遥海|孤独に寄り添いながら歌い継ぐ、本場のR&B

自分の光を失わないで

──2月17日に遥海さんにとって2021年最初の作品「INSPIRED EP」がリリースされます。オリジナル曲「FLY」では作詞にも挑戦していますが、どんな思いを込めましたか?

遥海

私、スマホのメモにたくさん言葉を入力していて。自分の中に迷いが生じたときは、いつも「Don't lose your light in the darkness Oh remember who you are」というフレーズを読んで、気持ちを落ち着けているんです。「どんなに暗い闇の中にいても、自分の光を失わないで、自分自身を忘れずにいて」という意味なんですけど、今回「FLY」のレコーディング中にプロデューサーの松浦晃久さんから、「遥海ちゃん、ここのメロディに歌詞を入れて」と急に言われて(笑)。そんなすぐに言葉を思い付くほど自分にはボキャブラリーがないから、とっさにこの「Don't lose your light in the darkness Oh remember who you are」というフレーズを入れてみたら、奇跡的にメロディとバッチリ合って、それがこの曲のメインテーマにもなったんです。入院中も、ずっとこの曲を聴いて自分を励ましていました。

──「痛みを知るあなたが どんなに 美しいかを そう 感じているから」というラインも印象的です。

ここ、いいですよね! 私「Different is beautiful」という言葉を一番大切にしているんですけど、それにも通じるフレーズだなって。痛みがわかっているからこそ、人の気持ちにも寄り添えるのだと思います。

──プロデューサーの松浦さんからは、どのようなことを学びましたか?

今まで自分はパワーで押し切るような歌い方をしてきたところがあったんですけど、松浦さんは「あなたの声の魅力は、それだけじゃないよ」と押し引きの大切さを教えてくれました。例えば、100メートルを14秒で走り抜く人もいれば、2分かけてゆっくり移動する人もいる。100メートルが曲の尺だとしたら、その中で自分がどう進んでいくのか。たまに立ち止まったり、ゆっくり歩いたりすることによって、全速力で走ったときのインパクトも大きくなるわけじゃないですか。そういうダイナミクスの付け方を、松浦さんから学びましたね。

孤独を感じている人に届けたい

──今回、アリシア・キーズやキーシャ・コールなどのカバーも歌っていますが、どのように選曲しましたか?

最初に候補として30曲くらいリストアップして、その中から4曲に絞りました。テーマは「私のルーツ」です。自分自身が音楽に目覚めたきっかけは、3歳のときにクワイアに参加して歌う楽しさを知ったことだから、そこを大事にしつつ小さい頃から聴いてきたR&Bの中でもラブソングを選び、自分なりの色を出してカバーさせてもらいました。

──今回の選曲には、「シャワー中に聴きたい曲」という裏テーマがあったとか。

はい(笑)。シャワーを浴びているときって、誰も見ていないから一番素直になれると思うんですよ。そういうときに聴きたくなったり、歌いたくなったりする曲は、自分を心から解放してくれるし、だからこそ大好きなんだろうなって。子供の頃からずっと憧れの存在だった人たちの楽曲をカバーできるのは、本当に光栄なことだと思います。

──実際にカバーするのは大変でしたか?

遥海

大変でしたね(笑)。ずっと浴びるように聴いてきた曲だからこそ、原曲の歌い方が体に染み付いてしまって、自分なりのオリジナリティを出すのに苦労しました。例えばアリシア・キーズの「No One」は、彼女が歌うからこそ素晴らしいのであって、私が歌うと地味だなとか思ってしまったんですよ。実際に歌ってみたら、最初はやっぱりアリシアの色が抜けなくて。あれだけアップリフトなアレンジにしてもらったのに、ついしっとり歌ってしまいそうになる。私、もともとテンポの速い曲が苦手だったんです。でも今回、レコーディング期間を長めに取っていただき、自分の弱点と向き合いながらいろんな歌い方を試すことができて。この曲をカバーしたおかげで、自分の歌をビートに合わせて調整していく方法を学びました。声は楽器の1つであるということが自分の中で明確になりましたし、アップテンポな曲を歌うことが以前より怖くなくなりましたね。

──ほかに、カバーしてみて気付いたことはありましたか?

改めて歌ってみると、歌詞についての意識の変化が大きくて。小さい頃に聴いていたラブソングって、正直あまりピンとこなかったんですよ。5歳くらいの頃は、「好き」という感情なんて「誰々ちゃんのことが好き!」程度のことじゃないですか(笑)。でも、これまでいろんな経験を積んできたし、歌詞の意味もそれなりに理解できるようになって。「今なら歌ってもいいんだな」と思えるようになったからこそ取り組むことができました。

──それを考えると、遥海さんが昨年経験したつらいことも、きっと今後の歌に少なからず影響を与えるでしょうね。

そう思います。私、普段から実年齢よりも幼く見られがちだったのですが(笑)、この1年ですごく大人になった気がしています。人のことをもっと思いやった行動をすべきだなとか、大切な人との連絡を密にしようとか考えられるようになりましたし。それは昨年、祖母を亡くしたことで、「自分だって明日死んでもおかしくない」と思うようになったことも大きいです。明日があるかどうかわからないのなら、「あのときああ言えばよかった」みたいな思いをなるべく残したくない。もし明日がなくなっても、心残りのない人生を送りたいです。それに、自分と同じような孤独を感じている人にも届く歌が歌いたくて。1日中、天井を見ているしかなかった入院中は本当に孤独だったから。そういう人に届くような言葉を見つけたくて、今はノートを常に持ち歩いています。

音楽はずっと残り続けていく

──遥海さんのファンは10代、20代が多いと思うのですが、海外アーティストの曲をカバーすることによって、本場のゴスペルやR&Bを広く知ってもらいたい思いはありますか?

めちゃくちゃあります! もちろん、日本にも素晴らしいアーティストはたくさんいるのですが、海外のアーティストをもっとたくさん知ってほしくて。その入り口になれたら光栄です。実際、私の曲を聴いて「英語はわからないけど、遥海ちゃんが歌っているのを聴いて好きになった」と言ってくれるファンがけっこういて。すごくうれしいし、今回もそれを期待しています。

──歌というのは、そうやって受け継がれていくものなのかも知れないですよね。

そう思います。私はホイットニー・ヒューストンやマイケル・ジャクソンのような古い音楽も大好きで、彼らはもう亡くなってしまったけど、その音楽はずっと残り続けていくと思うんですよね。私の音楽もそうなったらいいなと。たとえ私がこの世からいなくなっても、私の音楽がずっと残り続けていたらうれしいですし、いつかそういう音楽を作れるアーティストになりたいです。