2人が考える“三多摩感”とは?
坂本 このあたりは緑も多いですよね。都心に比べて圧倒的に木が多い。あとは昔に比べて減っちゃったけど文化住宅。木造の小さい平屋の一軒家がいっぱい建ってて。あれが街の雰囲気に影響を与えてる気がする。一人暮らしにちょうどいい木造の一軒家。文化住宅って正式な言い方ではないのかもしれないですけど。
永積 家の横にプロパンガスが並んでる、あの感じ。まさに、その光景が僕が思い浮かべる地元のイメージなんですよね。もともとこのあたりって野っ原だったと思うんです。そこに高度成長期に伴って多くの人が移り住んできて、みんな思い思いの家を建てたからパッチワーク感がすごい(笑)。でも、それがいい雰囲気を醸し出しているんです。子供の頃は何もない退屈な街だなと思っていたんですけど、今になると、いろんなドラマが見えてくる。両親が新築で建てた実家が年を重ねるにつれて、徐々にブルージーな佇まいになっていったり。今はカメラを片手にそういう陰りを見て回るのが好きなんですよ。
──なんでもないようでいてグッとくる風景を。
永積 そう。新しいものに古いものが脅かされていく感じにグッときちゃって。家と家の間の何気ない空間に普段見落としているきれいなものがある気がする。さっきも少し話しましたけど、坂本さんの楽曲にもどこか似たような感覚を覚える瞬間があるんですよね。何気ない街の風景と強烈に共鳴する瞬間があって。坂本さんの曲って、俯瞰の視点で淡々と歌詞がつづられているんだけど、そこからドラマが浮かび上がってくるというか。それが僕にとっては、すごく輝いてるように感じるんです。
──坂本さんが考える三多摩感をあえて言葉で表現するとどういうものになりますか?
坂本 えーっと……難しいですね。自分が住んでいた頃とは街の雰囲気が変わっちゃってるから、話しても伝わらないっていうか。昔の三多摩の雰囲気を話しても、記事を読んだ若い人が来たら「えっ……?」て感じになっちゃうんじゃないですかね。ただ、都心に比べて空気の流れがゆったりしていたり、そういう雰囲気は変わってないですね。昔は古道具店で古くて面白い物が安く売られたりしてたから、そういうのが好きな人が来たら楽しかったのかもしれないけど……。ああ、そう言えば僕、アンティークジョンって古道具店の系列店でバイトしてたんですよ。国分寺北口の。
永積 その店、わかります! 近くにお地蔵さんがある場所ですよね?
坂本 そう(笑)。そこでずっと店番をやってて。
永積 あそこにテスコのSGタイプのギターが置いてあったんだけど、お金がなくて買えなかった思い出があります(笑)。
坂本 僕の中の三多摩って、あのお店のイメージなんですよね。古着や古本とか、いいものが安く手に入る街って感じ。で、若者がたくさんいるという。
永積 アンティークジョンはオーナーさんが独特な雰囲気でしたよね。髭の長い方で。
坂本 ジョンさん。俺がバイトしていたときに赤ちゃんが生まれて、その赤ちゃんが大人になってライブに来てくれたんですよ。
永積 ええ!(笑)
坂本 終演後に楽屋まで挨拶に来てくれましたよ。彼がある日、全然知らずにゆらゆら帝国を聴いてたら、お父さんに「この子、うちの店でバイトしてたよ」って言われたみたいで。履歴書も見せてもらったって言ってましたね(笑)。
永積 ははは。まだ残ってるんですね。すごい(笑)。
坂本 当時のことを振り返ると、それがすごく印象深いですけど(笑)。
──永積さんが考える三多摩感というのはどんな感じですか?
永積 さっきも話したけど、街に漂うセンチメンタルな雰囲気。国分寺界隈は、でっかい夕陽が急に現れたりして、子供の頃から住宅街の向こうに見える夕陽を見て、ブルージーな気持ちになってました(笑)。遠くの誰かを思い返すような気持ちというか。あとはやっぱり、のんびりした平和な空気感かな。平和だからこそ、センチメンタルな気分に浸れるんだと思う。三多摩には、そういう放課後みたいな時間が流れている気がします。
坂本 高いビルがあまりないし。僕が住んでいた頃から、のどかな感じは変わってないですね。
ふとした瞬間に立ち返る自らのルーツ
──坂本さんの中で、三多摩地方で20年近く暮らしてきた時期に培ったものが今現在の制作に何か影響を及ぼしているところはありますか?
