音楽ナタリー Power Push - Galileo Galilei

新作「クライマー」が描き出す3人の今

1曲に最低3つはフックを入れる

──ストレートとはいえ、実はフックになるフレーズがたくさんありますよね。最初にガツン!とコードギターが鳴ったあとのギターフレーズとか、イントロからAメロに入るときのドラムとか。シンプルに見えてそれだけじゃないのが、とても「らしいな」と思いました。

雄貴 フックという考え方を持ち込んだのは仁司なんです。「1曲に最低3つはフックを入れる」だっけ?

佐孝 そうだね。

「"broken tower tour" 2015」最終公演の様子。

雄貴 曲の中に「ここが好き」って感じられる部分があるのが大事だということで。ただそれって人それぞれじゃないですか。実は自分はAメロに入るときの「ツー、ツー、ダダダンッ!」っていうドラムはシンプル過ぎると思ったんですけど(笑)、今「フックになっている」と言ってもらえたり。だからフックってミュージシャンにとっての挑戦だと思うんです。メンバー全員でフックを作るのは最近一番エキサイトする瞬間だったりもしますね。

──仁司さんが考えるフックはどこですか?

佐孝 まず最初に言ってもらった、冒頭でガーッとギターが鳴ってからのミュート。あそこはPro Toolsでいじるんじゃなくて、実際に3人で演奏を止めていて。バンドサウンドで起伏を作ろうと思っていたところですね。

雄貴 Aメロのシンセは? あそこだけちょっとインディーロックっぽい(笑)。

佐孝 そうだ。メロディのカウンターになってる部分。ほかには、ベースがメロディとハモってる部分とか。あとはリスナーの人たちに俺らが考えてもいないようなところにフックを感じてもらえたらいいな、と。

──すごいキメで終わっちゃうエンディングもそうですよね?

雄貴 そこも確かにそうですね。あと、そのとき作っている曲とはまったく無関係なジャンルの音楽を引用するとそれがフックになることもあって、そういうのがすごく楽しい。そういえばPOP ETCのクリス(クリストファー・チュウ)が「ALARMS」と「See More Glass」をプロデュースしてくれたとき「ここはフックになってるから残そう」ってよく言っていたんです。その頃の俺らはむしろフックを消す方向、なだらかな感じにしようと思ってたんだけど……。

──フレーズのループを大切にしている感じがしていました。

雄貴 でもクリスは「フック、フック」って言ってて。それは自分たちにとってもすごく大きな経験でした。

北海道と東京、物理的な距離がもたらしたもの

──フックの話もそうですが、今は3人の個性がより明確になって、それぞれ得意な分野で力を発揮しているように感じます。

雄貴 それはあると思います。仁司はレイドバックするタイプで、和樹は突っ込むタイプだから同じ楽器を弾いても違うものになるし。例えば3人とも鍵盤が弾けるんで「サビのシンセベース、誰が弾く?」みたいな話になったとき、これまでならそれぞれのノリの違いは抑えていたんですけど、最近はみんな、それぞれ好きな音楽の影響や違いを出すようになってきてて。一時期3人で長く制作をし続けたこともあって、曲がどんなものになるのかあらかじめ予想できてしまってたんですよ。「たぶん仁司はこういうベースを乗っけるよな」「雄貴はこういうメロディだよな」って。そうしてできあがったものがまったくフレッシュに感じられなくて、ボツ曲がどんどん増えるようになって……。そこから脱却できたのはそれぞれの違いを明確にできるようになってきたおかげかな、と思います。

──なぜ考え方や趣味の違いが明確に?

佐孝 自分の場合は、1人だけ東京に引っ越してきて、2人と離れたというのが大きかったと思いますね。自分も北海道にいた頃は情報や感覚の共有がすごく早かったんですよ。「夜に見付けたものを、次の日の朝にはメンバーに言う」みたいな感じで(笑)。それも大事なんだけど、共有が早過ぎて、誰かが何かを探しても、それをみんなが知ってる、ある意味“狭い”環境になってて。でも今はいい曲を見付けても、いちいち全部伝えるわけにもいかないじゃないですか。そうすると「なんでいいと思ったか」を1人で考えるんですよね。最近になって、初めてその時間ができたというか。

雄貴 これ、本来はごくごく普通のことだと思うんですけど(笑)。でも俺らの場合、小学校からずっと一緒で、音楽を聴き始めたタイミングも、邦楽から洋楽に興味が移っていったタイミングも……ほんとにずっと一緒だったんです。

──それがここにきて、別のインプットを見付ける余地ができた、と。「クライマー」のサウンドにも、その環境が影響を与えた部分はあるんでしょうか?

尾崎和樹(Dr)

佐孝 それこそ「アイドルロック風で」みたいな話は、雄貴と和樹が言っていたことなんです。僕も好きではあるけど、2人とは好きのベクトルがちょっと違ってて(笑)。だからもし近くに住んでたら「アイドルロック」って言い出した瞬間「いや、この方向性はちょっと……」って言っただろうし、2人も遠慮したかもしれないし。

和樹 確かに。誰かがストップをかけてたかもしれないですね。言葉に出さなくても乗り気じゃないのがわかるし。でも今はメンバーの顔が見えない状態である程度まで1人で作業を進められるのが、逆にいいと思っているんです。

──それぞれが1回詰めてきたものを、もう一度みんなで詰められるということですね。

雄貴 ある程度できあがった段階で文句があるなら「じゃあ別の方向に持っていけるようなベース弾けよ」って言い合えるというか。だから最近は曲の制作が途中で止まることも少なくなってきているんですよ。「クライマー」とかも、本当にスポーン!ってできた感じだったし。

ニューシングル「クライマー」2015年12月9日発売 / SME Records
期間限定通常盤 [CD] 1400円 / SECL-1822
通常盤 [CD] 1300円 / SECL-1821
収録曲
  1. クライマー
  2. ボニーとクライド
  3. She
  4. クライマー(TV Ver.)(期間生産限定盤のみ収録)
Galileo Galilei(ガリレオガリレイ)
「"broken tower tour" 2015」最終公演の様子。

尾崎雄貴(Vo, G)、佐孝仁司(B)、尾崎和樹(Dr)を中心に2007年に北海道・稚内にて結成。2010年2月にミニアルバム「ハマナスの花」でメジャーデビューを果たす。その後「青い栞」「サークルゲーム」などでヒットを記録し、2013年10月にはPOP ETCのクリストファー・チュウをプロデューサーに迎えて制作された最新アルバム「ALARMS」を発表。邦楽ファンのみならず洋楽ファンからも支持を集める。2014年2月には東京・渋谷公会堂での初ホールワンマンを行い成功を収めた。同年10月にはクリストファー・チュウプロデュースのミニアルバム「See More Glass」を発表。2015年には3月に「恋の寿命」、6月に「嵐のあとで」という2枚のシングルを立て続けに発売し、10~11月にはPOP ETCも参加したツアー「"broken tower tour" 2015」を実施した。そして12月、表題曲がアニメ「ハイキュー!! セカンドシーズン」のエンディングテーマに採用されているシングル「クライマー」をリリースする。また2016年春にはキャリア最大級の全国ツアーの開催も決定している。