ゲスの極み乙女。結成10周年インタビュー「特異な個の集合体が歩んだ10年を『丸』に込めて」、親交ある3組のプレイリストも (2/4)

今までで一番異常なコード進行かも

──数量限定生産のセットに入っているムック本のファンからの質問コーナーに「ゲスの極み乙女。と言えばこの曲」という質問に対する4人の答えが載っていて、課長が「ロマンスがありあまる」(2015年10月発売)を挙げていたのが印象に残ったんですよね。

休日課長 各パートの楽器の強さがちゃんと梱包されつつ、「ロマンスがありあまる」というキラーワードもあって、僕の中ではすごくゲスっぽい曲。まあでもそのときにそう思ったから選んだって感じなんですけど。

──これだけの曲数があると、きっとタイミングによって選ぶ曲は変わりますよね。ただ、「キラーボール」のようなライブ映えする派手な曲もゲスらしいとは思いつつ、メンバー人気が高いのは「ロマンスがありあまる」のような切ないメロディの曲が多かったりして、そこも昔からずっと変わらない部分かなって。

川谷 切ないメロディラインが好きなんでしょうね。ワイワイしてるものよりは(笑)。

休日課長 「みんな騒ごうぜ!」みたいな音楽はみんな聴かないよね。

川谷 よく「ドレスを脱げ」(2013年3月発売のミニアルバム「ドレスの脱ぎ方」収録曲)とか作ったなって思うもん。

休日課長 今思えばね。でもひねくれ感みたいな部分はどの曲にも共通していると思う。

ちゃんMARI 底抜けに明るい人間たちではないから(笑)。

川谷 「ドレスを脱げ」もサビはマイナーコードだしね。

ゲスの極み乙女。

ゲスの極み乙女。

──もともとゲスの初期の音楽性は、indigo la Endが2013年に「スペシャ列伝ツアー」に出たときに、周りがライブで盛り上がるような曲をやるバンドばかりだったから、「そういう曲をゲスでやろう」みたいな、ある種の反動だったんですよね。だから、本質的にはそっちじゃないんだけど、でもやっていくうちに、それも本当の自分たちになっていったというか。

川谷 そうですね。この前「ツタロック」(2022年3月開催「ツタロックフェス2022」)というイベントに出たんですけど、お客さんの反応から2013年当時にリリースした曲もまた真新しいものとして聴かれているんだなという感じがあったんですよ。マカロニえんぴつとかSaucy Dogとか僕らより少し下の世代のバンドとの共演だったので、若いお客さんが多かったんです。時代は回るから今の若い子たちは自分たちが聴いてないものを「新しい」と捉える。大貫妙子さんが1978年にリリースした「4:00A.M.」がTikTokでたくさん使われているのとかも、今の人たちは新しく感じているからだと思うし。そういうサイクルがどんどん速くなってきてる気がして、僕らももう10年やっているから、若い子たちには新しく映っているのかなって。

──それでいうと、今回デジタルで配信される通常のベストアルバムには新曲が2曲入っていて、特に「発生中」が初期のゲスを今にアップデートしているような印象を受けました。バンド感や歌詞のシニカルさは初期っぽいんだけど、細かいアレンジや歌い方はこれまで聴いたことがないもので、1周回って新しいというか。

川谷 昔の僕らの曲のアップデート感があるなっていうのは、できあがってみて思ったことでした。作っているときは時間がなくて、わけわかんなかったんで(笑)。「青い裸」のほうは何年か越しに完成した曲です。もともとオケはあって、ドラマの話をいただいて歌詞や歌を変えて録ったので、終着点はわりと最初から見えていたんですけど。でも「発生中」はこのアルバムに向けて、ほなみちゃんの舞台中に1回スタジオに入って、そのままレコーディングに臨むようなスケジュールでした。

いこか 最初の仮タイトルは「ケイオス」でしたからね(笑)。

ちゃんMARI 本当にバタバタで、スタジオに入った日はコード進行を追えなかったです。覚えていたものが全部間違っていて(笑)。

川谷 今までで一番異常なコード進行かもしれない。

いこか 「ちゃんとこれに歌が乗るのかな」って心配だったけど、そこは心配しなくてよかった。

ほな・いこか(Dr)

ほな・いこか(Dr)

ほな・いこか(Dr)

ほな・いこか(Dr)

──歌は音域もフロウも聴いたことがない感じで、これはコード進行に引っ張られた結果なのか、新しいところにトライした結果なのかというと、どちらが近いですか?

川谷 どっちもありますけど、トライの方が大きいです。これは家でいろいろやってみて、最初はずっとラップで行くか迷ったんですけど、ちゃんとサビっぽい展開を作ったので、「キャッチーじゃないけどキャッチー」みたいな曲にしたくて。その1つの正解が作れたかなって。

──もともとは瞬発力で作ったからこそ、根っこにある初期の感じがもう一度出てきて、それをちゃんと更新できたと考えると、ベストアルバムに入る意味のある新曲ですよね。「青い裸」もひさびさのテレビ東京のドラマ主題歌ということで、これもベストアルバムに入る意味を感じるし(笑)。

川谷 ああ、「猟奇的なキスを私にして」がオープニングになった「アラサーちゃん」もテレ東でしたね(笑)。

ちゃんMARI 確かに(笑)。

この10年は何重にもなってる「丸」

──ここからは10年の歩みを振り返ってもらおうと思います。ほかに類を見ない10年を過ごしたバンドだと思うのですが、まず一旦丸投げさせてもらっちゃうと、それぞれにとってこの10年はどんな10年でしたか?

