ドSなボーカルレコーディング
──アイナさんはMONDO GROSSOなどほかのアーティストとコラボする機会が増えています。相手によってレコーディングの進め方はさまざまだと思うのですが、今回はどう楽曲と向き合いましたか?
アイナ 「UKさんが目指す世界観をいかに自分が楽曲に取り込めるか」を一番に考えていました。
UK レコーディングの前からどういうふうに歌ってほしいとか、要所要所で自分が表現したいことを簡単に伝えたうえで歌ってもらいました。そもそも男性キーの曲を女性がどこまで歌えるのかが気になっていたんですよね。いつもMOROHAで一緒にやっているエンジニアとタバコを吸いながら、本人がいないところで「アイナさんだったらもう1個上(のオクターブ)で歌えるんじゃないか」なんて話をして。それをアイナさんに提案したら最初すごく戸惑っていたし、実際けっこうキツいキーだったと思うんですけど、歌ってもらったらめちゃくちゃよくて。「これで完璧だ」なんて思いながらエンジニアと目配せしてました(笑)。
──なるほど。
UK hideファンが「hideの曲をどう聴きたいと思うか」と同じくらい「アイナ・ジ・エンドのどういう歌唱を聴かせたいか」を考えました。細かい意図まではアイナさんに伝えませんでしたけど、そういう思いを持ってディレクションをしました。ボーカルに関してはあまり原曲にとらわれないようにしたかったんです。歌を聴きながら、「語尾のここは上げてほしい。でもここは上げすぎないで」と思い浮かんだことを伝えては録り直すという作業を繰り返しました。
──そんなUKさんのディレクションはどうでしたか?
アイナ ドSでしたね(笑)。
UK はははは(笑)。
アイナ まず、キーを1オクターブ上げた時点で2時間くらいで終わると聞いていたので、「今日は声がつぶれてもいいから限界のキーで歌い切ろう」と覚悟を決めました。実際は5時間以上かかったんですけど(笑)。普段、私は「じゃあ曲流します。いきますよー」ってエンジニアさんに言ってもらってから歌入れをすることが多いんです。でも今回はブースに入ったら特に前振りもなく「はい」って言われた瞬間、急に曲が流れるスタイルで。だから休憩する暇もあんまりないっていう(笑)。
UK MOROHAのレコーディングではよくあることなんです。
アイナ で、UKさんも「できる? できない? うん……じゃあやりまーす」みたいにとても淡々としていて。だけどその空間の居心地がよかったんですよ……私、ドMなのかもしれない(笑)。シビアな空気感ではあったんですけど、だからこそ「いいものはいい」とお世辞抜きで向き合ってくれる環境でもあって。甘えのないピリピリした状況で本音を伝えてくれたので、自分がいいテイクを出せたと思ったあとに「いいね」って返ってきたときはとてもうれしかったです。今までにない感覚でした。
世代を超えて広がるhideの存在
──hideさんの逝去から20年という節目に立ち上げられた「hide 20th Memorial Project」の一環で制作されたトリビュートアルバムということで、hideさんの音楽を次の世代に伝えるという意味もこの作品にはあると思います。
UK 確かに。それはあるかもしれないですね。
──アイナさんはリアルタイムでhideさんの楽曲に触れていない世代だと思いますが、hideさんについて何か調べたりはしたんでしょうか?
アイナ いろいろ調べました。hideさんを知れば知るほど、楽曲を聴けば聴くほど、こんなに振り切っていてカッコいいと思える人に出会ったのは初めてだなって。hideさんのライブ映像もたくさん観て、カッコよかったんで、「頼むよ東京!」ってMCをライブでもマネしました(笑)。
UK おお。そうだったんだね。
アイナ 私はWACKっていう事務所に所属しているんですけど、けっこう前に社長の渡辺(淳之介)さんと、GANG PARADEのカミヤ(サキ)さんと、ココ(・パーティン・ココ)ちゃんとカラオケに行ったときがあったんです。カミヤさんが「ピンク スパイダー」とかhideさんの曲を歌ってたし、渡辺さんもけっこう好きみたいで。そのときの動画を撮ってたんで、改めて見返してました。第三者が誰かの歌を歌っているのを聴くのがもともとすごく好きなんです。愛を感じるし、純粋な気持ちで聴けるから。
──ちなみにBiSHのメンバーだとリンリンさんが昨年の5月頃、hideさんのオマージュっぽいメイクをしてましたよね。クオリティの高さにけっこうな反響がありました。
アイナ ヴィジュアル系バンドの方とツーマンライブをしたときに、ヴィジュアル系のメイクさんがいたんです。「hideさんそっくりにしたい」という彼女の願望で、髪型とメイクをhideさんふうにしてもらってましたね。
──音楽のみならず、ビジュアル面でもhideさんがさまざまな人たちに影響を与えていることがうかがえる出来事でした。UKさんからアイナさんに何かhideさんのことを話したんですか?
