VIGORMANが8人のラッパーと巻き起こした「Chemical Reaction」

VIGORMANの新作「Chemical Reaction」が3月16日にリリースされた。

テレビ朝日系「ミュージックステーション」への出演や、東京・日本武道館でのワンマンライブ開催など、変態紳士クラブでの活動も絶好調なVIGORMAN。ソロ名義での新作「Chemical Reaction」は多彩なラッパーとプロデューサーを迎えて制作された作品であり、タイトル通りの“化学反応”が楽しめる内容となっている。音楽ナタリーでは変態紳士クラブの活動で東京に来ていたVIGORMANにインタビュー。取材前日は遅くまで飲んでいたというVIGORMANだが、数年かけて完成させたという新作について熱く語ってくれた。

取材・文 / 三浦良純撮影 / 西村満

変態があるからこそのソロ

二日酔いで遅れてきてすみません……。昨日タカ(WILYWNKA)と飲んでて、やりすぎちゃいました。

──いえいえ。変態紳士クラブもお酒について歌った曲が多いので、リアルだなと思いました。変態紳士クラブと言えば、2月にユニット初の日本武道館単独公演がありました(参照:変態紳士クラブが人気と実力を証明した武道館公演、「YOKAZE」に乗って過去最大規模で「すきにやる」)。かつてない大舞台だったと思いますが、手応えはどうでしたか?

半年前に大阪城ホールでワンマンをやったんですけど(参照:変態紳士クラブ・イン・ザ・キャッスル!聖地・大阪城ホールをクラブ部員と揺らした最高の1日)、そのときは変態紳士のワンマン自体が1年半ぶりくらいで。アルバムをリリースして、1回も歌ってない曲もたくさんあったし、地元だから特別な思いもあって、緊張してた部分もあったんですよ。武道館はそれを経てだったから、垢抜けたというか、城ホールのとき以上に手応えはありましたね。

──緊張はせずにやれた?

いや、どんなライブでも緊張はするんです。例えば客演で1曲だけ出るのでも俺は緊張するタイプ。でも緊張感がゼロになったら、それはそれでダメだと思うし。武道館はいい意味で緊張しつつも、自分たちも納得できるライブを見せることができたと思います。

──とても完成度が高いライブだと感じましたが、城ホールが終わってからずっと準備していたんですか?

いや、俺とタカは年明けてから一気に準備した感じですね。俺なんか年明けてもまだ実感なかった記憶があるくらいで。ホンマにギュッと一気に武道館モードに入りました。たぶんそのほうが俺らには向いてて。でもGeG率いるバンドメンバーは俺らよりも前から準備してくれていたし、時間をかけて積み上げてきたものがあるから、そのおかげですね。本当に感謝です。

VIGORMAN

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──特に印象に残っているシーンはありますか?

全部楽しかったんですけど、「ボロボロ」「CIROC」のあたりはやっててめっちゃ気持ちよかったですね。

──アッパーチューンの連発で客席もすごく盛り上がってました。

あと「ZIP ROCK STAR」から「すきにやる」までの流れも、ステージから盛り上がるお客さんの顔が見えて印象に残ってます。もちろん「YOKAZE」でみんながスマホのライトで照らしてくれたのも感動したし、「ろくでなしの唄」も1人で歌えて気持ちよかったし、絞るのは難しいんですけどね。

──そんな絶好調なユニット活動がありつつの今回のソロ作リリースですが、ユニット活動とソロ活動について、どのように分けているんですか?

どっちもやりたいことをやっているのは変わりないんですけど、やっぱり変態紳士には求められているものもあると思ってて。そこに合わせるわけじゃないけど、俺らを信じてついてきてくれる皆が満足できないのはイヤなんです。だから好きにやりつつも、求められているものを無視せず取り入れていきたいんですけど、ソロはそれすらもあえて無視して自分の感覚だけを頼りにやってますね。今回のEPのタイトル曲の「Chemical Reaction」とか、どう考えても女子高生は好きじゃなさそうやし、TikTokでも流行らないですよね(笑)。タカも硬派なEPを出してましたけど(参照:WILYWNKA新作でBES、ISSUGI、REAL-T、kZm、tofubeats、BudaMunkらとコラボ)、変態紳士があるからこそ、それぞれ自由に音楽を作れる。それは3人の共通認識でもあると思います。

「Chemical Reaction」はシリーズ化予定

──今回の作品「Chemical Reaction」は“化学反応”というタイトル通り、8人の個性的なラッパーとコラボしつつ、客演なしの曲がイントロ・アウトロとして入っていて、すごくコンセプチュアルですよね。どうしてこういう作品になったんですか?

