音楽ナタリー Power Push - 藤巻亮太

解き放たれた今だから歌える「日日是好日」

理論じゃないところを大切に

──収録曲の中では、2014年にシングルとしてリリースされた「ing」が一番古い曲になりますか?

そうですね。そして、一番新しい曲は「春祭」。いろんな線が消えていって最終的にここまでたどり着いちゃったっていう。一番、能天気で何も考えてない曲ですから(笑)。今回は12曲入りになりましたけど、実際はその3、4倍くらい曲を作ったんですよ。その中から12通りのバリエーションが生まれるようにセレクトしていった感じでしたね。

──抱えていた悩みがどんどん晴れていく様が、アルバム1枚通してリアルに感じられる内容になっていますよね。

藤巻亮太

そうなんです。例えば「花になれたら」なんかは「迷いを抜け出してみんなにもう一度会いに行きたい」っていう願望を歌ったものだし、「My Revolution」は「自分の中にちっちゃい革命を起こして光に向かって進んでいきたい」っていう願望を歌っているし。アルバム全体を通して、この3年半の中で自分の気持ちの変遷みたいなものが表れていると思いますね。

──今回は作詞作曲はもちろん、アレンジまでほぼすべてをご自身で手がけられています。楽曲を聴いて感じたのは、とにかく自由に楽しんでいるなあということで。

確かにそうですね(笑)。素晴らしいプロデューサーの方に関わってもらえば制作の交通整理もうまくいくだろうし、もっといい作品になる可能性もある。でも、今回は1人のミュージシャンとして、すべてを自分でやりきることが大事だと思ったんです。ソロアーティスト藤巻亮太として改めて覚悟を決めるために、自分がワクワクすること、自分が楽しいことにもう一度触れてみる時間が必要だった気がしていて。

──結果、見えたものは何かありましたか?

開き直りができるようになりましたね(笑)。いい意味で、「ま、いっか」みたいな。今までは重箱の隅をつつくように、悪い部分を徹底的に探しちゃってたと思うんですよ。でもそうではなく、いい部分をしっかり見て生かしてやるほうが大事だなと気付けたんです。そのいい部分っていうのはけっこう感覚的なものなんですけどね。音楽の理論的にはちょっと違うのかもしれないけど、でもこっちのほうがワクワクドキドキするとか。響きがいいなとか。今回は全曲通して、歌詞はもちろん、メロディやアレンジに関しても理論じゃないところを大切にすることを楽しめましたね。

──昨日のライブではアルバムの中の曲を、“できちゃった曲”と表現をされていましたよね。

今歌うべきものを考えてがんばって作った曲もあるんですけど、一方ではなんだかわかんないけど出てきちゃった曲っていうのも多いですからね(笑)。「日日是好日」「春祭」「かすみ草」「夏のナディア」なんかがそのタイプ。そういう曲って、荒々しさがあるんだけど、そこにこそ豊かさが感じられるんです。だから簡単に、キレイにトリートメントすることはやめようと思って。

これからも迷うことはあるだろうけど……

──本作は藤巻さんの心の動きを通して、聴き手が勇気や希望をもらえる内容だと思います。そこを制作時に意識していたところはありましたか?

藤巻亮太

いや、そこはあまり考えてないかな。リスナーさんも1人ひとりがまったく違う人間なわけだから想定できないじゃないですか。だからそこを考えるのではなく、自分がやるべきこと、自分のできることにエネルギーを使おうと思って。「期待に応えなきゃ」みたいな責任を全うしようとすると、音楽が“音楽活動”になってしまうような気もするので、そこは間違えたくないなと。とは言え、過去にそうやって作った曲にリスナーの人が共感してくれるのはもちろんすごくうれしいです。それも自分にとっては音楽なので。

──また、四季を感じさせる曲も多いので1年を通してずっとそばに置いておきたい作品にもなっているなあと。

ああ、それはとてもうれしい感想ですね。春らしい曲で始まるけど、中盤には「夏のナディア」という曲もあるし、最後を飾る「ing」では冬もやって来る。で、1曲目の「花になれたら」でまた春に戻っていくみたいなね。そういう四季の移ろいみたいなものはアルバムの中に確かにありますね。1年間ずっと聴いてもらえたら最高ですね。

──4月からは「藤巻亮太 TOUR 2016~春祭編~」が始まりますね。

はい。ツアーの前半が3人編成でのアコースティックライブ、後半3本がフルバンド編成でのライブになります。弾き語りライブで歌の響きの大切さを改めて感じた上でのツアーになるので、今度はアンサンブルの面白さ、豊かさを追求していこうと思っています。それぞれの会場でグッドバイブレーションを生み出して、より音楽を楽しめるツアーにしたいですね。

──長いトンネルを抜けた藤巻さん。ここからはもう大丈夫、ですよね?

まあ、「日日是好日」なんでね、明日のことはわかんないです(笑)。そこを考える必要もないわけなんで、今できることを思い切り楽しんでいこうと思ってますよ。雨が降っても雨の日なりにいい日だろうし、嫌なことがあっても嫌なことがあったなりにいい日だろうし。これからも迷うことはあるだろうけど、空を見上げたときの北極星のように、「日日是好日」という言葉が前を向いて歩いていくための指針になると思うので。

2ndアルバム「日日是好日」2016年3月23日発売 / 3240円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-65039
「日日是好日」
収録曲
  1. 花になれたら
  2. Weekend Hero
  3. 回復魔法
  4. 日日是好日
  5. 8分前の僕ら
  6. 夏のナディア
  7. My Revolution
  8. 大切な人
  9. 春祭
  10. 雷鳴
  11. おくりもの
  12. ing
藤巻亮太(フジマキリョウタ)
藤巻亮太

2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表する。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、同月に初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。10月には1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表した。以降もソロ活動を活発に展開し、2015年5月にはソロ初のミニアルバム「旅立ちの日」をリリースした。2016年2月に初の写真集「Sightlines」を、3月に2作目となるオリジナルフルアルバム「日日是好日」を発表。