ナタリー PowerPush - FUNKIST

暗中模索を経て完成 希望を歌う「7人の」アルバム

FUNKISTのニューアルバム「7」がついにリリースされた。前作「FUNKIST CUP」からの約2年間、日本では東日本大震災が起き、バンドにとってはメンバーのフルート奏者、春日井陽子が急逝するという大きな出来事があった。さらには音楽的に迷い、行き詰まる瞬間もあったという。だが、彼らはその悲しみや困難を乗り越え、輝かしい希望に満ちあふれた作品を作り上げた。

今回ナタリーではボーカルの染谷西郷にインタビューを行い、“7人”の意志と強い絆が込められた本作について話を訊いた。

取材・文 / もりひでゆき インタビュー撮影 / 笹森健一

この2年間、自分たちの殻を破れない時期が続いた

──全15曲のボリュームで届けられたニューアルバム。その仕上がりへの感想からまず訊かせてください。

インタビュー風景

すごく僕ららしい作品ができたという思いがあります。実を言うと、前作「FUNKIST CUP」からの2年間、自分たちの殻を破れない時期が長くあったんですよ。その間、「Pieceful」というミニアルバムを作ったんですけど、それも過去の自分たちの作品を超えられてるんだろうかっていう葛藤の中での作業だったし。自分たちが納得できる自分たちらしい作品を作ることへのハードルが年々高くなっていたんですよね。

──そんな時期があったんですか。

「FUNKIST CUP」は自分たちの中にあるものを全て使い切って作ったアルバムだったので、その後の作品はインプットをしっかりしないとアイデアの使い回しでしかないというか、新しいものは生まれないですからね。だから、まったく違ったものを生み出すところまで成長しなきゃいけないという暗中模索の状態になっていて。

──その状況を打破するためにメンバー間で話し合いを行ったりは?

僕らって音楽が行き詰まると、メンバー間の人間関係にもそのまま出ちゃうんです。だからなかなかメンバーの気持ちも揃わなかった。みんなそれぞれ自分の中での闘いに必死でスタジオの空気も殺伐として、うまくぶつかりあうこともできなかったんです。

ニューアルバムが教えてくれた「FUNKISTらしさ」

──でも今回のアルバムでその状態からは抜け出せたわけですよね。その理由は?

まずひとつは、今まではずっと松岡モトキさんにプロデュースをお願いしてたんですけど、新しい勉強という意味で先にリリースした「1/6900000000」を森俊之さんに、シングルの「SHINE」を西川進さんにお願いしてみたことだと思います。そこでミュージシャンとしての成長を実感できて、これなら7人のFUNKISTとして音を作り切れるなという自信を持てたので、残りのアルバム曲ではまた改めて僕らを一番理解してくれている松岡さんにプロデュースをお願いすることができたんですよね。

──なるほど。

あとはやっぱりメンバー1人ひとりがその2年間で貪欲にスキルアップしてきたこともありますし、陽子ちゃんのことがあってバンドというものについてみんながものすごく考えたのも大きかったと思います。同じ時代に生まれて一緒に音楽をやるという奇跡的なことを改めて感じながら、陽子ちゃんの思いも持ってこれから歩いていこうっていうことをメンバーみんなが同時に思えたから。

──メンバーそれぞれの気持ちの足並みが揃い、まさに一丸となったことで殻をぶち破ることができたと。

そうだと思います。そこでやっとみんなの中にアイデアがあふれまくる状態にもなったし、だからこそ思い切りぶつかりあうこともできたんですよね。「もっといいリフ出てくるんじゃない?」とか「もっとこういう歌のアプローチができるんじゃない?」とかね。まったく枯れてる感じがなかったですから楽しかったですよ。で、結果的にこれがベスト盤だって言える、FUNKISTらしいものができたっていう。

──今の皆さんが思う「FUNKISTらしさ」って、どういうものなんでしょうか?

今回は東日本大震災前に作った曲、震災後に作った曲、陽子ちゃんのことがあってから作った曲と、できた時期もさまざまだし、本当にいろんなことがあった中で生まれた曲ばかりで。で、そういう曲たちを陽子ちゃんとお別れしてから2~3カ月後にデモ音源として並べて聴いてみたときに、僕ら自身がものすごく励まされて、ものすごく応援された気がしたんですよ。そのときに、「ああ、僕らはジャンルっていうものは取っ払って音楽を作っているけど、一貫して同じことを伝え続けてこれているんだな」と思ったんです。そのときの僕らのように傷ついたり心が弱ってしまっている人に対して、絶対に届くであろうメッセージを僕らはちゃんと投げかけられているんだなって。

──それが「FUNKISTらしさ」だと。

そうですね、うん。それを今回のアルバムが改めて教えてくれました。

ニューアルバム「7」 / 2012年4月11日発売 / 2800円(税込) / ポニーキャニオン / PCCA-03574

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CD収録曲
  1. CRAQUE
  2. SHINE
  3. Dance in the world
  4. ROOTS
  5. Hello
  6. 絆 (Album Version)
  7. 7
  8. ZAN
  9. ALL TOGETHER
  10. 6才のうた
  11. 秘密戦隊FUNKIST7のテーマ
  12. Whose life is this
  13. 1/6900000000
  14. Waiting for your call
  15. NEW DAYS
FUNKIST(ふぁんきすと)

染谷西郷(Vo)、宮田泰治(G)、ヨシロウ(G)、JOTARO(B)、オガチ(Per)、春日井陽子(Fl)、住職(Dr)による7人組バンド。2001年結成以来、年間100本を越えるライブで、多くのファンの心を掴んできた。インディーズではアルバムを3枚、シングルを4枚のほか、染谷の母親の故郷である南アフリカでのツアードキュメンタリーDVDをリリース。2008年7月にシングル「my girl」でメジャーデビューを果たした。2009年2月にはメジャー1stアルバム「SUNRISE 7」を発売。同年4月には2度目となる南アフリカツアーも実施された。しかし、7月から春日井が体調不良のためバンド活動から離脱。その後は6人で活動を続けてきたが、2011年10月に春日井が逝去。バンドはそのまま残された6人でバンド活動を継続している。2012年2月に、春日井もレコーディングに参加した7人で最後のシングル「SHINE」を発表。3月には乙武洋匡との東日本復興支援コラボシングル「絆」、4月には春日井が残したテイクも使用したニューアルバム「7」を立て続けにリリースした。