8月20日に待望のメジャー・デビューを果たした胸キュンガーリー・ハウス・ユニット、Sweet Vacation(スウィート・バケイション)。サウンド・プロデューサーであるDaichiこと早川大地は、同日に立ち上げたばかりの自身のレーベル「world's end records」から、東京エスムジカの5枚目のアルバム「World's end wonderland」をリリースする(2人のボーカリストが卒業後、初のCD作品)。こちらは、坂本美雨や民謡歌手の安曇野めぐ留をゲスト・ボーカリストに迎え、クラブ・ミュージックとエスニック・サウンドの新しい融合を試みている。
ポップ志向とアンダーグラウンド志向の二面性。とはいえ、共通して聴こえてくるのは美しきメロディーを大切にした“ワクワクする聴きやすさ”というリスナー本意のエンタテインメントな視点。
近年、インターネットを活用した先鋭的な活動で話題を提示し続ける早川大地に、なぜ今Sweet Vacationと東京エスムジカを同時に活動するのか、そしてそのバイタリティーの秘密を訊いてみた。
取材・文/ふくりゅう
「サンサーラ・ナーガ」ってソフト知ってます?あれが大好きでカバーしてました
——子供の頃ってどんなお子さんだったんですか?
小学校の頃はほとんどファミコンばっかりやってましたね。親があんまりテレビを見せてくれなかったので、テレビ番組は観なかったんですけど。
——どんなソフトを?
それこそひととおりやりましたよ。「スーパーマリオブラザーズ」から始まって「グラディウス」とか「高橋名人の冒険島」とか(笑)。音楽的にも、ファミコン音楽がすごい好きでよく覚えてピアノとかで弾いてました。
——スイバケでもファミコン・サウンドって取り入れてますよね?
当時のファミコン音楽って2つか3つしか音が使えなかったんですよね。3和音1リズムっていうか、メロディラインとベースラインだけで曲ができていて。あれが僕の音楽の原体験かもしれないですね。
——ファミコン音楽で好きな曲って覚えてます?
「サンサーラ・ナーガ」ってソフト知ってます? あれが大好きでカバーしてました。大人になってから知ったんですけど作曲が「機動警察パトレイバー」や「攻殻機動隊」などで知られる押井守監督作品で有名な川井憲次さんなんですよね。しかも、このソフトの監修、脚本は押井守さんと伊藤和典さんが手掛けていて驚きました。
「ライディーン」のメロディとかベースを分析してたりしたんです
——そもそも、音楽を意識し始めたきっかけって何だったんですか?
子供の頃にピアノを弾いていたのが最初ですかね。あまり覚えてませんけど。たぶん、幼稚園頃からやってましたね。でも家族には誰もピアノを弾ける人がいなかったんですよ。父親はギターで、おじいさんはフルートだったし。なぜかピアノをやってました。でも、自分からというより親に無理やりやらされてた感じでしたね。
——そこから、自主的に音楽に、どっぷりハマったのはどんなきっかけからなんですか?
中学生くらいのころに、パソコンを買ったんですよ。そのとき一緒にFM音源も買って。当時はリズム和音と3つしか音が出なかったので、ファミコンとほぼ一緒でしたね。それでプログラミングをしてたんです。その時にYMOの「ライディーン」とかカバーしていました(笑)。
——パソコンの種類は何を使ってたんですか?
当時はPC286VGっての買ったんですけど。当時PC9801がNECで、その廉価版がエプソンから出てたんです。やっぱりゲームとかコンピュータが好きで、コンピュータ・プログラミングに興味を持ったんですね。
——そもそも、なんでコンピュータ・プログラミングに興味があったんでしょう?
なんでだったかな。パソコンをいじってみたかったのかな?そして、パソコン雑誌を買ったら普通のプログラミング記事の脇にゲーム音楽プログラミングの記事が付いてたんです。それを遊びでやってるうちに音楽の作り方がわかってきて。で、その頃僕はYMOとかテクノが好きだったんです。当時、アマチュアだとパソコンで音楽を作るっていうのは、そんなに一般的ではなかったんですよ。だけど、僕はパソコンで音楽を作るっていうのが最初だったんですね。ちなみに、シーケンサーとか全然いじったことがなくて、最初っから全部パソコンだったんです。僕の世代では珍しいかもしれないですね。当時は、1コーラス作ったらコピーするまでに3時間かかるんですよ(笑)。3時間だけどこかに遊びに行って、帰ってきたら2コーラス目をコピーしたりとか(笑)。
——その辺りから、YMOとか打ち込み系のアーティストにハマっていったんですか?
そうですね。ただ当時はパソコンも自由度がそんなに高くなくて、音の音色を作る環境を手に入れるっていうのはもうちょっと後になってからなんですよ。そのころは楽譜を書くというか、逆に技術が発達していないから楽譜だけで表現できるものを作るっていう手法にハマってましたね。
——コンピュータに演奏させるって感じで?
そうですね。「ライディーン」のメロディとかベースを分析してたりしたんですよ。あれは全部違うように動いてるんですよね。対位法的な。それがすごいカッコ良くて。
——変わった中学生だなー。周りにいましたか、そういう人?
全然いなかったですね。でも、高校になるとTMネットワークが好きって人が増えてきて話が合うようになるんです。中学生だと、ブルーハーツのコピーバンドとかが多かったんですよね。高校ぐらいになると「コンピュータで音楽やってるんだよね」「え、カッコいいじゃん!」って話が合うんですよ(笑)。それで打ち込みとギターを合わせたりしてました。