hide 20th Memorial Project|石川智徹監督、SEXFRiEND(アイナ・ジ・エンド[BiSH]&UK[MOROHA])インタビュー 急逝後20年で紐解かれる“あの日の真相” / 未来へと受け継がれる“hideの音楽”

映画「HURRY GO ROUND」石川智徹監督インタビュー

5月下旬に上映がスタートした映画「HURRY GO ROUND」はhideの墓石にも刻まれている楽曲「HURRY GO ROUND」の歌詞に隠されたメッセージをもとに、ナビゲーターを務める俳優・矢本悠馬がhideの最期の足取りをたどる作品。特集の前半では映画でメガホンを取った石川監督に、センシティブな内容を含む本作に“hide初心者”である矢本をナビゲーターに起用した理由や、hideが亡くなる直前まで行動を共にした関係者に話を聞いた際の裏話などについて語ってもらった。

hideが亡くなる前日の様子から感じたこと

──ドキュメンタリー映画「HURRY GO ROUND」は、hideさんのコアなファンはもちろん、hideさんのことをよく知らない方々も強く興味を惹かれる作品だと思います。

ありがとうございます。逝去後20年のタイミングで製作する映画として、熱心なファンの方だけではなく、いろいろな方に観てもらえる作品にしたいと思っていたので、そう言ってもらえるとうれしいです。

──この映画のポイントは大きく2つあると思います。1つは、hideさんの死の真相に迫った作品であること。2つ目は、hideさんのことを知らない若手俳優の矢本悠馬さんをナビゲーターに起用したことかなと。

映画「HURRY GO ROUND」場面カット

その2つは僕にとってもチャレンジでした。まず死の真相に関してですが、hideさんのことをあまり知らない人と話をすると「自殺しちゃった人ですよね」という捉え方をしている人が多いような気がしていたんです。そこから派生して、事実とは違うところで語られているケースもあるだろうなと。僕はそれを払拭したいという、正義感みたいなものを勝手に感じていたんですよね。音楽に対するアンテナが立っている人は、hideさんの魅力や功績も知っていると思うんです。でも、そうじゃない一般の方の中にはネガティブな部分で認識している人も多い。それはあまりにももったいないなって。

──なるほど。映画には亡くなる前日の未公開映像も収められていますが、この映像が映画製作のきっかけになったそうですね。

はい。亡くなる前日の映像が残っていて、しかもそれは世に出ていなかった。そのことを知ったとき、単純に「亡くなる前日って、どういう感じだったんだろう?」と思ったんですよね。それはもしかしたら下世話な興味だったかもしれないけど、実際に映像を観てみたら、いたって普通の様子だったんです。テレビ収録の控室の映像なんですが、hideさんは歌の練習をしているんですよ。曲を口ずさみながら「違うな、違うな」と言っていて、hideさんの真面目なところがよく出ている場面なんだけど、特に変わった様子は見られない。言ってしまえば映像を扱う人間からするとなんの面白みもない映像なんです。でも、だからこそ貴重だと思ったんです。矢本くんも「変わった様子は全然ないっすね」と劇中で言っていましたけど、次の日に亡くなってしまうようにはまったく見えないんですよ。

──その実感が映画の起点になった?

そうかもしれないです。ファンの方の心理としては、hideさんの死の真相って、実はどうでもいい部分かもしれないと思っていて。hideさんに詳しくない人にこの映画を観てもらうことで「あなたもhideさんのファンになったでしょ? 死の真相なんて、どうでもよかったでしょ?」と言えたらなと。

“hideを知らない人”の視点でhideを知る

──映画のゴールは明確だったわけですね。そこに至る導線を作るのが、矢本悠馬さんの役割だったと。

そうですね。矢本くんに出演してもらったのも「知らない人に向けて、どう映画を作るか?」というところから決めたことなので。ただ、彼はhideさんのことを本当に名前くらいしか知らなかったんですよ。

──「何も知らない人がhideを語るな」という反応も予想できますよね。

映画「HURRY GO ROUND」場面カット

そういうネガティブな想像もしてました。矢本くんとはこれまでも何度か仕事をしてきたんですが、普段の彼はすごくピュアで正直なんです。こちら側で彼が何をするかコントロールできる感じはまったくないし、むしろ、そこが面白い部分かなと。矢本くんって、最近あまりいないタイプの若者だなという気もしていて。ちょっととがってて、お酒も好きで。これは僕の印象なんですが、なんとなくhideさんに似てる気がしたんです。撮影を通してhideさんのことを知っていく中で、何かしらの共通項を見出せたり、化学反応が生まれたら面白いなという期待もありました。

──映画の前半は、矢本さんの視点を通してhideさんのキャリアや人柄を再認識できる構成になっています。

撮影に入る前は、果たしてどういう展開になるか、こちらも全然予想できなかったんですけどね。「とりあえずどぶ板通り(hideが十代の多くを過ごした神奈川県横須賀市のどぶ板通り商店街)に行けば大丈夫っしょ」というノリだったので(笑)。

──古い旅館に泊まって、hideさんの映像をひたすら観るシーンも印象的でした。「カッコいいっすね!」みたいな矢本さんの反応が新鮮で。

hideさんの映像をまとめて観てもらうことで、矢本くんはどんどんhideさんに興味が出てきて。そこでグッとテンションが上がったんですよね。ファンの人たちはおそらく「知らない人にhideちゃんのことを自慢したい」という気持ちもあると思うんです。この映画を観てくれたファンの人たちが「そうそう、hideちゃんってそういう人なんだよね」って思ってくれたらうれしいし、「これを観ればhideのことがわかる」という入門編にもしたくて。そういうつながりを作れたらいいなって、映画が完成してから思いました。

