GO TO THE BEDS&PARADISES|少年時代の渡辺淳之介に影響与えたアートディレクター田中秀幸との初コラボ実現

GANG PARADEが分裂して生まれたGO TO THE BEDS、PARADISESの2グループが、7月22日に1stアルバム「GO TO THE BEDS」「PARADISES」をそれぞれリリースした。

2組は3月に行われた「WACK合同オーディション2020」の結果発表の場となった「WACK EXHIBITION」にて分裂することが発表され、4月にスプリットアルバム「G/P」をリリース。しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてライブ活動ができておらず、お披露目の日を待っている状況だ。そんな中で作られたアルバムでは、ジャケットデザインを「ウゴウゴルーガ」のCGアニメーション制作や、電気グルーヴ、きゃりーぱみゅぱみゅ、JUDY AND MARYらのアートワークなどを手がける田中秀幸が担当。ポップさがありながらも毒気の効いたインパクト大のCGイラストを提供した。

音楽ナタリーではWACK代表・渡辺淳之介と、田中の対談をセッティング。渡辺が田中に初めて影響を受けた小学生時代の話に始まり、GO TO THE BEDSとPARADISESのアートワークやビジュアルにまつわるエピソード、青春期までのインプットが作品作りに与える影響などを語ってもらった。

取材・文 / 田中和宏 撮影 / 森好弘

小学生の頃に見た「ウゴウゴルーガ」の衝撃

──GO TO THE BEDSとPARADISESはGANG PARADEが分裂して生まれたグループですが、まず渡辺さんからギャンパレを2組にした理由を改めて聞かせてください。

渡辺淳之介 カミヤサキの脱退を受けて決めたことなんですけど、ぶっちゃけるとGANG PARADEの活動がうまくいってなかったんですね。動員数を含め、目に見えて成長できてなかった。ドラスティックな改革をせざるを得なかったので、もう一度新しく作り直そうというのが2グループにした理由ですね。で、メンバー構成は……“年長組的な感じ”と“ピチピチ組の感じ”で一旦分けてみました。

──そんな2組の1stアルバムのアートワークを田中秀幸さんが手がけたということで今回の対談が実現しました。

渡辺 田中さんの作品に初めて触れたのは僕が小学生のときですね。当時大好きだった番組が「ウゴウゴルーガ」(1992年から1994年まで放送されたフジテレビの子供向けバラエティ番組。田中秀幸はCG制作で参加)だったので。今日、こうやって対談できてすごくうれしいです。

田中秀幸

田中秀幸 いえいえ(笑)。

渡辺 「ウゴウゴルーガ」だと特に「プリプリはかせ」が大好きで、人形もたくさん持ってましたよ。とにかく「ウゴウゴルーガ」のあの世界観に子供ながら魅了されました。言い方が悪くて申し訳ないんですが、今考えるとひでえ番組だったなって(笑)。

田中 まあ、そうですよね(笑)。

渡辺 でもあの番組は僕に引っかかりしかなかったんでしょうね。今回田中さんにお会いするにあたって、物心付いてからどんなことに興味を持ってきたのか振り返ってみたら、「“うんこ好き”って言っていい」というバイブスを教えてくれたのが「ウゴウゴルーガ」だったなと思いました。

田中 当時小学生だった方にそこまでの影響を与えてるとは思いもしなかったです。もっといい加減な気持ちで作ってましたから(笑)。あの頃、デジタルツールを使ってビジュアルを作ること自体がすごく新しいものだったので、子供番組とはいえ、作っていたCGには実験的な要素もありました。僕は大学生の頃にそういうCGの表現方法があることを知って、ハマっていったんです。もともとテクノがすごく好きで、音楽にそういうデジタルツールが使われるようになってきた頃だったという流れもあって。

──テクノと言えば、田中さんはピエール瀧さんとVJユニット・プリンストンガを組んでいました。これまでいろんなテイストの映像作品に携わっていますが、作品そのものについて言及している資料が探した限りでは少ない印象でした。

田中 昔はそういうユニット活動みたいなこともしてましたね。僕自身が表に出てしゃべるとかは普段からあんまりしないほうなんですよ。作品だけを投げて黙ってるみたいな、そういうスタンスなんで。自分の中で整合性が取れていれば、見た人が別人に見えるような作風でも別に構わないと思って作っています。

──テレビ番組、音楽、CM、ファッションブランドなどでさまざまな映像やビジュアルのディレクションに携わっていて、「OH!スーパーミルクチャン」では原案から監督まで務めていました。

田中 「ウゴウゴルーガ」のようなテレビ番組もそうですし、電気グルーヴをはじめいろんなミュージシャンやファッションブランドから依頼を受けて、アートディレクションの仕事をずっとしてました。「OH!スーパーミルクチャン」はすべてオリジナルでコンテンツを作ってみたいと思って生まれた作品ですね。

渡辺淳之介

渡辺 「OH!スーパーミルクチャン」はスペースシャワーTVで観てました。中学時代はとにかくスペシャが面白かったし、音楽チャンネルをずっと観て育った感じです。あとSUPER LOVERSの田中さんがやってらっしゃったグラフィックもすごく好きで。僕が中学生のときはHYSTERIC GLAMOURあたりのブランドがめちゃくちゃ流行ってた時期だったんです。ヒスは中学生からするとすっごく高かったんですけど、SUPER LOVERSはパンキッシュなイメージもあったし、わりとお求めやすい値段で(笑)。

田中 そうですね(笑)。

渡辺 なので周りのみんながSUPER LOVERSを着てるみたいな時期を過ごして。だから年を追うごとに田中さんが僕の人生についてきて……まあ僕がついて行ってるだけなんですけど(笑)。

──「ウゴウゴルーガ」とSUPER LOVERSのどちらにも田中さんが関わっていると渡辺さんの中でつながったのはいつですか?