坂本 自分では気付いてないだけで、なんらかの影響は受けてるんでしょうね。昔から変わらず、自分の中で“ずっと好きな感じ”ってあるじゃないですか? 曲を作っていても、そういう“好きな感じ”がどうしても出てきちゃうっていうか。さっき話した中央線っぽさの話に通じる部分もあると思うんですけど、自分の中に沁みついてる、抗えない何か、みたいな。そういうのはあるんじゃないですかね。
永積 まさにここ最近、僕も抗えない何かを地元に感じていて。コロナ禍で写真を撮るようになって、特にその思いが強くなったんです。そういう意味でも、この場所は自分にとってミュージシャンとしてのルーツでもあるんですよね。
──坂本さんもご自身のルーツみたいなものに立ち返ったりすることはありますか?
坂本 いや、あんまりないですね。
永積 ははは。
坂本 今日はこういう対談テーマなので、当時の記憶をたどりながら話してるんですけど(笑)、国分寺に住んでた頃のことを普段思い出したりするかというと、そういうことはほとんどなくて。ただ、バンドを始めてから20年近く住んでたわけだし、当時の生活や好きだった音楽がベースになってる気はします。自分が作る音楽は、どうやっても世田谷区とか港区みたいな感じにはならないっていうか(笑)。
永積 めちゃくちゃわかります(笑)。僕も普段から地元のことばかり考えてるわけじゃないですけど、ふとした瞬間に自分のルーツみたいなものを考えることが最近増えていて。結局自分は生まれ育ったこの場所に向けて、歌を歌っているのかな?と感じたりします。どんな表現をしても、結局は長い時間をかけて沁みついたものがにじみ出てきちゃうのかなと思うんですよね。
ハナレグミ ツアー情報
ハナレグミ ライブツアー2024
- 2024年10月24日(木)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2024年10月26日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
- 2024年11月2日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2024年11月4日(月・振休)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2024年11月7日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2024年11月8日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2024年11月14日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
- 2024年11月16日(土)宮城県 SENDAI GIGS
- 2024年11月23日(土・祝)沖縄県 ミュージックタウン音市場
ホールでGOOD DAY
- 2024年12月22日(日)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- 2024年12月27日(金)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
プロフィール
ハナレグミ
永積 崇(ex. SUPER BUTTER DOG)によるソロユニット。2002年11月に1stアルバム「音タイム」をリリースし、その穏やかな歌声が好評を得る。2005年9月には東京・小金井公園でフリーライブ「hana-uta fes.」を開催し、約2万人の観客を集めた。2009年6月に4年半ぶりとなる4thアルバム「あいのわ」をリリースし、ツアーファイナルの東京・日本武道館公演を成功させる。2013年5月リリースのカバーアルバム「だれそかれそ」では多くの名曲をさまざまなアプローチで歌い上げ、ボーカリストとしての力量を見せている。2015年に6thアルバム「What are you looking for」を発表。2017年10月には7thアルバム「SHINJITERU」をリリースした。2021年3月に8thアルバム「発光帯」を発表し、5月には本作を携えたワンマンツアー「ツアー発光帯」を開催する。2022年2月より弾き語りツアー「Faraway so close」を全国で行う。2023年9月、10月には東阪の野音でワンマンライブを開催。2024年3月に東京・大阪にて、ストリングスカルテッドとホーンを迎えたスペシャル編成による「THE MOMENT 2024」を実施した。9月25日には約3年半ぶりとなる9thアルバム「GOOD DAY」をリリース。10月から全国ツアー「TOUR GOOD DAY」を開催する。
ハナレグミ 9th New Album 「GOOD DAY」
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坂本慎太郎(サカモトシンタロウ)
1989年に結成したゆらゆら帝国でボーカルとギターを担当。バンドは10枚のスタジオアルバムや2枚組ベストアルバムなどを発売後2010年に解散した。翌2011年に自主レーベル・zelone recordsを設立しソロ名義での1stアルバム「幻とのつきあい方」をリリース。2013年にシングル「まともがわからない」、2014年に2ndアルバム「ナマで踊ろう」、2016年に3rdアルバム「できれば愛を」を発表した。2017年にドイツ・ケルンで開催されたイベント「Week-End Festival #7」で初のソロライブを実施し、2018年1月には東京・LIQUIDROOMで国内初となるソロでのワンマンライブを開催した。2022年6月に約6年ぶりとなる最新アルバム「物語のように(Like A Fable)」を発表した。また自身の制作のほかにも、さまざまなアーティストへの楽曲提供やアートワークの提供など、その活動は多岐に渡る。2024年10月13日からアメリカツアーがスタート。11月からは日本国内+アジアツアーを行う。
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