UK あまりしてないです。自分が好きな人のことを伝えるのって、めちゃくちゃ野暮だと思っていたから。聞いた側からしたら相手の感想にしかならないだろうし、それが伝わり切ることはないんですよ。僕がhideさんをどれだけ好きでも、100%理解してくれる人はいないだろうから、「僕がhideを好きだったらそれでいい」と言うか。
──なるほど。
UK hideファンの中には僕らのカバーを聴いて「リアルタイムでhideを知らない世代の女の子にhideの何が歌えるんだ」みたいな気持ちになる人がいるかもしれません。でもそれはそれでいいと思います。いろんな意見があって当たり前だろうし、そのほうが健全な気がするので。
──辛口な意見があったとしても、それはそれとして受け入れると。
UK 誤解を恐れずに言えば、いろんな意見が飛び交うのってプロレスみたいなもんなんですよね。hideさんのファンに限った話ではなく、リスペクトする対象がいて、その人のことを愛するがあまりに本人の声ですら聴きたくないとか、自分の中にある世界観を壊したくないという人がきっといて。なんでわかるかと言うと、かつて僕がそうだったから。例えばhideさんのカバーに対して「聖域に踏み込むんじゃない」と言う人がいたとします。でも、もうhideさんは亡くなっているから本人の意見を知ることはできないけど、「hideちゃんはきっとこういうことを愛してくれるはずだよ」と言うファンの方も現れて、結果的に丸く収まる。そこまでがプロレスなので、「言いたいことはガンガン言って!」って思います(笑)。批判でも擁護でも話題に出してくれるだけ、愛があるということがわかるから。
トリビュートアルバムに正解はあるのか
──今回のトリビュートアルバムの中で印象的だった楽曲についても聞かせてください。
UK FLOWさんの「D.O.D.(DRINK OR DIE)」はめちゃくちゃ原曲ぽい雰囲気で、ある種の正解だなと。「ただのコピーじゃん」と言われるかもしれないけど、その域を飛び越えて、原曲らしさとFLOWらしさが共存していて。あと、ACID ANDROIDさんの「ELECTRIC CUCUMBER」は、めっちゃ攻めてますよね。きっと最近hideさんを好きになった人の中にはzilchの曲を知らない人もいると思うんです。それでも逝去後20年のメモリアルな作品で「この曲をチョイスするんだ!」って。選曲からもリスペクトやバックグラウンドが想像できて面白いですね。
──今作にはCoccoさんが「GOOD BYE」で参加されています。女性ボーカルは今回、アイナさんとCoccoさんだけなんですよね。
UK Coccoさんが参加なさることと「GOOD BYE」を歌うことも知っていて、優しく包み込むような感じになるんじゃないかなと想像していたんです。だから僕が「Bacteria」を選んだっていうのもありましたね。
アイナ 私は原曲も好きなんですけど、HISASHIさんとYOW-ROWさんの「DOUBT」がすごくカッコよかったです。HISASHIさんも歌うんだあと思いました。
──HISASHIさんはhideさんと親交のあった方ですが、最近はBiSHにも高い関心を示していますよね。
アイナ そうなんです。けっこうライブにも来てくださるし、BiSHの曲の感想もTwitterで書いてくれるんです。
UK もしHISASHIさんが自分たちのライブに来てくれるとしたら、僕はGLAY世代なんで緊張しちゃいますけどね(笑)。「ええ? あのHISASHIが!」ってなりそう。
──ほかにもBREAKERZの「EYES LOVE YOU」はBREAKERZ自身の曲かと思うほどのハマり具合に鳥肌が立ちました。
UK うん。DAIGOさんの粘りのある歌がすごく曲にハマってますよね。このカバーもFLOWさんと同じで原曲の雰囲気を大切にしてる感じがします。
──原曲に寄り添ったカバーもあれば、西川貴教さんの「ever free」のようにリフをまるっと変えてしまうくらいの大胆なアレンジのカバーもあって聴き応えのあるトリビュートアルバムになってますよね。
アイナ 私は「トリビュートに正解はない」と思ってレコーディングに臨んでいたんです。だけど今作を通して聴いて、どの楽曲も本当に素敵で、全部正解だなと思いました。
──今作には映画「HURRY GO ROUND」の主題歌であるhideさんの未発表ボーカルテイクを使った「HURRY GO ROUND(hide vocal Take2)」も収録されます。
UK 実はその曲だけ2人共聴いてなくて。CDがリリースされてからじっくり聴きたいんですよね、いちhideファンとして。
- hide 20th Memorial Project Film「HURRY GO ROUND」
- 2018年5月26日(土)公開
あの衝撃の日から20年。