渡辺 「OH!スーパーミルクチャン」も含めてつながったのは、大学生になった頃ぐらいかな。さらに「田中さんの作品が好きなんだ」と認識したのは電気グルーヴの作品からです。大学時代はヒマだったこともあって、いろいろ掘り下げたくなる時期で、電気グループ関連で調べていくうちに「あ、これもこれもこれもこれも!」とつながった。気付けば田中さんのクリエイティブが自分のそばにあったという感覚。それこそ「WIRE」(レイヴパーティ)もそうですし。

田中 「WIRE」に行かれてたんですか?

渡辺 ええ、行きました。

田中 ああ、じゃあ「ウゴウゴルーガ」からそこまで行き着く流れがあったんですね。僕は「WIRE」の映像を担当していたので毎年、現場に行ってました。

渡辺 僕が行ったのはさいたまスーパーアリーナだったかなあ。ひどかったすね……(笑)。いろんな匂いがしてたし、さいたまスーパーアリーナが全面喫煙所みたいになっていて、誰でもどこでもタバコ吸って捨てるみたいな(笑)。当時の無法地帯感……それはそれですごくよかったなって思います。

田中 (笑)。そんなイベントで僕はアートディレクションをやって、当日は客として楽しんでました。

渡辺 そうですよね。「ウゴウゴルーガ」に人生を変えられたのかもしれないです。今、WACKは「ちんこと言える世の中を。」っていう社是でやってまして。

田中 はい(笑)。

渡辺 これぐらいやってもいいんだと思えたのも、僕をいい意味で大人にさせてくれなかったのも、田中さんの作ったクリエイティブからの影響かなあと思ってます、勝手ながら(笑)。

WACKでやることは基本的に“焼き直し”

──GO TO THE BEDS、PARADISESの1stアルバムのアートワークを依頼するにあたって、どんなことを話したんですか?

渡辺 まず僕としては「田中さんにやってもらったぞ」と自慢したかったところがあり、キャラクターを描いてほしい気持ちが一番にありました。事前に何案かいただいて、打ち合わせでもすごく素敵なアイデアをいっぱいいただいたんですけど、僕の中ではやっぱりキャラクターを全面に押し出したいということで。

田中 何もないところでいきなり話をしてもとりとめがないと思ったので、何か話のネタになるようなものをいろいろ僕のほうで作って、事前にお送りしてから会いました。

──渡辺さんの当初からの希望だった、キャラクターを全面に出すアイデアは事前の案の中にあったんですか?

田中秀幸

田中 キャラクターをそんなに具体的に描き起こしたものは用意してなかったです。そもそも、なんで僕に頼んできたかもわからなかったんですよ(笑)。わからないし、今話していたような背景も全然伺っていなかったので、「どういうおつもりなのかな?」って(笑)。

──WACK所属アーティストについてはご存知だったんですか?

田中 知ったかぶりをするのもよくないので正直に言うと、WACKさんのアーティストは本当にBiSHぐらいしか知らなくて、面白そうだなと思っていたぐらいです。お仕事の依頼を受けたあとに、いろいろ見てちゃんと研究しようかなと思ったんですけど……まあ最近の話題を追いかけるだけでもすごい情報量で(笑)。それでこの情報を僕が今から見ても、ファンの熱量には追い付けないし、知ったかぶりするより感じたままに雰囲気で作ったほうがいいだろうということで、YouTubeでミュージックビデオとライブ映像を観るぐらいに留めました。

渡辺 情報多いですよね。すいません(笑)。

田中 いえいえ。なのでメンバー1人ひとりの個性を知るところまで到達してないんです。でもWACKさんについては渡辺さんがおっしゃってたように、僕も通ってきた1990年代のサブカルチャーもあれば、アイドルのカルチャーもあるし、いろいろとぐちゃぐちゃになっているのは感じました(笑)。ファンからしたらこういう感じこそ面白いんだろうなと。だから僕はオファーを受けて、昔から自分がやってたことをそのままやればいいのかなと思ったんです。

渡辺 そのままやっていただきたかったのでよかったです。僕がWACKでやってきたことって、ひと言で言えば焼き直しなんです。それは自分が影響を受けた文化を現代にアップデートしているというよりは、「うわー、カッコいいことやってる人たちがいる」と学生時代に感じたものを、今そのまんまやるみたいな意味で。なので田中さんに当時の雰囲気をそのまま出していただけたのはうれしかったです。