20年前と変わらない景色がロサンゼルスにあった

──hideさんの足跡をたどる旅は、亡くなる前に3カ月間滞在していたロサンゼルスへと続きます。

映画「HURRY GO ROUND」場面カット

ロスに滞在していたときのhideさんのスケジュール帳は真っ白で、何も書かれていないんですよ。当時マネージャーだったhideの弟さんの松本裕士さんに「ロスでのhideさんはどうだったんですか?」と聞いても、おそらく細かい話までは出てこない。でも、実際にロスに行って、現地の風景を目の前にすれば、いろいろと蘇ってくる記憶があるんじゃないかと思ったんです。事前のロケハンもしないで矢本くん、松本さんたちとロスに行ったんですけど、松本さんもすごく興奮されていたようで、本当にいろいろな話をしてくれて。映画の中で使っていない部分を含めて、今まで出ていないエピソードが聞けたことはすごくよかったですね。

──レコーディングしていたスタジオから、よく通っていたイタリアンのお店や、hideさんが1人で足を運んだという遊園地まで、20年前の風景がほぼそのまま残っていて。

それはビックリしましたね、僕らも。矢本くんはどんどん楽しくなっていて、さらにテンションが上がって。矢本くんだけじゃなく、撮影のスタッフを含めて、本当にいい雰囲気だったんです。撮影はできなかったんですけど、ロックの殿堂に入っているようなミュージシャンが集まるレストランにも行きまして、「こんなところで飲んでたら、楽しくてしょうがないよね」なんて話もして。そういう楽しさって、hideさんが持っていた空気感だと思うんですよね。だからロサンゼルスの撮影に関しては、死の真相を探偵みたいに探るのではなくて「hideさんはスタッフと一緒に、すげえ楽しく過ごしてた」ということがわかる映像にしたかったんです。レコーディングエンジニアのエリック・ウェストフォールも言っていましたが、制作中もずっと楽しくやってたみたいだし。ロスに行く前はかなり不安でしたけどね。「ロスに来たのはいいけど、テンションも上がらず、何も起こらなかったらどうしよう?」って。そうならなくてよかったです(笑)。

hide 20th Memorial Project Film「HURRY GO ROUND」
2018年5月26日(土)公開
hide 20th Memorial Project Film「HURRY GO ROUND」

あの衝撃の日から20年。
hide初心者の俳優・矢本悠馬がナビゲーターとして、亡くなる直前3カ月間の軌跡に迫るドキュメンタリー。
最期の楽曲「HURRY GO ROUND」に秘められたメッセージとは……。

  • 監督:石川智徹
  • ナビゲーター:矢本悠馬
  • 出演者:YOSHIKI(X JAPAN) / I.N.A. / 山崎洋一郎(ROCKIN'ON JAPAN編集長) / エリック・ウェストフォール(ロサンゼルス・レコーディングエンジニア) / 松本裕士(株式会社ヘッドワックスオーガナイゼーション代表取締役)ほか
  • 主題歌:「HURRY GO ROUND(hide vocal Take2)」 [UNIVERSAL J]
  • 配給:KADOKAWA
  • 企画・製作:UNIVERSAL CONNECT
V.A.「hide TRIBUTE IMPULSE」
2018年6月6日発売 / UNIVERSAL J
V.A.「hide TRIBUTE IMPULSE」

[CD] 3240円
UPCH-2162

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収録曲
  1. ROCKET DIVE / Dragon Ash
  2. ピンク スパイダー / MIYAVI
  3. D.O.D.(DRINK OR DIE) / FLOW
  4. GOOD BYE / Cocco
  5. ever free / 西川貴教
  6. DOUBT / HISASHI × YOW-ROW
  7. ELECTRIC CUCUMBER / ACID ANDROID
  8. EYES LOVE YOU / BREAKERZ
  9. Bacteria / SEXFRiEND(アイナ・ジ・エンド[BiSH]&UK[MOROHA])
  10. TELL ME / GRANRODEO
  11. HURRY GO ROUND(hide vocal Take2) / hide
石川智徹(イシカワトモアキ)
1975年秋田県鹿角市生まれ。大学卒業後にバラエティ番組の制作アシスタントを経験し、2003年に独立。フリーランスでバラエティ、ドキュメンタリー、CM、ミュージックビデオなどの演出家として活動し、2011年に株式会社サーティー・フレームを創設した。これまでにDREAMS COME TRUE、YOSHIKI(X JAPAN)、Perfume、高橋優といったアーティストや、アートディレクター・佐藤可士和、マンガ家・赤塚不二夫、スキージャンパー・髙梨沙羅ら、さまざまなジャンルの人物にフォーカスを当てたドキュメンタリー番組を制作。このほか、NHK青山ワンセグ開発セカンドシーズン優勝作品のクレイアニメ「さきいか君」、TEAM NACSの西遊記人形劇「モンキーパーマ」、hideオフィシャルブック「Pinky Promise」などで演出家、プロデューサー、構成作家として活躍している。2018年5月公開の映画「HURRY GO ROUND」で初めて映画監督を務めた。