2024年にデビュー30周年を迎えるGLAYが、大きな節目を前に新作EP「HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-」をリリースした。
本作には、TAKURO(G)作詞作曲の「Buddy」「U・TA・KA・TA」「SEVEN DAYS FANTASY」、HISASHI(G)がサクライケンタをアレンジャーに迎えて制作した、アプリゲーム「ブラッククローバーモバイル 魔法帝への道 The Opening of Fate」のテーマ曲「Pianista」、TERU(Vo)が両親との今の関係を曲に落とし込んだ「刻は波のように」、「THE GHOST」の80KIDZリミックスバージョン、ホールツアー「HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-」で使用されていたインストゥルメンタル「Ghost of GLAY 愛のテーマ」を収録。サウンドの方向性も込められたメッセージもまるで異なる7曲だが、共通しているのはこの3年強のコロナ禍に制作されたという点だ。つまり、「GHOST TRACK E.P」はGLAYの現状とリアルが刻まれた1作なのだ。
今回の特集では、EPを象徴する「Buddy」「Pianista」の2曲をフィーチャー。前編ではTAKUROに「Buddy」、後編ではHISASHIに「Pianista」にまつわる制作背景を聞きながらGLAYの近況を語ってもらった。
取材・文 / 中野明子撮影 / 映美
ハイコミツアーで感じた確かな成長
──TAKUROさんは6月に終了した全国ツアー「HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-」がかなり手応えのあった内容だったことを最終公演でお話しされていましたね(参照:「本当に幸せだった」GLAY、3カ月半に及ぶレア曲連発ハイコミツアー完走)。
始まってから最初の2、3週間はツアー向けに体を戻すのが大変でしたけどね。ただ、定番曲をやらないというコンセプトのツアーだったので、ステージに上がってしまえば新鮮な気持ちで演奏することができました。毎日毎日メンバーと顔を突き合わせてステージで演奏して、前日のライブではできなかったことを次の公演で試してみて。そういうことを3カ月やっていく中でこれから5年、10年、20年先のGLAYにすごく期待が持てるなと思ったんです。特に最終公演の東京ガーデンシアターでは、「バンドって何年経っても上手になるんだな」ということも実感しましたし。メンバーそれぞれまだいろんな可能性を持ってるから、何か1つ興味深いテーマがあったらそれに沿って曲を作ったり、ライブをしたらさらに面白くなるんじゃないか。そんなことが感じられる、GLAYの多面性をよりクリアにできたツアーだった気がします。
──今回のツアーではライブ中の声出し解禁というトピックもありましたが、制約が解除されたことでTAKUROさん的に何か感じたことはありましたか?
個人的には歓声や合唱はそんなに意識してなくて。例えば俺が氷室(京介)さんのコンサート行っても「京介!」とは叫ばないし(笑)。そうしないということは、ライブにおいて声を出すということに自分はそんなに重きを置いていんだなと。もちろんライブは楽しんではいるんですけどね。ただ、無観客の配信ライブをやったときは、「これはライブじゃない。お金のかかったリハーサルじゃないか」と思ったんですよ。同時に、ライブというものは、会場に足を運んでもらうお客さんにいろんな負荷がのしかかってるのかもしれないと感じた。体調が悪いとどんなにいいライブでも楽しさは半減するだろうし、心配事があったりしたらそれはまた気持ちを削ぐだろうし。逆に心配事を吹き飛ばすくらい元気をもらえるときもある。生きている人間が1つの場所に集まって、それぞれの状況を背負いながら音楽を共有するという行為はとても興味深いし、生きるうえでいろいろ作用するんだろうなと。
──なるほど。
ライブで声を出してアーティストと一緒に歌ってきた人たちにとってはとてもつらい3年間だったけど、GLAYの音楽をジャズクラブでお酒を飲みながら聴く気持ちで楽しむ人たちにとっては、周りが静かでとても音がクリアに聴こえていいものだったかもしれない。ただ、俺たちとしてはコロナ前と大して変わらない心構えでライブをやってたんですよ。よく空が青いから気持ちいいとか、そよ風が吹いて心地いいとか言いますけど、空も風も人を気持ちよくさせるためにそうしているわけじゃない。ただただそこにあるだけなんですよね。そんなことを考えたとき、GLAYもある種その域になっているのかなと思ったんです。聴く人の受け止め方によって、それが励ましにもなるし、慰めにもなるし、知らなかったことを知るいいきっかけにもなる。嫌なことに蓋をする栓になり得るかもしれない。何にでもなり得る。コロナ禍はお客さん自身がGLAYに何を求めているのかを考える時期でもあったかもしれないなと思いました。
──「The Ghost of GLAY」を経て、11月からはアリーナツアー「GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost Hunter-」が始まります。
アリーナツアーは、春のツアーが楽しすぎたので「もうちょっとやりたいよね」とメンバーと話して決まったものなんですよ。自分たちの好きな曲をやるとファンの方が喜んでくれるし、「HOWEVER」や「SOUL LOVE」と同じ血脈を持つ曲たちに出番をあげようぜという意図ですね。ヒット曲はただ世の中にフックアップされただけで、別に俺の中ではほかの曲とかわいい度合いは一緒だから(笑)。
──アーティストにとって曲は子供と言いますからね。
そうそうそう。
──ツアータイトルを「The Ghost Hunter」にしたのはどうしてですか?
