林原めぐみ|若者にきかせる漢方薬のような音楽

2004年5月5日、シンガーソングライターの岡崎律子が急逝した。それから13年の時が過ぎた2017年5月3日、林原めぐみが岡崎律子のトリビュートアルバム「with you」をリリースする。

アニメや声優に多数の楽曲を提供していた岡崎だが、林原はその中でも特に多くの曲を歌った1人。「with you」には、そんな林原が歌ってきた過去の楽曲と、新たに録り下ろした6曲が収められている。岡崎の没後、彼女についてあまり触れてこなかった林原が、なぜこのタイミングでトリビュートアルバムを制作したのか、そして6月11日に控える初の単独ライブについて話を伺った。

取材・文 / はるのおと

岡崎さんの漢方薬の秘訣は言葉

──まずは林原さんが岡崎律子さんと初めて出会ったときのことを教えてください。

きっかけは、私が彼女の「冬のないカレンダー」という曲を聴いたこと。これは私がヒロインの声を担当した「1月にはChristmas」というOVAの主題歌だけど、とにかく歌声に私が聴き惚れて、当時私の担当だった大月(俊倫)さんに「こういう曲を聴かないと」ってすぐに連絡しました。彼もピンときたら動くのが早い人なので、あっという間に私が出演する「魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢を抱きしめて」で岡崎さんを起用することが決まって。それから岡崎さんは、私のアルバムには毎回、1曲か2曲、柔らかくて前向きで温かな曲を提供してくれるようになりました。

──2004年に亡くなったときには多くの人が衝撃を受けました。

林原めぐみ

本当に早すぎる死で、私はどうにも正面から受け止められず……ずっと「フランス人と結婚して今は会えないんだ」とか「地球の裏側で元気にやっている」みたいに思って自分を誤魔化し続けていました。でも昨年13回忌を迎え、さすがに13年も経ったら本当に遠くに行っちゃうような気がして、「これは何か形にしないとまずいな」と感じたので今回アルバムとして、まとめることにしました。

──これまでラジオ「林原めぐみのTokyo Boogie Night」の公開録音のライブコーナーで岡崎さんの曲を歌われてはいますが、まだ受け入れられていない部分があったんですね。この13年、岡崎さんの曲をどのように聴いていましたか?

何度も何度も彼女の歌に励まされました。ちょっと弱っていたり悩んでいたり、自分の中で解決できないものがあるときに不思議とランダム再生中のカーステレオから、彼女の歌が聞こえてきて。そして1人で涙を流すという……そんな「ああ、ありがたい」と感じることが何度もありました。

──癒やしというと陳腐ですが、そんな出来事があったんですね。

13年も経ったから、彼女を知らない人も増えてきていると思います。今は本当に時の流れが早くて、とにかく、新しいものや即効性のあるものがあふれている。でも、もうちょっと漢方薬みたいにあとからじわじわと効いてきて、3カ月後に物事がうまく進み始めるような、そんな音楽もあるんだと若い人にも届けたいと思いました。基本的には前向きな私が、落ち込んでいるときに聴いて歩く力をいただいているわけだから、心に効かないわけないでしょ(笑)。

──岡崎さんの楽曲の、どこにそんな効果があると感じますか?

彼女の独特な、当たり前だけれど使い倒されていない、言葉選びかな。「For フルーツバスケット」の「生まれ変わることはできないよ だけど変わってはいけるから」とか、「青空」の「悩みを もう 育てないわ」とか。ハッとさせられる言葉がたくさん散りばめられていて。今の子たちにも伝わるんじゃないかなと思います。

島に上陸できなかったら音楽をやめていたかも

──「with you」のジャケット写真は岡崎さんの出身地である軍艦島(長崎・端島)で撮影されたと伺いました。

林原めぐみ

そう。撮影したのは昨年の11月なんですが、夏すぎぐらいからずっとその撮影日に向けて気が張っていて。ひさびさに本気でいい天候を引き当てなきゃいけないというか……この日の天候がダメだったら音楽活動をやめるかも、くらいの気持ちはあったかな。

──そこまで思われたのはなぜでしょう?

私も50歳になって、「そもそもなんで歌っているんだっけ?」と感じ始めたの。大月さんが「歌え」と言うから歌い始めて、それから千本ノックみたいにやってきてたらいつの間にか歌手としての林原めぐみができあがっていた。でも私はそこまで音楽活動に積極的でもなくて、そんな状態ではキングレコードさんにも申し訳ないし、「歌え」と命令していた人も引退していなくなったし(※大月氏は2016年にキングレコードを退社)、「もう音楽活動はいいのかな」って。そんな心持ちのときに新しい部署の方から「もう少しやりましょう」と説得されたものの、「じゃあ何しようか?」という状態が続いていました。

──なるほど。

軍艦島って上陸がとても難しい島で、まず許可をもらうのが大変なんです。雨の日はもちろん、晴れていても海が荒れていると上陸できないこともあります。しかも今回は撮影できる日程がピンポイントで1日しかなくって、島に上陸できなかったらなんとなく“見えない存在”から「(音楽活動は)もういいよ」と言われたと思っていただろうな、なんて。

──そんな思いで撮影に臨まれたんですね。

うん。でも現実は島に上陸できたから、「もう少しやりなさい」と言われたと感じて。毎回「(音楽活動は)これで終わりかもしれない」と思いながら作品を作っているけど、今回は島の風景を見て「このアルバムは形にするべきだ」と改めて決意することができました。

林原めぐみ「with you」
2017年5月3日発売 / KING RECORDS
林原めぐみ「with you」

[CD]
3456円 / KICS-93489~90

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DISC 1
  1. 愛すべき明日
  2. Good Luck!
  3. はなれていても
  4. -Life-
  5. 雨の小犬
  6. あの頃
  7. 引っ越し
  8. 冬のないカレンダー
  9. 素直な気持ち
  10. 青空
  11. 旋律
  12. For フルーツバスケット for Youth
DISC 2
  1. サクラサク
  2. Lucky & Happy
  3. 夢を抱きしめて
  4. 好きより大好きミンキースマイル!<Grow up Version>
  5. 夢のソネット
  6. 約束<MOMO & MEGU Version>
  7. 4月の雪<MOMO Version>
  8. 4月の雪
  9. Bon Voyage!
  10. シンシア・愛する人[Dear つばめversion]
  11. 君さえいれば
  12. A Happy Life
  13. はじまりはここから
林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-

2017年6月11日(日)
東京都 中野サンプラザホール
OPEN 17:00 / START 18:30

林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中の1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。1990年には個人名義で1stミニアルバム「PULSE」をリリースし、1990年代後半には「Give a reason」「Just be conscious」「don't be discouraged」などオリコン週間シングルランキングトップ10入りを何度も果たす。その後もコンスタントにリリースを重ね、これまでに38枚のシングル、13枚のオリジナルアルバム、3枚のベストアルバムを発表。そしてアーティストデビュー25周年を迎えた2015年6月、活動初期のキャラクターソングと「PULSE」収録曲をパッケージしたベスト盤「タイムカプセル」をリリースした。2017年5月3日、2004年に急逝した岡崎律子のトリビュートアルバム「with you」を発表。