変態紳士クラブ|本当にクソな世の中だけど、だからこそ俺らはポジティブでいたい

プロデューサーのGeG、ラッパーのWILYWNKA、レゲエディージェイのVIGORMANによるジャンルレスユニット・変態紳士クラブが4月30日に新作音源「HERO」を配信リリースした。2017年11月にデビュー作「ZIP ROCK STAR」を発表して以来、日本全国にその名を轟かしてきた彼らだが、実はこれが2作目。新型コロナウイルス感染拡大の影響により外出の自粛が求められる中、音楽ナタリーではビデオ通話で大阪に住む3人に取材を行い、待望の新作に込めた思いや制作過程について聞いた。

取材・文 / 宮崎敬太

作り溜めはしない、その時々で最高にいい曲を全力で作る

──2月のワンマンライブ「変態紳士舞踏会 -2222-」(参照:変態紳士クラブ、バンド迎えて好きにやり続けたコーストワンマン「俺らはただの友達」)で告知された「HERO」がついにリリースされますね。

WILYWNKA

VIGORMAN ようやく、という感じですね。新木場STUDIO COASTでの「変態紳士舞踏会 -2222-」は俺らにとって節目となるライブだったんです。「ZIP ROCK STAR」(2017年11月リリースのデビュー作)を経て、各々がソロアルバムを作って(参照:WILYWNKA×VIGORMAN×GeG|ソロアルバムを語り明かす変態紳士鼎談)。さらに初披露の新曲もやるっていう。

WILYWNKA 変態として2020年最初の活動だったしね。気合いはいつも入ってるけど、かなり強い思いはありましたね。

GeG あのライブからしっかりといろいろやらしてもらえるようになって。それまでは僕がバンドメンバーに声をかけて、ちっちゃいスタジオでどうにかリハして、バンに楽器とかいろんなものをどうにかこうにか詰め込んで移動してライブしてたんです。でも今回からはちゃんとしたリハスタでリハーサルをやれて、しかもその段階からPAさんにも入ってもらえたり、ローディの方がいたりと裏方も含めて関わる人がものすごく増えた。自ずとクオリティは上がりましたね。

VIGORMAN あのライブからイヤモニも導入したんです。そこがけっこうデカかったな。

WILYWNKA 慣れないことも多くて、ライブ自体は反省点だらけだったけどね。

VIGORMAN そうね。STUDIO COASTでは、俺らの今を表現したかったんですよ。実は変態紳士クラブのリリースは2年半前に発表した「ZIP ROCK STAR」で止まっているけど、俺ら自身はたくさんライブをしてきたし、ソロも出した。そのアップデートされた俺らを見せたかったけど、やりきれなかった部分も多かった。でも「HERO」では俺らの今が表現できてると思う。だから早くみんなに聴いてもらいたいんです。

WILYWNKA けっこう活動してきてるつもりだけど、まだ音源を2作しか出してないんだもんな、俺ら(笑)。

──「HERO」は何かコンセプトを決めて制作したんですか?

GeG

GeG いや、そういうのは一切ないですね。みんなで集まって1曲ずつ作った5曲という感じかな。

VIGORMAN 俺らは基本的に一切作り溜めをしないんですよ。今回も音源を出すことが決まってから作り始めた。常に意識してるのは、その時々で最高にいい曲を全力で作るってこと。中途半端な曲を数合わせで入れたくない。

GeG とは言え、現状では変態紳士クラブとしての曲が少なすぎる。今はライブのセットリストに各々のソロ曲が入ってるけど、本当は変態の曲だけで組みたい。だから今回の音源はライブのこの場面で必要な曲、みたいなことを意識して作った曲が多いかも。ちなみに1曲目の「Do It」はSTUDIO COASTで一発目にやるために作りました。

WILYWNKA 完成したのはライブの前日だったんだけど(笑)。それまで俺らのライブの1曲目は「ZIP ROCK STAR」だったから、いい加減アップデートしたかったんですよね。

VIGORMAN だから歌詞に関しても「この曲でステージに登場します!」ってテンションがもろ反映されてる。テーマ的には「すきにやる」の延長線上にあるけどもっと勢いがあるというか。こういうノリは俺もタカ(WILYWNKA)もひさしく書いてなかったし。