春のツアーが「The Ghost」だったから、次は「Ghost Hunter」かなと。単なる思いつきですよね。「GLAY殺人事件」もそうだったけど、意味がありそうで何も考えてないんだよ、俺たち(笑)。
──ホールツアーではライブのラストでドアが勢いよく閉まって、意味深な感じで終わったのでどんなつながりがあるのかと思ったんですが。
GLAYはあとから意味をつけていくのが好きなんだよね。どういう流れだったら、ドアが閉まる映像が次のアリーナツアーにつながるかなとかみんなで考えて、オープニングはこうしようとか、ステージにドアを作っちゃおうかとか……そうやってみんなで考えているのが楽しいんです。本当に文化祭みたいな感じで。
30周年の前に全部出してしまおう
──3月時点のインタビューで「2023年は2枚シングルを出す予定」とお話しされているのを拝見したのですが、蓋を開けてみたらバラエティに富んだボリューミーなEPが届けられました。
俺の中では、このEPもシングルの気持ちなんですけどね。この数年はコロナによって多くのミュージシャンがレコーディング環境を変えざるを得なかったわけで。GLAYも対面でレコーディングする機会が激減したんだけど、俺は新しい機材の使い方を覚えるいいチャンスだと捉えたんです。それまでは俺は打ち込みで曲を作ったことが一切なくて、ドラムの音が欲しいときはTOSHI(サポートドラマーの永井利光)にスタジオに来てもらって遊びがてら録音して、ベースが必要ならJIROに楽器を借りて自分で弾いたりしてた。長年手間のかかるデモの作り方をしていたんですけど、コロナ禍中はスタジオに入れず。機材を買い求めて、それを覚える過程で新たな曲が生まれたんですよね。作ったデモのデータをメンバーに送って、曲を作り上げていく中で、今の時代に即したような宅録もGLAYとしてありなんだなと感じられるようになった。だったらコロナ禍の中でできた今のGLAYの曲たちは、来年のデビュー30周年の前に全部出してしまおうということになったんです。
──なぜアニバーサリーイヤーの前に放出しようと?
デビュー29周年のGLAYのコンセプトが「ゴースト」なんです。JIROが作曲した「THE GHOST」から来ているんですが、俺がそのコンセプトを気に入っちゃって。「ゴースト」をテーマに曲を書くことが楽しかったし、普段あまり披露しない曲をメインにしたツアーをやるのも面白かった。来年の30周年のタイミングでは、ヒット曲とか人気曲を中心にしたお祭り的なライブをすることになるだろうから、その前にあまり日の目を見ない曲たちに光を当てる年があってもいいんじゃないかなと。
──前回のシングルも今回のEPも、従来のGLAYだったら世に出していなかった一面を見せるという意味合いがあると。
そうですね。俺らはデビュー29年目にして、まだある意味流動的であり、場当たり的でルーティンに陥らないことに誇りを覚えているんです。メンバー各自が新しい扉を開く作業を怠っていなくて、俺を楽しませてくれる曲を次から次へと書いてくれることに感謝してて。
──先日、The Rolling Stonesが18年ぶりにアルバムを出すというニュースがありましたが、長いキャリアを持ちながらも意欲的に新作を発表する姿勢に近いものを感じます。40代、50代といわゆる人生の折り返しに入ったときに、多くの人は後ろを振り返ると思うんですが、GLAYの活動を見ているといくつになっても新しいことに挑めるんだなと。
昔はエンタテインメントは若者の文化だったと思いますが、それが成熟していって、幅が広がっているところはありますよね。自分たちが80年代に30代を迎えていたとしたら、“大人らしいこと”をしないといけないと思って、解散していたかもしれない。でも今は50代でも60代でもロックコンサートに行ったり、ヒップホップやクラブミュージックを楽しんだりすることが当たり前だし、自分の子供の頃に見ていた大人の世界よりも、エンタテインメントの趣向が広く複雑になってる。
──エンタテインメントに限らず、世の中全体が若返っている感じはありますよね。
昔の日本人の生き方を調べたりすると、かなり老生しているんですよね。織田信長の時代なんて人生50年だったわけだし。海外でも60年代のThe Beatlesのメンバーなんてヒゲモジャで、30代か40代だと思っていたら、実際は20代後半だったりして。それが今では人生100年と言われている。社会全体が生き急いでいた時代を経て、ある程度経済的に裕福になってエンタテインメントにお金がかけられるようになったときから音楽シーンも変わったんでしょうね。その影響でGLAYも活動しやすくなっている気がします。
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GLAYの“バディ”はファン1人ひとり