HEY-SMITH|「音楽は尊いもの」猪狩秀平がポジティブなアルバムに込めた思い

好きなものを共有する楽しさ

──猪狩さんにも学生時代にそういう経験があったんですか?

猪狩秀平(G, Vo)

めっちゃあったし、めっちゃ楽しかった。最近改めて気付いたんですけど、好きなこととか好きなものを誰かと共有するのって楽しいんですよね。例えば、この間Hi-STANDARDのライブをHOTSQUALLのチッくん(チフネシンゴ / G, Vo)とカメラマンの半ちゃん(半田安政)と観に行って、その帰りに俺の家で「あれはどうやった、これはどうやった。あの曲のソロ、CDと変えてたな」とか気持ち悪いくらいしゃべったんです。それってほんまに楽しいことやなと思ったから、そういうことをみんなにもやってほしかった。

──改めて楽しさに気付いたことで、それをリスナーに提案しようと。

うん。なんやけど、今だとネットがそれを邪魔してくるなと思って。ネットの投稿に「いいね」してコメントして、それで共有なんかな?って。実際に集まってああだこうだしゃべったりするのが楽しいっていうことを知ってほしい。別にやれとは言わないけど、楽しいからやってみたら?っていう提案ですね。

──先ほど、今回の施策は「Not A TV Show」という曲名にちなんで決めたとおっしゃっていましたが、この曲ができた背景を教えてください。歌詞の日本語意訳には「口パクの音楽で満足かい?」「歌わされてるヤツらは滑稽だ」といった言葉が並びます。

テレビとか観てると口パクの人ばっかりでキモいなって思って。歌ってはいるけど、当て振りとかね。ライブでも「こいつ、あそこ歌ってない」とか「これ、オケが流れてるやん」とかそういうことありますし。そういうの観てキモいなって常々思ってたんで、それについての曲を作りました。

──なるほど。それで「これがホンモノのRock Show」ということで、テレビやネットじゃなくて、現場に足を運んでもらう施策を取ったと。

うん、そうです。

HEY-SMITHではないバンドでやるとしたらどんな曲?

──「Not A TV Show」も収録されたアルバム「Life In The Sun」ですが、特に核になる曲と言うとどれでしょうか?

1曲目の「Soundtrack」かな。

──この曲の歌詞には猪狩さんの強い意志を感じますね。

これは自分に向けて歌ってる感じです。告白するとか、怖い人に話しかけに行くとか、そういうときって勇気がいると思うんですけど、結局自分で自分の背中を押すしかないんですよね。自分にもそういう状況があって、それをきっかけに作りました。

猪狩秀平(G, Vo)

──サウンド的にはシンプルな構造ですよね。

2年の間に、メンバー間の仲がすごく悪くて「違うバンドやったろかな」と思うときがあって。まあバンドってファミリーみたいなもんで、波があるんですよね。仲良くなったり仲悪くなったり。で、悪いときも別に解散とかそういう話にはならないんですけど「違うバンドやりたいな」みたいな気持ちにはなって。「そのバンドでやるとしたらどんな曲?」って思って作ったのがこの曲。だから初期衝動感があるんじゃないですかね。

──HEY-SMITHという肩書きを一旦置いて書いたぶん、素直に書けたのでは?

はい。思いっきり素直に書けたし、なんならこの数年で一番いい曲書けたんちゃうかなと思ってます。

──歌詞では「政治家とバンドマンくらいは理想を語れ」というところに猪狩さんらしさが出ていますよね。

政治家とバンドマンって真逆のものですけど、その両極端のやつだけでも理想は語ってほしいなと思うんですよね。できなくてもいいから。

──語れていない政治家やバンドマンを見て、歌詞にしようと?

いいえ。自分が語れてないんじゃないかなと思って。なんか大きなことも言えなくなってきたし、「ほかのことを考えられないくらい理想だけを語る爆発的瞬間みたいなものが減ってるんじゃねえのテメエ」って自分に対して思ってました。

猪狩秀平(G, Vo)

──理想を語れなくなったのは、バンドが大きくなってきたからですか?

いやあ、それはたぶん関係ないですね。バンドが大きくなったとも全然思わないし。もしかしたら人生というものに慣れちゃったのかなあ? 「まさか『もう現状が続けばいいや』とか思ってんの?」みたいなちょっとした疑問が曲になりました。

──もしかしたら知らず知らずのうちに満たされていたのかもしれないですね。

かもしれない。最近太ってきたしなあ(笑)。

ちっちゃいギターを持って海へ

──猪狩さんのSNSなどを拝見していたら、春先にカリフォルニアに行かれていて。本作には「California」という曲があったり、歌詞にも「カルフォルニア」がいくつか出てきますが、カリフォルニアで楽曲を制作していたんですか?

3、4曲はカリフォルニアでできた曲かな。

──カリフォルニアは猪狩さんにとって、どういう場所ですか? カリフォルニアと言うと、いわゆる西海岸パンクの発祥地でもあると思うんですが。

昔はただの憧れでしかなかったけど、Sublime、NoFXとか自分の好きなバンドの出身地であることを知って興味を持つようになって。俺、ニューヨークの音楽好きじゃないし、イギリスの音楽もそんなにハマらなくて、好きな音楽ってだいたい西海岸のバンドなんですよね。「なんで俺は西海岸のバンドにヤられるんだろう?」っていうハテナがあった。何度か足を運ぶようになった今はその答えがわかるけど。

猪狩秀平(G, Vo)

──それはなんですか?

なんか大阪と似てるんですよね、人が陽気で「イエーイ!」って感じ。それでいて、ニューヨーク……大阪で言うところの「東京には負けないぜ」っていう気持ちがある。あとは大阪に西成があるように、カリフォルニアにも危ない地区がいっぱいあって。そういう光と影があるところに惹かれます。もちろん海とか山とか自然もたくさんあって。

──やはりカリフォルニアに行くと創作意欲がかきたてられる?

と言うか、今作の曲はカリフォルニアに限らず自然の多い場所で作ったんですよ。スタジオにはほとんど入ってない。レコーディングもそれぞれで録ってるので、まだバンドで演奏してないですね(笑)。

──そうなんですか。前作「STOP THE WAR」のときはメンバー皆さんで合宿して作っていたので、ずいぶんと制作過程も変わりましたね。

前はスタジオで合宿して作ったからバキバキのフレーズとか、キメの多い曲とかが多くて。今回も初めに1回スタジオ入ってみたんですけど、明るい曲ができなかったんです。で、海に行ってみたら明るい曲がポンポンポンってできて。それからは毎週のように海に行って、週末はライブしてって感じでしたね。

──へえ。

ほんまにちっちゃいギター1本持って、いろんなところでポロポローンって。「作りに行ってた」と言うより「できるのを待ってた」って感じっすね。ひたすら海とか緑を見つめて考え事していると、2時間くらい経つと無になってくるんですよ。瞑想状態と言うか。そうするといい感じにメロディが降りてきて、そしたらギターを手に取って曲にしていくっていう。だから今回はほとんど俺がメインで歌ってる。と言うのも、俺が弾き語りで作っちゃったから、YUJI(B, Vo)のキーとか気にしてなくて(笑)。