ギリシャラブ|20世紀の欧米文学をポップスに落とし込む

生活を描いた「(冬の)路上」

──前作「イッツ・オンリー・ア・ジョーク」はジャン=アントワーヌ・ヴァトーの絵画「シテール島の巡礼」とスタンリー・キューブリックの映画「バリー・リンドン」に着想を得て制作されたとnoteに書かれていましたが(参照:『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』の歌詞について、またはその参照、ならびに引用、について|天川|note)、今作「(冬の)路上」は何から着想を得たのですか?

天川悠雅(Vo)

同じく「トニオ・クレーゲル」と「モデラート・カンタービレ」です。

前者は、芸術と生活(生きること)の対立関係を考える上で、ある意味では模範的な作品だと、僕は思います。また後者は、正常と異常、日常と狂気の世界の境目をわからなくする、なんと言うか、かなりヤバい作品です。

「(冬の)路上」のリリックでは、生活を描こうと思いました。プロットでなく、言葉の連なりが新しい感覚を生み出すようなものにしようと考えました。

──「(冬の)路上」はどのような作品にしようと考えていましたか?

とにかくポップな作品です。ソングライティングの面でも、プロダクションの面でも、サウンド面でも、前作に比して開かれた作品にすること、それが作品を作る上でのトッププライオリティでした。

──資料には「『(冬の)路上』は、意固地にポップなアルバムです」という天川さんの解説が記載されていました。これについてもう少し説明していただけますでしょうか?

作品を作るうえで、音楽的な横断とポップさがときに対立することがあるかもしれない。そういうとき、前作では僕らはどちらかと言うと横断することを選んできました。それでも残るものが本当のポップさだ、と考えて。

今作ではポップさにしがみつきました。とにかくポップだ、今はポップな作品を作るんだ、と思っていました。

やってみてわかったのですが、ただ単にポップな作品を作る、というのもむつかしいものですね。ある曲では成功し、ある曲では結果的に大胆な横断をすることになりました。けれど作品を作り終えるまで、ポップさは手放さなかった。

リリックと音楽の関係は

──リード曲「からだだけの愛」はタイトルからインパクトが大きいです。この曲の背景と込めた思いを教えてください。

取坂直人(G)

「パーティ☆モンスター」というマコーレー・カルキンがドラァグクイーン役で、ヤバいパーティ開きまくって最後殺人で刑務所に入るっていう映画を観て、そういう馬鹿みたいな曲を書きたいなあと思っているときに、取坂の家で酔っぱらってたらいつのまにかできてた曲ですね。だから込めた思いは特にないです(笑)。あえて言えば「思い」がないってことを書いた曲ってことになるかな。「からだだけ」です。

──3曲目「ブラスバンド」はギリシャラブのことを歌っているのでしょうか? そうだとすれば、ギリシャラブのどのような状況をどのように考えてこの曲が生まれたか教えてください。違う場合は、何にインスピレーションを受けてこの曲を制作したか教えてください。またギリシャラブと共通する点や、バンドをやっている天川さんの思いが入っている部分があれば教えてください。

バンドとは関係ないです。この曲を書いたときには僕はまだ大学生でしたけれど、音楽なんかやってて将来大丈夫だろうかというぼんやりした不安、上述の「トニオ・クレーゲル」で描かれている芸術と社会の対立、そういったことがリリックに少しは反映されているかもしれません。

でも、この曲を作りながら考えたのは、リリックと音楽の関係についてです。

ぼくらはきっと野垂れ死にさ
冬の路上で
なけなしはたいて買ったバラを
胸に抱きながら

という歌詞が、バスドラムとスネアのシンプルなビートとメジャーコードの演奏に乗ったときに、力強く、なかば楽しげに響くのでなければ俺が歌の詞を書く意味はないし、逆にこの曲が、歌詞によって悲劇的な性格を付与されるのでなければ、それもまた俺が曲を書く意味もない、そういうふうに自分に言い聞かせながら書いた曲です。

中津陽菜(Dr)

──そのほか5曲のうちで思い入れのある曲やフレーズがあれば教えてください。

今作は全曲に等しく思い入れがありますねえ……ちなみに、曲名の「ブラスバンド」「ペーパームーン」はいずれもバラの品種名です。はじめはバラの名前だけでアルバムを作ろうとしたのですけれど、2曲で飽きてしまいました(笑)。

──レコーディングでの印象的な出来事があれば教えてください。

もうプリプロダクションもすべてこっちで終わって、レコーディングに臨んだのですけれど、志磨(遼平)さんが「どういうわけか」にピアニカを入れよう、というアイデアを出したんです。それで、最終日かな、志磨さんいないなあと思ったら楽器屋にピアニカを買いに行っていた(笑)。だから、「どういうわけか」のピアニカは志磨さんのアイデアなのです。曲のスパイス、それもとってもリッチなスパイスが入ったと思っています。

ギリシャラブ「(冬の)路上」
2018年1月17日発売 / JESUS RECORDS
ギリシャラブ「(冬の)路上」

[CD]
1728円 / JRSP-005

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収録曲
  1. からだだけの愛
  2. モデラート・カンタービレ
  3. ブラスバンド
  4. ペーパームーン
  5. どういうわけか
ギリシャラブ「(冬の)路上」発売記念LIVE
  • 2018年2月18日(日)東京都 新宿red cloth
    <出演者>
    ギリシャラブ / Gateballers / Gi Gi Giraffe
  • 2018年2月25日(日)京都府 ネガポジ
    <出演者>
    ギリシャラブ / カネコアヤノ / 折坂悠太(合奏)
ギリシャラブ
2014年に京都で結成されたロックバンド。メンバーチェンジを経て、現在は天川悠雅(Vo)、取坂直人(G)、山岡錬(G)、中津陽菜(Dr)、ハヤシケイタ(B)の5人で活動している。文学作品や絵画からインスピレーションを受けて作られる物語性のある歌詞やノスタルジックなサウンドで人気を博している。2015年に1stミニアルバム「商品」を、2017年3月にフルアルバム「イッツ・オンリー・ア・ジョーク」を発表。2018年1月に「(冬の)路上」を、志磨遼平(ドレスコーズ、毛皮のマリーズ)監修のレーベル・JESUS RECORDSからリリースした。