fuzzy knot「BLACK SWAN」インタビュー|闇と向き合い、ダークサイドを全面開花

シドのShinji(G)とRayflowerの田澤孝介(Vo)によるロックユニット・fuzzy knotが1stミニアルバム「BLACK SWAN」をリリースした。

2021年4月のデビュー以来ポップな曲調の作品を世に送り出していた彼らだが、「BLACK SWAN」の制作において掲げられたテーマは従来のイメージを覆す「ダーク」。ビジュアルも退廃的なムードが漂うものに一新し、ユニットとして新たな扉を開いている。

地獄を意味する「Inferno」と名付けられた楽曲をも含む「BLACK SWAN」はどのように作られたのか。Shinjiと田澤に収録曲の解説を交えながら語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡

Shinjiのイラストから広がっていった「BLACK SWAN」

──1stミニアルバム「BLACK SWAN」は楽曲もそうですし、アーティスト写真もこれまでの雰囲気とはガラッと変わって驚きました。

Shinji(G) ハハハ。ライブハウスの楽屋で「次の作品はダークな曲調でそろえたいな」ってポロッと言ったところから構想が始まったんです。で、今作の5曲を作る中でリード曲の「Inferno」という、昔のヴィジュアル系っぽいドロドロ感のある曲ができて。みんなで話し合った結果「どうせなら、見た目も思い切りやろう」という話になりました。

fuzzy knot

fuzzy knot

──今回は曲を作る前に、自らイメージイラストを描いて楽曲のヒントにされたんですよね。

Shinji そうです。自分からダークにしようと言っておいて途中で曲が不作になり、ダーク縛りがキツくなってきちゃって。そんな苦しい中、絵を見ながら曲作りをしたいなと思ったんですよね。

──制作においてイラストから手をつけるのは、Shinjiさんの中では初めて?

Shinji そうですね。でも、絵を描くのはもともと好きだったんですよ。個人でやっているオンラインサロンで、ファンの方に絵をプレゼントするコーナーもあるし、もう1回ちゃんと描いてみようと思っていたんですよね。それで、最近コピックとか鉛筆を買って練習していたのもあって、今回の制作方法を思いつきました。

──「Inferno」を作るにあたって「90年代のヴィジュアル系バンドのパンチ力」というのをテーマにされたとのことですが、以前からそういう音楽を聴いていたんですか?

Shinji 実はあんまり聴いたことないんですよ(笑)。

田澤孝介(Vo) そうなんや(笑)。

Shinji あの時代のV系の人たちは口紅をして、髪が長くて、ドレスっぽい衣装を着て……そんなアー写をライブハウスでよく見ていたなと思って。実際にそういう人たちのライブを観に行ったこともないし、音源もあまり聴いたことがないんですけど、「こういう曲をやってそうだな」と自分の中でイメージを膨らませました。

──田澤さんは90年代のV系バンドと聞いて、どんなイメージをお持ちですか?

田澤 なんですかね? 僕もあんまり通ってなくて。音楽のジャンルではなく、表面的に捉えているかもしれないです。いわゆる自分たちのビジュアルを使っていろんなものを表現してる人たち、みたいなイメージですね。サウンドで言うと多種多様というか、ポップな方向性の人たちもいれば、すごく重たいラウドなサウンドの人たちもいるし。とにかく、今回僕らがああいうビジュアルになったのは、表現の一環として「振り切ったところへ行こうぜ」というのが根本にありました。

誰もが地獄を抱えて生きてる

──振り切るでいうと、「Inferno」はイントロからもう(笑)。

田澤 アハハハ、でしょ? 初めて聴いたときは、ちょっとわろてもうたもん。

Shinji これまでのfuzzy knotを聴いていたら「嘘でしょ!?」と思うよね(笑)。

田澤 ここまでできるのって、逆にカッコいいと思うんですよ。あのサウンドのイントロを持ってくるバンドって、あんまりおらんのちゃうかなって(笑)。いろいろやってきて、今そこに行く!?みたいな。

──しかも、ストリーミングの普及によって、ここ数年は曲をスキップされないために、どれだけ早く歌に行くかが重要視されているじゃないですか。そんな中「Inferno」を聴いて、改めてイントロの重要性を感じました。

田澤 そうそう、それ! イントロもそうやし、近頃話題になったギターソロいらないんじゃないか問題もありますけど、僕は表現としてサビ始まりがその曲にとって一番いいんだったら、それでOKなんですよ。だけど、そうしないと聴いてもらえないからサビ始まりの曲を作る、という考えは物作りの姿勢としてはダサすぎる。やっぱり頭からケツまで意味があるわけじゃないですか。

Shinji そうだね。「BLACK SWAN」を作るにあたって、若いマネージャーから「歌始まりの曲が欲しいですね」というリクエストはあったんです。田澤さんが言ったように歌始まりでダークな世界観へ導かれるならそれでもいいけど、今回はそういった曲調を作る気にならなかったですね。

Shinji(G)

Shinji(G)

──この曲はイントロだけじゃなくて、鍵盤楽器のハープシコードを使っているのもポイントですよね。

Shinji 作曲のスケジュールに追われているときって、移動中でも無意識に曲作りをしちゃうんですよ。ある日、現場へ向かうために車を運転していたら、なぜかハープシコードが頭の中で鳴って。その瞬間に、今この楽器を取り入れる人はあまりいないし、面白いぞと閃いたんです。

──ハープシコードの魅力ってなんでしょう?

