ファンキー加藤|「頑張れ、みんな!」覚悟を決めた男の魂の叫び

ファンキー加藤が嫌いな人にも観てほしいMV

──リード曲の「終われない歌」はミュージックビデオも制作されましたが、とても挑戦的な映像ですね。加藤さんがひたすら罰ゲームを受けながら歌っている姿が、ワンカットで収められていて。

スタッフさんの間では「ドラマ仕立てとか、既存の方向性でいこうよ」みたいな声もあって、意見が分かれたんですよ。でも俺はちょっと攻めてみたくて。

──これ、そもそもどなたのアイデアなんですか?

うちのマネージャーです。ストレス溜まってるんですかね(笑)。

──あははは(笑)。拝見していて、途中で「これ、オチどうするんだろ」と心配になったんですよ。「パイとかかな? でもパイだとちょっと弱いかもな」って。そしたらプロレスラーが吹く毒霧でしたね。

彼は知り合いなんですけど、普段は毒霧を吹かないんですよ。でも「僕のキャラとかどうでもいいんで、やりますよ!」と言ってくれて。

──最後の加藤さんの姿は、とてもミュージシャンには見えません。

わっはっはっは!(笑) あの無残な姿は、ファンキー加藤が嫌いな人にこそ観てほしい(笑)。

──ああ、それで溜飲を下げてもらって(笑)。

これがどういう広がり方をしていくのか、楽しみですよ。「終われない歌」には“ロックスターにはなれないけども、歩みを止める選択肢は俺の中にはない”っていうテーマが込められているので、それをうまく映像でも表現できたなと。面白いMVだとは思うんですけど、ちゃんと芯の部分を読み取る人もいてほしい。うちのファンのみんなならわかってくれそうですけどね。

いつでも爆竹に着火できる

──「希望のWooh」「今だけを信じて」「終われない歌」と続いて、序盤は「もう間違いなくファンキー加藤だ」と言えるようなアルバムですけど、その先を聴いていくと、どんどん様子がおかしくなっていきます。

ファンキー加藤

ははは(笑)。それは昔からの悪いクセというか、やらないとファンの方も「なんだお前、丸くなったんじゃねえのか」と怒るんですよ。いいものをしっかり作りつつも、ちゃんと裏で爆竹をセットして「いつでも着火できるぜ」くらいの気持ちは常にありますね。

──まず引っかかったのが「DIVE」なんですけど、ちょっとアニソンっぽい雰囲気もありつつ、サビのメロディと言葉のリズム感が気持ちよくて。ある種ヒップホップ的なバックグラウンドをしっかり感じられる曲でもあるなって。

メロディにクセがあったんで、ハメる言葉にすごく苦労したんですよね。アルバムとしては「終われない歌」がリード曲になったわけですが、実は最後まで「DIVE」とどっちにしようか争ったんです。最終的には歌詞の内容で「終われない歌」に決まったんですけど、何人かのスタッフさんや隼人はこの「DIVE」を推してましたね。俺も最後まですごく悩んだし。

──なるほど。ただ歌詞のことを言うなら、個人的に「DIVE」にはすごくびっくりしたフレーズがあって。Dメロで「頑張れ、みんな!」と歌ってますよね。いくら応援ソングとはいえ、こんなミもフタもない歌詞あります?(笑)

だっはっはっは!(笑) バレました? レコーディング当日まで、この部分の歌詞だけ決まってなかったんですよ。なんならAメロとか録り始めてたんですけど、どうしても言葉がハマらなくて。最終的にはけっこう、やけくそでしたね(笑)。

──じゃあ、アドリブに近い?

アドリブでした。歌詞が決まらないまま「何も考えず、メロディに対して叫ぶわ」ってスタッフさんに話して、ブースに入ったんですよ。そしたら「頑張れ、みんな!」が口をついて出てきた(笑)。みんな手を叩いて大笑いしてたんで「まあこれでいいか」って。最初はね、ここに英語を入れてみたんです。でも隼人から「いきなり英語は逃げてない?」みたいに言われて。「もっと芯食ったほうがいいよ」と。

──芯を食いすぎです(笑)。これ、あらゆるソングライターが「その手があったか!」って悔しがると思いますよ。コロンブスの卵じゃないですけど。

わははは。これは本当にもう、最後の最後に出ちゃった魂の叫びですね。

J-POP界で韻といえばファンキー加藤

──「八王子キッド」は、タイトル通りビートたけしさんの楽曲「浅草キッド」のオマージュですよね。

そうっすね。数年前、グレート義太夫さんがギターを弾いて、たけしさんがポケットに手を突っ込んで照れくさそうに「浅草キッド」を歌う映像を観たんですよ。それにすごく胸を打たれたんです。で、俺の作った曲には高校時代のことを歌ったものはあっても、デビュー前とか20代前半頃の出来事を歌った曲はなかったなと思って。

──それでファンモン結成前の日々を歌ったと。韻も踏み放題で。

最近のアルバムではちょっと韻を控えてたところもあったんですけど、今作は少し多めになってますね。

──それは何かきっかけがあったんですか?

去年の大晦日にCreepy Nutsとラジオで共演させてもらったんですけど、R-指定くんがファンモンの初期曲の韻をすごく褒めてくれたんですよ。当時は誰も触れてくれなかったのに(笑)。あとは年末にLITTLEくん(KICK THE CAN CREW)とごはんを食べたときに韻の話で盛り上がったりもして、再び踏みたくなってきたんです。

ファンキー加藤

──J-POPシーンのド真ん中にハイレベルな韻を持ち込める人はなかなかいないと思うので、個人的に加藤さんには遠慮せず、どんどんやってほしい思いはあります。

今のヒップホップシーン、例えば「フリースタイルダンジョン」を観てると、韻の踏み方がえげつないんですよね。だけど「J-POPフィールドの中で韻といえばファンキー加藤」というところは譲りたくないなって。曲作りではいつも、最初に韻を考えるんですよ。で、ハマったら採用、ハマらなければそこまでこだわらないっていうやり方をしていて。今はもう少し韻に重きを置いているかな。

──例えばカラオケで歌われるような代表曲に韻を忍ばせていけば、それを歌うリスナーの韻に対する意識も、自然と鋭くなりそうな期待もあったりするんですけど。

俺がいろんなところでうれしそうに韻の話をするもんだから、最近は「これからはちゃんと語尾に気をつけて聴いてみます!」とか言ってくれるファンの方も出てきて(笑)。そういう意識改革みたいなものが少しずつ始まっているのかなって感じてます。ただ、何度言ってもポカーンな人はポカーンですけどね。うちのマネージャーなんか「こことここで踏んでて、1個飛ばしてここでも踏んでるんだよ」みたいに細かく説明しても、「はあ……で?」みたいな反応で(笑)。

──一番手ごわいお客さんがすぐ近くにいるんですね(笑)。

まあでも、そういう人もいるよなって(笑)。