川谷 ある程度のことはひと通り経験したなって感じですかね。このバンド1つでも、人生を一周できるくらいの濃いことがあったなって。そういう意味でも「丸」っていうか、本当に1周した感じです。酸いも甘いも、いろいろ経験したなって。

休日課長 1年先がわからない10年で、予想を遥かに超えて面白いことになったなと思います。最初のほうは「どうなっちゃうんだろう?」っていう感じだったんですけど。

──いつ頃から楽しめるようになりましたか?

休日課長 どれくらいだろう? もちろん、ずっと楽しんでやってきてはいるんですけど、ちゃんとバンドをやる楽しさを実感できているのは、ここ2年とかかもしれないです。

ちゃんMARI 私はずっとワクワクするようなことをやれているなという感じで、めっちゃ中身の詰まった10年でした。でも特に最近はリラックスして楽しめてる感があります。最初はけっこう必死というか、技術的な面で足りないものがいっぱいあったので、それを補完しなきゃと思っていたし、曲を作るスピードが速いので、それに追いつくのに必死だったんですよね。

いこか 10年やってる気もするし、10年やってない気もする(笑)。特に最初のほうが怒涛だったというか、ワッといろんなお話をいただいて、いろんな人に聴いていただく機会が増えて、そこからすごくいろんなことを経験させてもらって……本当にいろいろ詰まった10年でした。いろいろ何重にもなってる「丸」なんだろうなって感じがすごくします。

ゲスの極み乙女。

ゲスの極み乙女。

──ゲスは結成から人気バンドになるまでの初速がめちゃめちゃ速かったですもんね。

いこか そうですね。最初CDを自主で出して、「disk unionで話題になってるらしい」って聞いても、なぜそんなことになっているのかが全然わからなくて。最初はライブも全然してなかったから、バンド名だけ1人歩きしてる感じがすごくあったんです。でもライブをやるとだんだんお客さんが増えていって、「ゲスの極み乙女。ってカッコいいんだな」と自分でも思うようになりました。

──最初はそれぞれが別のバンドをやりながら、遊びの延長で始まったわけですもんね。

いこか 本当に遊びだったから肩の力が抜けていて、そこもよかったのかなと思います。

10年経っても変わらないこと

──遊びの延長での始まりから、本格的にスイッチが入ったのはいつ頃だったんですか?

川谷 2013年に「ぶらっくパレード」のミュージックビデオを公開したときですかね。あのときにたくさんリアクションがあって、そこでギアが1個上がった気がします。あとはやっぱり「キラーボール」ができて、初めて出た「COUNTDOWN JAPAN 13/14」で朝4時半に入場規制になったあの光景。あそこでさらにギアが上がった感覚がありました。あとは課長が会社を辞めたときですね。あそこで一番ギアが変わったかもしれないです。

──メジャーデビューの前日に会社を辞めているんですよね。課長は当時の心境を覚えていますか?

休日課長 「この4人のうちの1人になれるんだったら」みたいな……こういうとクサいですけど(笑)、でも本当に、この4人じゃなかったら決断できてなかったと思うので、今思えば、面白い決断をしたなって。周りを見渡して、「こんなバンドはほかにいないな」っていう実感はそのときからあったので、そこもひっくるめてそう思います。

休日課長(B)

休日課長(B)

休日課長(B)

休日課長(B)

──課長が会社を辞めることについて、メンバー間で話し合いをしたんですか?

川谷 バンドの方針について話すとかは特になかった気がします。

いこか 課長のことは心配しつつ、でもちょっと聞きづらいところでもあったというか。

川谷 僕たちみたいなプー太郎と違って、大学院も卒業されて、一流企業に入られて、レベルが違ったというか……。

休日課長 ……怖いんですけど、このいじり(笑)。

──あはは。まあ、川谷さんと課長も大学の先輩後輩ではありつつ、同級生とかではないし、いこかさんとちゃんMARIさんもそれぞれ別のバンドで出会っていて、お互いに対していい距離感があるというか、そこもこの10年変わってないのかなって。

川谷 いい距離感だとは思いますね。お互いの仕事にちゃんとリスペクトを持ってやっているところはずっと変わってないんで。

ちゃんMARI 会社を辞める前の課長は「いつ寝てるの?」みたいな生活だったと思うけど、仕事をやめて、メジャーデビューしてからは、ゲスに集中するようになって。そういう期間を経て、今はまたそれぞれの仕事とか活動をしながら、そのうえでゲスをやれてるのがすごく心地いいです。ちゃんと循環してるというか、外でいろいろやって、それをゲスに持ち帰って、そこからまたアウトプットして……そういうことができているのがすごくいい状態だと思います。