ナタリー PowerPush - ハルカトミユキ
2人がメジャーで描く「青写真」
ウエルカムな状況に対する戸惑い
──ミユキさんはどうですか?
ミユキ 私は言葉で表現できないぶん、音で表現するしかないので。ちょっと話がそれてしまうかもしれないですけど、今までは「すごく構えて、構えて、ひねくれてます」みたいな意識があって。でもライブに来てくれるお客さんが、最初は1人とか2人だったのが、いつからか10人になって……最近はどのくらいだろう?
ハルカ わかってないっていう(笑)。
ミユキ でも、ホントにライブに来てくれるお客さんが増えるにつれて意識的に「オラッ!」って感じじゃなくて、楽しみながら弾いたり、冷静になれる時間が多くなったんですよね。「ああ、ここでこういうふうに動いたら、『この子ちょっと変だな。面白いな』」って思ってもらえるんじゃないかとか。
ハルカ 計算できるようになったんだ?(笑)
ミユキ ちょっとだけね(笑)。ずっとアウェーな状況でライブをやってきたことで、演奏中に振り切れるようになったし。ただメジャー移籍して、これからホームの状況のライブが増えたときに、気持ちの切り替えが難しいとハルカは言っていて。
ハルカ そう。今までは自分たちの純粋なお客さんが少ない中でライブをやってきたから、「ハルカトミユキって、どんなもんなんだ?」という視線をいつも感じてたんですよ。こっちも構えるから8割方敵意で歌っていて。それがふと気付いたら最近はウエルカムな状況が増えていて、ハッとしたんですよね。人に愛された経験のない子供がいきなり誰かに愛されたときに、どんなふうにしていいかわからないみたいな感覚があって。いや……それまでもまったく愛されてなかったわけじゃないと思うんですけど、自分の中ではそれくらいの意識を持っていて。そのほうが表現しやすかったし。
──音楽の在り方としても。
ハルカ そう。でも、これからはお客さんを突き放すときと、完全にシャットダウンして1人で歌ってるように見せるときと、さらにお客さんに対して寄り添ったり開いたりするときも必要だなと思って。その切り替えが難しいなと思っているところなんです。
私たちなりの優しさの表現がある
──このアルバムを聴いたら、切り替えもちゃんとできてるし、バランスもうまく取れると思いますけどね。例えば5曲目の「Hate You」は軽やかなモータウンビートと歌メロに乗って、“君”に対するヘイトな感情をつづったラブソングで。1曲の中で絶妙に陰と陽が共存してる。この曲なんかはライブで自然とオープンに歌えると思うんですよね。
ハルカ ああ、そうかも。ちなみに、この曲ってラブソングに聞こえました?
ミユキ 人によって全然反応が違うよね。
──いや、ラブソングでしょう、これは。こんな言い方されるのはヤかもしれないけど、このツンデレ具合に萌える男は多いと思います(笑)。
ミユキ M男なんですか?(笑) この曲はラブソングに聞こえる人と、そうでなくて「耐えられない!」って思う人と分かれるんですよね。受け止め方はそれぞれでいいと思っています。
──あと10曲目の「長い待ち合わせ」なんかもすごく切ないんだけど、メロディにそこはかとなく優しさがにじんでいて。
ハルカ うん、そうですね。もともとハルカトミユキって聴く人に媚びることやわかりやすい優しさは求められてないんだけど、今は私たちなりの優しさの表現があるなと思うようになったんですよね。その変化はかなり大きいと思います。
「素直に曲を書きたい」
──このアルバムのために書き下ろした新曲も多いんですか?
ハルカ 多いですね。「Vanilla」「ドライアイス」「マネキン」「Hate you」「消しゴム」以外は書き下ろしました。ストックはほかにもあったんですけど、書いた時期とのタイムラグがあるし、今のハルカトミユキを表現したいと思ったときになるべく新曲を書き下ろしたいと思ったんですよね。今までどこかひねくれた感情で曲を書いてきましたけど、新曲は素直に書きたいという気持ちが強くて。テーマとか内容はバラバラなんですけど、「素直に曲を書きたい」というのは1つのテーマでしたね。
──今年の4月にナタリーでハルカさんときのこ帝国の佐藤さんのインタビュー(参照:「スペースシャワー列伝」特集)をやったときに、ハルカさんは「1年以上曲ができなくて、すごく苦しい時期を過ごしていた。蛇口が錆だらけだったんだけど、とにかく蛇口をひねりまくって、錆ばかりみたいな曲を吐き出したら、やっと“水”が出てきた」と言っていて。
ハルカ そうそう、まさにこのアルバムを作ることになったときで、「今だから書ける曲を書きたい」という気持ちはあるのに書けない状況だったんです。あのときもお話したと思うんですけど、比喩じゃなくてホントに詰まってる感覚があって。自分でストッパーをかけてたところもあったんですけど。
──なぜ自分でストッパーを?
ハルカ 判断力と自信がなくなって、自分が書くメロディも歌詞も全然いいと思えないみたいな状態で。人の評価が雑音になったり。判断力が狂ってるのに自分の中でどんどんハードルは上がっていくから、曲を吐き出すこともできなかったんですよね。
──自縄自縛に陥っていたのかもしれないですね。
ハルカ そうだと思います。でも無理やり錆だらけの曲でも出してみたら、そこから徐々に手応えのある曲が書けるようになって。
収録曲
- 消しゴム
- マネキン
- ドライアイス
- mosaic
- Hate you
- シアノタイプ
- 7nonsense
- 振り出しに戻る
- 伝言ゲーム
- 長い待ち合わせ
- ナイフ
- Vanilla
ハルカトミユキ
立教大学の音楽サークルで知り合った1989年生まれのハルカ(Vo, G)とミユキ(Key, Cho)によるフォークロックユニット。ライブを中心とした活動を展開し、2012年11月に初の全国流通音源となるミニアルバム「虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。」をリリース。静謐さと激しさをあわせ持つサウンド、刺激的な歌詞で大きな注目を集め、iTunes Storeが選ぶ2013年期待の新人アーティスト「ニューアーティスト2013」にも選ばれる。2013年3月、2ndミニアルバム「真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。」をリリース。11月にソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューアルバム「シアノタイプ」を発表する。