昔の自分だったらカバーアルバムを出すなんて絶対言わなかった
──レコーディングに関してはいかがでしたか? 今回は他者が書いた曲を歌うボーカリストに徹したわけですが。
レコーディングはすごく新鮮でした。いつも以上に、歌詞を伝えるための歌い方をすごく意識した気がします。人様の歌を歌うわけだから失礼があっちゃいけないみたいな気持ちもあったので、ホントに丁寧に1曲1曲向き合いましたね。例えばディレクターに「もうちょっと暗めのトーンで」って言われたら、ガラッと歌い方を変えてみたりもしたんですよ。自分の曲のときはあまりそういうことをしないんですけど、今回に関してはある意味、自分じゃなくなることさえも嫌じゃなかったと言うか。「私ってこんなにこだわりなかったっけ?」って自分で思っちゃうくらい(笑)、めちゃくちゃオープンな感情で臨めたレコーディングでしたね。
──どの曲も藤田さんの色で染め上げられていますが、同時に今まで見えていなかった表情も確実に感じることができますよね。
これまでの活動の中で自分の歌の形が決まりすぎてたところがあったのかなって今は思うんですよね。それは壊したくない、崩したくない大事な世界観でもあったけど、一方にはそれでがんじがらめになってる自分もいたのかなって。だからこそ、ほかの方が作った曲に身を任せることで自分のポテンシャルを判断したかった、自分の歌の可能性を開いてほしかったのかもしれないです。そう思えるようになったのもデビューから10年以上経ったことで安心感が生まれたからなのかも。安心しないと次に進めないタイプなので(笑)。
──前作「思い続ければ」のリリース時におっしゃっていたように、藤田麻衣子としての第2章が始まったからこそできたトライだったのかもしれない(参照:藤田麻衣子「思い続ければ」インタビュー|思い続けた先に見えた第2章)。
そうだと思います。まだ出会ったことのない自分に出会ってみたかった。そういう気持ちが大きかったんでしょうね。
──ストレートに聞きますが、今回のカバーアルバムで新しい自分に出会えました?
出会えたと思います! レコーディングのスケジュール的にはキツキツではあったけど、日々、新しい自分と新しい歌声に出会えた期間でしたね。
──これまでの藤田さんは、“シンガー”よりも“ソングライター”としての比重のほうが大きかったのかなとも思うんですけど、そのあたりご自身ではどう感じてます?
いや、ホントにその通りだと思います。ピラティスで体を鍛えてはいますけど、デビューしてからボイトレのレッスンも受けたことがないですからね。正直、必要性を感じてなかったと言うか。極端な話、自分なりの歌が歌えて、気持ちが伝われば別にうまく歌う必要もないかなって思ってたくらいなので。私の中ではいい曲を書くこと、そしてそれ以上にいい歌詞を書くことこそがすべてみたいな感じだったんですよね。
──そういう思考になったのには何か理由があったんですかね?
だいぶ昔、インディーズ時代の話なんですけど、たまたま出会ったレコード会社の方に自分の曲を聴いていただく機会があって。そのときは圧倒的に歌声の評価だけ高かったんですよ。「歌詞と曲はまだまだだけど、声だけは使えるね」みたいな。それがホントに悔しかったんですよね。歌を褒められたのであればそこをもっと伸ばして、提供していただいた曲を歌っていくっていう選択肢もあったとは思うんです。でも私はひねくれ者なので(笑)、「歌詞と曲がいいって言われる人になりたい!」って思っちゃったんですよね。
──だから“ソングライター”の部分を必死に磨き続けてきたと。
そうなんです。だからね、昔の自分だったらカバーアルバムを出すなんて絶対言わなかったと思うんですよ。周りのスタッフも絶対勧めてくることはなかったと思うし。「嫌!」って言うに決まってるから(笑)。
──でも今はアーティストとしての柔軟さを手に入れたわけで。いい変化ですよね。
ね。自分でもビックリしてます。人って変わるもんだなと思って(笑)。
羽毛田さんのピアノで歌えて幸せでした
──藤田さんの狙い通り、羽毛田さんによる各曲のアレンジも素晴らしいですね。
最初は「ピアノと歌だけでいいです」みたいなお願いをしていたんですけど、「さすがに全部がそれだとちょっと」っていうことになって(笑)。なので基本的に楽器の音は少なめでっていう方向性のもと、おまかせして作っていただいた感じでした。「PIECE OF MY WISH」と「会いたい」はピアノと歌だけで、「せーの」で録りました。この2曲は自分の弾き語りでも何度かやったことがあるんですけど、今回大好きな羽毛田さんのピアノで歌ってみたらもう全然違った感覚を味わうことができて。「同じ歌詞とメロディなのにこうも違って聴こえるんだ!」って。幸せでしたねえ。
──アルバムの中でいいアクセントになっていると感じたのは「サウダージ」でした。
早口が苦手だから最初はどうなるんだろうって思ってたんですけど、私が歌えるギリギリのテンポに落としてくださったので大丈夫でした。アレンジもすごくカッコいいので気持ちよく歌えましたね。アウトロにスキャットが入っているんですけど、あれは私にとって初めての試みです。ちなみに間奏で違うパターンのスキャットをやったら、そこはばっさりカットされましたけど(笑)。
──「シングル・アゲイン」はアレンジも歌もかなりアダルトな雰囲気ですよね。
私のオリジナル曲では今後も絶対にないであろうアダルトな雰囲気ですよね(笑)。ちょっとけだるく歌う感じが自分でもすごく新鮮で。この曲のAメロはキーがめちゃくちゃ低いから大変かなと思いきや、案外さらさらっと歌えたんですよ。それがちょっと不思議でしたね。今までは高音勝負みたいな感じでやってきたけど、今回のカバーアルバムでは低音や中音域の気持ちよさを感じられました。それは初めての体験だったと思います。
──今回の経験は今後、ご自身のオリジナル曲にも何らかの影響をもたらすことになるんでしょうね。
うん。今はまだ制作モードじゃないから具体的にはわからないけど、いざ曲を書くっていう時期になればきっといろんな影響がバッと出て、それが曲に落とし込まれるんじゃないかなとは思ってますね。それがすごく楽しみです!