hide初心者の俳優・矢本悠馬がナビゲーターとして、亡くなる直前3カ月間の軌跡に迫るドキュメンタリー。
最期の楽曲「HURRY GO ROUND」に秘められたメッセージとは……。
- 監督:石川智徹
- ナビゲーター:矢本悠馬
- 出演者:YOSHIKI(X JAPAN) / I.N.A. / 山崎洋一郎(ROCKIN'ON JAPAN編集長) / エリック・ウェストフォール(ロサンゼルス・レコーディングエンジニア) / 松本裕士(株式会社ヘッドワックスオーガナイゼーション代表取締役)ほか
- 主題歌:「HURRY GO ROUND(hide vocal Take2)」 [UNIVERSAL J]
- 配給:KADOKAWA
- 企画・製作:UNIVERSAL CONNECT
©2018「HURRY GO ROUND」製作委員会
- V.A.「hide TRIBUTE IMPULSE」
- 2018年6月6日発売 / UNIVERSAL J
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[CD] 3240円
UPCH-2162
- 収録曲
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- ROCKET DIVE / Dragon Ash
- ピンク スパイダー / MIYAVI
- D.O.D.(DRINK OR DIE) / FLOW
- GOOD BYE / Cocco
- ever free / 西川貴教
- DOUBT / HISASHI × YOW-ROW
- ELECTRIC CUCUMBER / ACID ANDROID
- EYES LOVE YOU / BREAKERZ
- Bacteria / SEXFRiEND(アイナ・ジ・エンド[BiSH]&UK[MOROHA])
- TELL ME / GRANRODEO
- HURRY GO ROUND(hide vocal Take2) / hide
- BiSH(ビッシュ)
- アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなるアイドルグループ。BiSを作り上げた渡辺淳之介(WACK)と松隈ケンタ(SCRAMBLES)がタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当している。2015年5月に1stアルバム「Brand-new idol SHiT」をリリース。同年5月に東京・中野heavy sick ZEROにて初のワンマンライブ「THiS IS FOR BiS」を開催し、以降のライブは各所でソールドアウトを記録する。2016年5月にはメジャー1stシングル「DEADMAN」をリリースしavexよりメジャーデビュー。6月から10月にかけて全国ツアー「BiSH Less than SEX TOUR」を開催し、ツアーファイナル「帝王切開」では東京・日比谷野外大音楽堂で単独公演を成功させた。同年10月にメジャー1stアルバム「KiLLER BiSH」、2017年6月にミニアルバム「GiANT KiLLERS」を発表。7月22日には千葉・イベントホールにてワンマンライブを行った。同年11月にフルアルバム「THE GUERRiLLA BiSH」、2018年3月にシングル「PAiNT it BLACK」を発表。5月22日に神奈川・横浜アリーナにて自身最大級のキャパシティとなるワンマンライブ「BiSH "TO THE END"」を成功に収め、6月27日には両A面シングル「Life is beautiful / HiDE the BLUE」のリリースを控えている。
- MOROHA(モロハ)
- ラッパーのアフロとアコースティックギターのUKにより2008年に結成。2010年に「SUMMER SONIC」出場権を賭けたコンテスト「出れんの!?サマソニ!?」にエントリーし、審査の過程で急遽追加された「曽我部恵一賞」を受賞したことをきっかけに急速に注目が集まる。同年10月にROSE RECORDSから1stアルバム「MOROHA」をリリース。さまざまなアーティストとの対バンで、2人組という小編成ながらインパクトのある熱いパフォーマンスを繰り広げ、2016年には東京・LIQUIDROOMでのワンマンライブをソールドアウトさせた。同年10月に自身のレーベル・YAVAY YAYVA RECORDSからアルバム「MOROHA III」を発表。2018年1月に映画「アイスと雨音」の主題歌「遠郷タワー」を配信リリースし、3月にはメルカリ限定シングル「ストロンガー」を発売した。結成10周年を迎え、6月に再録ベストアルバム「MOROHA BEST~十年再録~」をリリース。7月よりベスト盤を携えた単独ツアーを開催し、全国16都市を回る。