自分のこれまでの作品はあんまり客演を迎えてなくて、呼んでもホンマ身内の人ばっかりやったんですけど、光栄なことに逆に俺が客演で呼んでいただくことは多くて。その客演で参加した曲がよかったと言ってもらえることも多かったので、じゃあ次は自分が客演を迎えたEPを作ってみようかなと。それで、俺のライブのバックDJで、同い年の友達でもあるSuper Syokiと当時あったマンションの一室のハウススタジオで遊びながら、客演なしのタイトル曲「Chemical Reaction」をまず作ったんです。それがコロナ前の2019年くらいで、「ROKUDENASHI」(2020年11月配信のソロ作品)を作るよりも前。

──なるほど、「Chemical Reaction」が最初にできた曲なんですね。作品のコンセプトを表現した曲で、「まずは混ざる薬品の素材を提示 1st Trackは1人のStage このTrackは俺がBasic」という作品全体を俯瞰したようなラインもあるので最後に作られたのかと思っていました。

単独でこの曲を聴いても意味わからん曲にしたかったんですよね。EPのコンセプトを説明してるような曲を作りたくて。この曲ができてから客演を迎えた曲を作っていったんですけど、会ったこともないのにデータだけ送り付けてヴァースをもらうっていう作り方はイヤだったんで、ここまで時間がかかった感じですね。古風なのかもしれないですけど、俺は一緒にお酒飲んだり遊んだりしながら、お互いのやりたいことをちゃんと話したうえでヴァースを書いていただきたかったので。

──客演のラッパーはどういう基準で選んだんですか?

人気とかセールスとかではなく、自分が普段聴く日本のラッパーの方々ですね。リリックを全部覚えてるほど好きな曲が8人全員にある。時間をかけたからこそ全員から渾身のヴァースをもらえたと思いますし、自分のセンスは間違ってなかったと思いました。今回は客演をラッパーに絞ってるので、iTunesでもジャンルをヒップホップにしているんですけど、「Chemical Reaction」というシリーズものとして「2」「3」も出したいと思っていて、レゲエの人だけを呼んだEPや、ジャンルごちゃ混ぜのEPも作りたいと思ってるんですよ。それもみんなで遊びながら作りたいんで時間かかっちゃうかもしれないですけど、続編は絶対あるんで、そこは書いといてほしいし、将来またこの記事を読み返してほしいですね。

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命を燃やす生き方を教えてくれた唾奇

──8人の中には意外な人もいますが、2曲目の「短命治療」に参加した唾奇さんはVIGORMANさんと何回も共演していて盟友と言えるような存在ですよね。「延命治療」ではなく「短命治療」ということで、太く短くという生き方を歌った曲だと思いますが、テーマから唾奇さんが浮かんだんですか?

「短命治療」ってワードは前からずっと俺の中にあって。例えば、お酒を1滴も飲まずにタバコも吸わずに100歳まで生きるんやったら、飲んで吸って50歳まで楽しく生きるほうがいいやみたいな(笑)。それをバッキー(唾奇)と沖縄で遊んでるときとか、自分が客演で呼んでもらったバッキー名義の曲「Lycoris Sprengeri -紫狐の剃刀-」の制作中とかにずっと話してて、そういうテーマの曲を一緒に作りたいっていう話をしてたんですよ。それで自分がまず1ヴァース、1フック書いたのを送って。

──VIGORMANさんのリリックには「命燃やしていく生き方 唾奇から学んだのさ」とありますね。

本人は「別に教えた覚えはないし、自分が勝手に激しい遊び方してるのを俺のせいにせんといて」って言ってましたけど(笑)。バッキーもこれまた遊び方が激しいんですよ。5日連続で夜から昼12時まで飲んでたりする(笑)。お互いそんな遊び方をしていないと生まれへんかった曲でもありますね。

──テーマ的に激しい曲調になってもおかしくないのかなと思うのですが、ゆったりした心地いいビートですね。

そうですね、お酒というよりは人生全体を歌った曲なので。最初にタイプビートでヴァースを書いてからGeGのバンドであるG.B.'sにビートを作り直してもらったんですけど、めっちゃ気に入ってます。

──ミュージックビデオもインパクトがありました。

MVは俺の中にあった大雑把なイメージを監督がキレイに形にしてくれました。「短命治療」ってタイトルなんでハッピーな画ではないとか、現世とは違う世界観にしたいとか、バッキーが怪物に変身するとか、そういう漠然とした素人のアイデアを言いまくってただけなんですけど、それをホンマに見事にまとめていただいて。監督してくれたODDJOB Inc.のTakeru Shibuyaくんがおらんかったら成立しなかったMVですね。