みんなで思う存分ときめきを共有したい
──そして本作にはご自身の楽曲「手紙~愛するあなたへ~」のセルフカバーも収録されています。
最初にレコーディングしてから5年くらい経っているんですけど、この曲には感謝の気持ちがすごく大きいんですよ。親へのストレートな気持ちを書けたこともそうですし、あとは「結婚式でこの曲を聴いたよ」って言ってくださる方が多いこともすごくうれしくって。新たなつながりを生んでくれた曲でもあるんですよね。だから自分で代表曲を1つ選ぶならこれなのかなって思ったし、これからもよりいっそう丁寧に歌っていきたいなと思うので今回のアルバムに入れることにしました。
──5年ぶりに改めてレコーディングしてみてどうでしたか?
歌い方が変わったかどうかはわからないけど、5年分の思いを込めて歌うことができたような気はしますね。前はただ一生懸命に歌うだけだったから。面白かったのは、この曲はやっぱり“シンガー”としてじゃなく歌ってるんですよね。
──それはご自身で作詞作曲したものだからですか。
そうそう。カバーを歌うのとは向き合い方がまったく違うんです。この曲を入れたことで、その違いがはっきり見えたのは面白くてよかったなって思いますね。あとは単純に羽毛田さんのアレンジを聴けたのも、リスナーみたいな感覚でうれしかったです(笑)。
──来年5月25日には、本作と同じ“惚れ歌”と題した2度目のオーケストラコンサートの開催も決定しました。
去年やった初めてのオーケストラコンサートは、私が二十歳の頃から公言してきた夢が叶う瞬間を皆さんに見てもらう意味合いが強かったと思うんです。それを経ての今回の2度目は、胸を張っていいコンサートをお届けしたいなって思ってますね。手探りではなく、落ち着いて臨める気がしていると言うか。
──内容的にはカバー曲が中心になりそうですかね。
はい。羽毛田さんとカバーアルバムを作り、それを持ってオーケストラコンサートをしたいという最初のビジョンがあったわけですからね。とは言え、カバーだけじゃ曲数が足りないから、自分のオリジナル曲と半々くらいになるかなあとは思うんですけど。
──本作の曲たちがオーケストラアレンジになればまた聞こえ方が変わりそうですし、それにともなって藤田さんの歌の表情も変化しそうですよね。
小さな声でつぶやいてたら、オーケストラの音に負けて聞こえなさそうですもんね(笑)。今からどんなアレンジになるかすごく楽しみです。アレンジが上がってくればきっと私の気持ちはわーっとときめくと思うんですよ。で、そうなればきっと会場に来てくれるお客さんも絶対ときめいてくれるはず。当日はみんなで思う存分ときめきを共有したいですね。
- 藤田麻衣子「惚れ歌」
- 2018年9月19日発売 / Victor Entertainment
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3996円 / VIZL-1392 -
通常盤 [CD]
2916円 / VICL-65020
- CD収録曲 / オリジナルアーティスト
-
- SAY YES / CHAGE and ASKA
- もう恋なんてしない / 槇原敬之
- PIECE OF MY WISH / 今井美樹
- 揺れる想い / ZARD
- 部屋とYシャツと私 / 平松愛理
- One more time, One more chance / 山崎まさよし
- サウダージ / ポルノグラフィティ
- 会いたい / 沢田知可子
- シングル・アゲイン / 竹内まりや
- 雪の華 / 中島美嘉
- 手紙~愛するあなたへ~(セルフカバー)
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- もう恋なんてしない(Music Video)
- 揺れる想い(Music Video)
- 会いたい(LIVE 2018.4.10 @ 東京国際フォーラム ホールC)
- Let It Go ~ありのままで~(1人で20人アカペラ)
- ライブ情報
藤田麻衣子オーケストラコンサート2019~惚れ歌~ -
- 2019年5月25日(土)東京都 文京シビックホール(大ホール)
- 藤田麻衣子(フジタマイコ)
- 愛知県名古屋市出身のシンガーソングライター。2006年9月「恋に落ちて」でインディーズデビュー。すべての楽曲の作詞作曲を手がけるほか、アーティストへの楽曲提供も行っている。フリーライブを軸に活動しながらファンを増やし、2012年に東京・渋谷公会堂公演、2013年7月に東京・NHKホール公演を実施。同年10月には東京・日本武道館での弾き語り無料ワンマンライブを成功させた。2014年3月に「涙が止まらないのは」でメジャーデビュー。同年10月にメジャー1stアルバム「one way」をリリースした。2016年には47都道府県ツアーを行い、11月にCDデビュー10周年を記念してベスト盤「10th Anniversary Best」を発表した。2017年4月に東京・すみだトリフォニーホールで念願のオーケストラコンサートを初開催。2018年1月にニューアルバム「思い続ければ」を、9月にはキャリア初となるカバーアルバム「惚れ歌」をリリースした。2019年5月には東京・文京シビックホール 大ホールで2度目のオーケストラコンサートを行う。