいだし。山崎さんもおっしゃってましたけど「今生きていたら、どんなことをやっていただろう?」と思います。もう1つ印象的だったのは、山崎さんに限らず、皆さんが本当に楽しそうにhideさんのことを語ってくれたこと。「いやあ、hideさんは酔っぱらうと本当に大変で」と言いつつ(笑)、すごく楽しそうにいろんなことを話してくれて。みんなhideさんのことが大好きだし、本当に愛されている人なんだなって思いましたね。「hide 20th Memorial Project」も本当にいいチームなんです。松本さん、I.N.A.さん、姉帯さんも「今hideがいたら、絶対こう言うよね」みたいな話をしながら「わはははははは!」って笑ってるんですよ(笑)。
──(笑)。その雰囲気は、映画からも伝わってきました。
hideさんには人間的な魅力がすごくあったからこそ、たくさんの人が集まっていただろうし、そのうえでアーティストとしてのhideさんの存在があったんじゃないかなって。音楽もライブもそうですけど、hideさんが1人で作り上げているものではなくて、周りからの「こういうのって面白くないですか?」という提案に対して、hideさんが「面白そうじゃん!」と反応しながら構築されていたと思うんですよね。hideさんがすべて指示していたのではなく、周りの人たちのいろいろなアイデアをまとめていた。それはモノ作りにおいてとても大事な部分だし、それを持ち合わせていたことがhideさんの強味でもあったのかなと。僕自身も今回の撮影を通して、プロデューサーとしてのhideさんの魅力を強く感じましたし、hideさんを愛している人がいる限り、新しいものを作ることはできるんじゃないかとも思いました。
──hideさんと直接関わっていた方々はもちろん、下の世代を含めて、hideさんの音楽やスタンスに影響されて、新しいものを生み出すのではないか、と。
ええ。それも広い意味で“hideプロデュース”ですよね。そういう期待感はすごくあるし、それは映画の最後のほうにもつながっているんですよね、hideさんを愛している人がいれば、今もhideさんは存在していると思っていいんじゃないかなって。
──インターネットを使ったライブ同時中継、いろいろなジャンルを融合させたイベントを含めて、hideさんは現在のシーンの状況を先取りしていた存在でもあって。そのスタンスは今もなお大きな力を持っているということですね。
そうですね。20年以上前にインターネット中継をやるなんて、当時は「何を言ってるんだ」という感じだったと思うけど(笑)、たくさんの人がhideさんのビジョンを実現しようとして、本当にやり遂げてしまった。今の時代は「新しいことはやり尽された」という感じもあるし、誰もやってこなかったことに向かって突き進む人はほとんどいないじゃないですか。それをやり続けたhideさんは本当にすごいし、さっき言ったように、これからも同じような状況は作れると思うんです。そういう意味では逝去後20年は終わりや節目ではなくて、ここから新しいことが始まる、まさに“起動”のときだと思うんですよね。
- hide 20th Memorial Project Film「HURRY GO ROUND」
- 2018年5月26日(土)公開
あの衝撃の日から20年。
hide初心者の俳優・矢本悠馬がナビゲーターとして、亡くなる直前3カ月間の軌跡に迫るドキュメンタリー。
最期の楽曲「HURRY GO ROUND」に秘められたメッセージとは……。
- 監督:石川智徹
- ナビゲーター:矢本悠馬
- 出演者:YOSHIKI(X JAPAN) / I.N.A. / 山崎洋一郎(ROCKIN'ON JAPAN編集長) / エリック・ウェストフォール(ロサンゼルス・レコーディングエンジニア) / 松本裕士(株式会社ヘッドワックスオーガナイゼーション代表取締役)ほか
- 主題歌:「HURRY GO ROUND(hide vocal Take2)」 [UNIVERSAL J]
- 配給:KADOKAWA
- 企画・製作:UNIVERSAL CONNECT
©2018「HURRY GO ROUND」製作委員会
- V.A.「hide TRIBUTE IMPULSE」
- 2018年6月6日発売 / UNIVERSAL J
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[CD] 3240円
UPCH-2162
- 収録曲
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- ROCKET DIVE / Dragon Ash
- ピンク スパイダー / MIYAVI
- D.O.D.(DRINK OR DIE) / FLOW
- GOOD BYE / Cocco
- ever free / 西川貴教
- DOUBT / HISASHI × YOW-ROW
- ELECTRIC CUCUMBER / ACID ANDROID
- EYES LOVE YOU / BREAKERZ
- Bacteria / SEXFRiEND(アイナ・ジ・エンド[BiSH]&UK[MOROHA])
- TELL ME / GRANRODEO
- HURRY GO ROUND(hide vocal Take2) / hide
- 石川智徹(イシカワトモアキ)
- 1975年秋田県鹿角市生まれ。大学卒業後にバラエティ番組の制作アシスタントを経験し、2003年に独立。フリーランスでバラエティ、ドキュメンタリー、CM、ミュージックビデオなどの演出家として活動し、2011年に株式会社サーティー・フレームを創設した。これまでにDREAMS COME TRUE、YOSHIKI(X JAPAN)、Perfume、高橋優といったアーティストや、アートディレクター・佐藤可士和、マンガ家・赤塚不二夫、スキージャンパー・髙梨沙羅ら、さまざまなジャンルの人物にフォーカスを当てたドキュメンタリー番組を制作。このほか、NHK青山ワンセグ開発セカンドシーズン優勝作品のクレイアニメ「さきいか君」、TEAM NACSの西遊記人形劇「モンキーパーマ」、hideオフィシャルブック「Pinky Promise」などで演出家、プロデューサー、構成作家として活躍している。2018年5月公開の映画「HURRY GO ROUND」で初めて映画監督を務めた。