WILYWNKA 胸の内に秘めた“お怒りくん”を呼んできて(笑)。

VIGORMAN そうそう。爆発させる系。なんせライブの1曲目だからね。というか、俺らにはどの曲にも“すきにやるイズム”があって。好きなことを自由にやるために好きじゃないこともやるっていう。

WILYWNKA 真剣にのめり込めることを見つけるのってすごく重要だと思うんですよ。だから俺らはいろんな曲で歌ってる。「Do It」に関しては「今からやっぞ!」みたいなテンションですね。

ヒーローはどこにでもいる、ちょっと視点を変えれば見えてくる景色が変わる

──2曲目の「HERO」は今後、ライブでも重要な曲になりそうですね。

WILYWNKA この前のSTUDIO COASTでこの曲を初披露したとき、間奏でお客さんをしゃがませてから、みんなでジャンプしてもらったんですよ。実はあれ、プリプロの段階で俺ら自身がスタジオでやってたんです(笑)。

VIGORMAN スタジオなのに「1、2、3、レッツゴー!」ってちゃんと言ってな(笑)。

GeG そうそう。自分たちで実際にやってみて「お、イケる」と実感できたので、そのまま本番でもお客さんにやってもらいました。最初からこの曲はお客さんと一緒に飛び跳ねたくて作ったんです。

VIGORMAN 何万人もお客さんが入ったフェスのデカいステージで歌ってるのをイメージして。

WILYWNKA 俺らにはプリプロの段階で数万人のお客さんが見えてたんですよ(笑)。

GeG そこが制作のうえでコンセプトの1つになってましたね。だから自然とスケールのデカい音になったんだと思う。

──歌詞はどんなコンセプトを持って書いたんですか?

VIGORMAN ヒーローって人によって違うと俺らは考えてるんですよ。いわゆるウルトラマンみたいな人だけじゃなくて、小っちゃな町のヒーローもいると思う。酔っ払いのおっちゃんでも、子供を助けたらその子にとってはヒーローだろうし。つまり誰でも誰かのヒーローになれるってことを言いたくて。みんなのヒーローにならなくてもいいっていうか。

WILYWNKA ヒーローがみんなカッコいいとは限らないよね。息臭い、鼻くそついたおっさんでも、誰かのヒーローかもしれない。

VIGORMAN 「俺らに任しとけ」じゃない。ヒーローはもっと身近でラフなものだと思う。

VIGORMAN

WILYWNKA もっと言えば、自分を救ってくれるヒーローも本当は自分の中にいると思ってるんですよ。もし今自分のことが全然好きになれなくて、すごく落ち込んじゃってる人がいたとしても、その人の中にもポジティブな面は絶対にある。それは断言できる。今たまたまいろんなものに邪魔されて、埋もれて見えなくなってるだけ。本当の意味で自分を救えるのは自分だけだし。ちょっと視点を変えるだけで見えてくる景色も変わると思う。

VIGORMAN 「この病んだ世の中で……」みたいな物言いは俺らのカラーじゃないから。

WILYWNKA これはどの曲にも言えることなんだけど、俺らはネガティブなことをネガティブに表現するのはナシなんです。最終的にポジティブにしたい。そりゃ生きてりゃ落ち込むこともあるし、ムカつくこともいっぱいある。納得いかない社会の仕組みとか。本当にクソな世の中だけど、だからこそ俺らはポジティブでいたいんですよ。それを音楽にして少しでもポジティブを伝染させたい。

VIGORMAN 俺らみたいな仕事をしてる人は特にね。

──変態のライブを観てると、いつもお客さんが心から共感しているように思えるんです。それは歌っている2人が意識的に等身大でいるからこそなのかもしれないですね。

VIGORMAN 無理してカッコつけても意味ないと思う。いつかボロが出そうだし(笑)。だから自分のサイズ感にあったカッコつけ方というか。そっちのほうが歌ってても気持ちいいしな。

WILYWNKA あとライブに関して言うと、俺らにとってはお客さんがヒーローなんですよ。これはおべっかとかじゃなくて。ライブはマジでお客さんがいないと始まらない。いいバイブスをもらわないと俺らもいいパフォーマンスができない。だから自然と同じ目線になっていくのは確実にあると思う。