GLAY|JIROが語るメットライフ2DAYS、“言葉”のニューアルバム、そして25周年のこと

戸惑いがあった「NO DEMOCRACY」

──さて、ニューアルバム「NO DEMOCRACY」が完成しました。TAKUROさんが「言葉にこだわった作品」とおっしゃっていましたが、最初からこのコンセプトは決まってたんですか?

そうですね。TAKUROが最初から「言葉のアルバムにしよう」と言ってて、「もっとみんなが本当に歌いたい、パーソナルな曲を作ってきてくれ」というオーダーがありました。どうも、このコンセプトになったのは「SUMMERDELICS」のときに俺が書いた「lifetime」という曲がきっかけだったみたいなんです。

──へえ!

JIRO(B)

俺は、ファンの人たちからの手紙やラジオに届くメッセージを通して、彼ら、彼女らがライブに来て楽しんでくれたあと、帰ってからの日常や次のライブまでにいろんな出来事を経験していることを知ったんですね。それで「また次に会えるときまでこの曲を聴いて達者にしててね」みたいな感じで「lifetime」を書いたんです。そしたら、「SUMMERDELICS」ができあがった直後にTAKUROがメンバーの前で「今回のアルバムで心の底から歌いたい、伝えたいメッセージを歌ってるのってJIROの曲だけだよね。次はそういう曲が集まったアルバムを作りたいと思ってる」という話をして。

──コンセプト自体は「SUMMERDELICS」直後からあったんですね。でも、JIROさんは前々からあまり歌詞に頓着してないとおっしゃってますよね。

そうなんですよ(笑)。そもそも、「lifetime」はそのときに歌詞で書きたいことがあったから書いたんです。普段は曲を書いても、TAKUROに「お願いします!」みたいな感じで歌詞を任せているし。それに俺はメンバーに引っかかる曲がもしあったら採用してもらえればいい、ぐらいに思ってるんです。だから、今回のアルバムの制作に取りかかったとき、TAKUROが「こんな感じの曲をやりたいんだよね」と早い段階から曲をまとめていて、それを聴いたときにどれもメッセージ性が強いし、キャラも濃かったので僕の得意とする曲は入る余地がないなと思って。アルバムにハマりそうな曲がないからプレイに徹することを伝えたら、TAKUROが「いやいや、持ってきてよ!」と言ってきたんです。

──それを受けてJIROさん作曲の「反省ノ色ナシ」が誕生したと。

はい。でもこの曲はもともと「SHUTTER SPEEDSのテーマ」やTHE PREDATORSでやってるような、2分半のポップなパンクソングだったんです。その曲をTAKUROが「大幅に変えたんだけど、ダメだったら言って」とアレンジを聴かせてくれて。最初はびっくりしたんだけど、このアレンジだったら「NO DEMOCRACY」というアルバムにも合うと思ったんです。その時点で歌詞も見せてもらって、ほかの曲ともテーマが合うし、結果採用されました。

──タイトルも歌詞もかなり攻めてますよね。私はニヤっと笑ってしまったんですが。

タイトルを見た時点で「どんな曲なんだろう」と思いましたよ(笑)。

──最近TERUさんが函館にスタジオを作られましたが、レコーディングはそちらで?

いや、楽器隊は東京ですね。歌録りは函館の“TERUスタジオ”でやりました。いずれは函館のスタジオでレコーディングもするようになるんじゃないかな。

──函館レコーディングによるTERUさんの歌の変化は感じましたか?

JIRO(B)

歌に関してはプロなので、どこでレコーディングしてもクオリティの高い歌を歌うなと。ただ本人の意識の高さが今までと全然違いましたね。今回は本番のレコーディングまで何度も何度も歌って、「こういうアレンジになってるから、こういうハーモニーに乗せて……」と事前に考えたと言ってたんです。俺に言わせたら、それが普通だよ!と思ったんですが(笑)。

──逆に言えばTERUさんはあまり準備をせずとも歌えている部分があった。

彼は天才なんでね(笑)。

──今回のアルバムのレコーディングで、JIROさんとして新しいチャレンジした曲はありますか?

「氷の翼」と「誰もが特別だった頃」の2曲。どちらもリズム的に今までにないタイプの曲でしたね。「氷の翼」は若干「HOWEVER」のリズム感に似てて、ベース的には間を大事にする曲なんです。「氷の翼」と「誰もが特別だった頃」はレコーディングが終わったあとも苦戦してて、ライブに向けて家で個人練習してます。

──ほかの新曲については、弾いてみていかがでしたか?

最初はすごい戸惑ったんですよ。

──え?

今回の新曲は、自分が通っていない1980年代の歌謡曲テイストの曲もあったし、アダルトな感じの「氷の翼」のような曲もあって、どう向き合えばいいのかわからない部分がたくさんあったんです。でも、とにかくTAKUROの熱量がこれまでのアルバム以上に強かったのでそこには応えたいと思って、葛藤が生まれて。1曲ずつベースラインのベストを追求しようと朝から晩まで何日も練習してました。

──ベーシストとして長いキャリアがあっても、スムーズに弾けるわけではないと。

JIRO(B)

そうなんです。でも、結果的に複雑な曲のほうが弾いてて楽しくなってくるんです。例えば「JUST FINE」や「愁いのPrisoner」は過去のGLAYの曲に近い雰囲気なので仕上がりが見える。一方で新しいアプローチのある曲は、どうやって自分のものにしていこうかと戸惑うんだけど、逆にそういう曲こそハマって。“出口”が見つかったときはすごいテンションが上がるんです。TAKUROが納得するベースフレーズを考えるのも答えの1つなんでしょうけど、俺自身が納得するというか、「この曲を弾いてて楽しい」と思えるところまで持っていけることが正解なのかもと思えるようになりました。

──プレイヤーとして新しい手応えがあったんですね。

GLAYにとってこれがラストアルバムではないし、ゼロから制作がスタートして完成した「NO DEMOCRACY」の各曲に愛情が持てて、弾くときに自信を持てるようになった。このあとのツアーで弾くことも楽しみにしてるんです。それがアルバムを作る中で成長させられた部分かなと思います。

──あの……実は「NO DEMOCRACY」を聴いたときに、あまりアニバーサリー感がないアルバムだなと感じたんです。

ないですよね(笑)。

──アルバムの後半はシングル曲や既発曲で構成されているので、ある意味で“ザ・GLAY”な部分が出てると感じたんです。でも前半は歌詞に今の時代や混沌とした世相を反映したものが多いですし、曲の展開やアレンジも一筋縄ではいかないものもあり、どの曲にも今のGLAYだからこそ表現できる音楽性が表れてるなと思いました。

その通りだと思います。「25周年だから、それっぽい、めでたいアルバムにしよう」という思いはなかった。アニバーサリーイヤーにリリースされますけど、作ってるときは周年のことはあまり考えていなくて、今やりたいことを表現しようというスタンスだったんです。逆に言うと25周年のアルバムでファンが望むような「これぞGLAY」みたいな作品にしていたら、今後残らないかもしれない。

──確かに。JIROさん的に本作はGLAYの活動の中でどんな位置付けの作品になると思いますか?

うーん……今はわからないけど、今作を機にパーソナルな思いを歌うスタンスは変わらない気がする。TAKUROはここで覚悟を決めたような感じがするし、より自信を持って作品を作っていくんじゃないかな。