Shinji メジャーコードで弾くとレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」じゃないですけど、中世時代の画が見えてくる。だけどマイナーキーで弾くと、ドラキュラを想起させるような、独特の不気味な音色になるのが面白いなと思いました。

──田澤さんは「Inferno」の作詞において、何を意識しましたか?

田澤 曲を聴いて自分の中に「地獄」というワードが出てきたんですよ。だけど、そこからどうしようかと迷って。

──なかなか使わない言葉ですしね。

田澤 fuzzy knotでは曲を聴いて浮かんできたイメージを歌詞にしてきたから、地獄って浮かんだのならやっぱり今回は地獄(「Inferno」)の曲を書こうと。それを歌詞でどのように描くのか考えるのは楽しかったですね。

──「Inferno」はラストの5曲目に収録されていますよね。ミニアルバムを1曲目から聴いていったときに、ほかの4曲で描いた曲中の主人公たちのダークな物語を「Inferno」で踏襲していると思ったんですよ。

田澤 僕が描きたかった地獄というのは、いわゆる閻魔様がいて、血の池があるような地獄じゃなくて。まさに、今生きている世の中そのものというか。いろんな状況や環境の中で、それぞれが何かしらの地獄を抱えて生きてるじゃないですか。しかも生きている以上、それは終わらない。それでも光を見て進んでいかねばという、言わば「Inferno」は決意の歌なんですね。収録曲の順番が最後になったのは、正直そこまで意図していなかったんです。だけど、これは最後だよねと当たり前の流れになったのは、きっと導かれたのかなって、今のお話を聞いて思いました。うん……ミニアルバムを総括してるかも。僕、最初に歌詞を書き出すときに「今作では5パターンの人間を歌おう」と思ったんです。だから楽曲の主人公それぞれが抱えている負というのが、それぞれの“Inferno”になってる。

──しかも、今回のダークさを記号的な意味で使っているわけじゃなくて、田澤さんがおっしゃったように現代人が抱えている闇に置き換えている。

田澤 まさにそう聴いてほしいと思いました。

自分の闇を書くしかなかった

──「遠隔Reviver」なんて、もろ身近な事象じゃないですか。

田澤 ハハハ。あるあるでしょ?

──SNSに流れてくる「人生を謳歌してます」みたいな投稿を見て、自分との落差に落ち込むけど、それは表面上の話で。写真に映っていない苦悩や苦しさをみんな抱えているんだ、という歌ですよね。

田澤 今回は歌詞を書くうえで、自分の心の中に潜っていった感じがします。「人の闇を書くぞ」と思って歌詞を書くほど僕は偉くないんで。自分の闇を書くしかなかったから、作業としては危険だったかも。とにかく自分の闇や嫌なところと対面しました。なんかね、大人になってきて経験を積んで、見て見ぬふりをするのが上手になってきたんです。そんな中、俺の嫌なところを見るのかっていう。

田澤孝介(Vo)

田澤孝介(Vo)

──まさに今、田澤さんが直面している闇を表現した。

田澤 そうなんです。そういう意味では美しすぎる流れというか。自分を高めたいと思っていた矢先だったので、作業としてはちょうどよかったのかも。

──そして「遠隔Reviver」はメロの強いリフが印象的でした。

Shinji まさにリフから浮かんだ曲なんですよ。昔のリフ押しの曲って、そこまでメロが入ってこない曲が多い。ただ、僕は日本的な音楽のほうが好きだったりするので、カッコいいリフの中にちゃんとメロがある曲を目指して作りました。

──特徴的なリフで言うと、「Hello, Mr. Lazy」もそうですよね。

Shinji 普段はあまりインストの曲は聴かないんですけど、たまたま楽器屋さんに入り浸っていたときに流れていた曲がすごくカッコよくて。「これなんですか?」と聞いて、店長さんに教えてもらったインストのCDを何枚か買って、一時期それをジョギングしてるときとかにひたすら聴いていたんです。その頃にできた曲ですね。

──2番終わりの間奏では、管楽器っぽいものや特殊な音を入れていますね。

Shinji 宇宙とか幻想的な音源を流しつつ、半音転調をしたり、いろいろとしてますね。なんかね、これほど転調したあとに今度は半音戻るとか、作曲のセオリーとしてあり得るの?みたいな感じかもしれないけど、音楽にはやっちゃいけない転調はないと思うんです。カッコよければいいじゃん、っていう意識で作りました。

──「Hello, Mr. Lazy」の歌詞は「自信が持てなくてあきらめていたら、いつまで経ってもお前は変わらねえよ」と言われてる気がして。胸ぐらをつかまれた気分になったんですよ。

田澤 マジっすか! この曲に対してそう感じるということは、僕と同じ状況なのかもしれないですね(笑)。その話を聞いて今、ちょっと新しい発見がありました。邪念で理解者を得ようとして歌詞を書くよりも、己と向かい合って出したものの方が人に響くんだなって。

──1対1で向かい合って歌われている感覚になりました。

田澤 確かに1対1を意識しました。それこそあきらめる理由を探すのが上手な自分とか、とにかくやらなあかんなと思って怠けている自分とか。そのくせ理想は描いていたり、他人のことをうらやましいと思っていたり。そういう自分と向かい合って「なんやねん、お前は」と。思いの丈を自分に対してぶつけてみたので、おそらく皆さんの中にいる「Hello, Mr. Lazy」が痛い痛いって言うんじゃないですか。