藤巻亮太主催による野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2025」が、9月27日に彼の地元である山梨県の山中湖交流プラザ きららで開催される。
例年多彩な顔ぶれが富士山の麓に集結し、話題を呼んでいる「Mt.FUJIMAKI」。今年も吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)、スガシカオ、スキマスイッチ、井ノ原快彦(20th Century)、阿部真央、Lucky Kilimanjaroという豪華なラインナップだ。音楽ナタリーではイベント開催に先立ち、藤巻と井ノ原の対談をセッティングした。2023年に藤巻が20th Centuryに「回れよ地球」を書き下ろし提供したことで生まれたという両者の交流。対談では楽曲の制作エピソードや音楽との向き合い方、「Mt.FUJIMAKI」への意気込みなどについてたっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 張江浩司撮影 / YURIE PEPE
スタイリスト / 秋⾕和之(FINDERS KEEPERS® AFTERMATH)
公演情報
Mt.FUJIMAKI 2025
2024年9月27日(土)山梨県 山中湖交流プラザ きらら
<出演者>
吉井和哉(THE YELLOW MONKEY) / スガシカオ / スキマスイッチ / 井ノ原快彦(20th Century) / 阿部真央 / Lucky Kilimanjaro / 藤巻亮太
「回れよ地球」制作時の印象的な出来事
井ノ原快彦 最初にお話したのは、「回れよ地球」(※2023年にリリースされた20th Centuryの配信シングル)の制作をお願いしたときですよね? 打ち合わせにはスタッフさんだけがいらっしゃると思っていたら、藤巻さんご本人がいらしてしっかり話を聞いていて。
藤巻亮太 僕もディレクターさんと打ち合わせするんだと思っていたら井ノ原さんがいらしてびっくりしました(笑)。テーブルを挟んでじっくりお話させてもらいました。
井ノ原 そのテーブルが遠かったから、近付けた覚えがあるなあ。
藤巻 そうそう、スッと井ノ原さんが近付けてくださって。ああいうことをスマートにされるのがすごいなと思ったんですよね。
井ノ原 物理的にも精神的にも、距離ってすごく大事じゃないですか。もっと近くで話したい気持ちになったんでしょうね。
藤巻 トニセンの皆さんはとてもマルチな活躍をされていますけど、音楽面は井ノ原さんが取りまとめてらっしゃるんだなとそのときに思ったんですよ。皆さんの意見を集約して、窓口になっているというか。打ち合わせでもグループのイメージと今のビジョン、楽曲の世界観を話してくださって。
井ノ原 まさにそんな感じです。3人いると、誰かがまとめないと話が進まなくなることもあるので。年齢もキャリアも重ねてくると、よくも悪くもやり方が固まってくるんですよね。なので、こうやってアーティストの方とご一緒すると「そうやってるんだ!」という発見があって。それを3人で受け止めるにはみんなバラバラの仕事をしているので、僕が代表させてもらっている感じです。経験上、本当にやりたくないことだったら坂本(昌行)くんと長野(博)くんは言ってくれますし。
藤巻 顔合わせのあともいろいろやりとりさせていただいて、特に歌詞の世界を詰めていくラリーが心に残ってます。間口を広げようと思うと、僕はつい抽象的な言葉を選んでしまいがちですけど、井ノ原さんからは「もっと勇気を出して、具体的で日常的な表現をしてほしい」というニュアンスを感じて。やっぱりトニセンさんはファンの皆さんとの距離が近い分、そういう世界観になっていくんだろうなと思いました。
井ノ原 そう感じてくださったのはありがたいですし、僕も藤巻さんの反応のよさがあったからこそ突っ込んだ話ができたんだと思います。年齢もそんなに離れていないので。「キン肉マンは見てるだろう」みたいな、同じようなものに触れてきた安心感もありました。いつも散歩している駅前の風景とか、そこで見かける学生とか、そういうモチーフを藤巻さんにお話したような気がするんですけど、一方で「回れよ地球」という壮大なテーマもあって。ミクロとマクロを行ったり来たりするのが面白いんじゃないかなと。
キャリアを重ねてもバカなことをやりたい
井ノ原 トニセンは上の2人がすごく謙虚で、いつも「いくら日本で有名でも、宇宙人から見たらどうってことない」という話をするんです。トニセンのライブだからといって全員がトニセンを知っているとは限らないし、友達に連れてこられた人もいるだろうから、丁寧に説明していこうと。僕はこの発想が好きなんですよね。
藤巻 僕も2024年のツアー(「20th Century Live Tour 2024 ~地球をとびだそう!~」)を拝見しましたが、起承転結というか、物語と展開があるんですよね。全員の耳と目が奪われて、グッと違う場所に連れて行かれて、最後は大団円という。ロックバンドは「楽曲の世界観だけでいくんだ」というような気持ちが根っこにあるんですけど、それと比べるとやっぱり練られているし、深いなと思いました。
井ノ原 あのツアーは宇宙がコンセプトだったから、かなり楽しんでやれました。僕と長野くんは宇宙が好きなんですよね。坂本くんはそうでもなさそうだけど、やってくれるので(笑)。
藤巻 僕も宇宙が好きなんですけど、それってある意味少年的な感覚だと思うんです。宇宙に対する憧れを変わらずお持ちなのがいいですよね。
井ノ原 そういう感覚は中2か中3の頃から変わらないですよ。それがよくないのかもしれない(笑)。
藤巻 いえいえいえ(笑)。
井ノ原 昔は井ノ原とかイノッチと呼ばれていたのが、いつしか井ノ原さん、イノッチさんになり。イノッチに「さん」が付いたらよくわからないですけど(笑)。キャリアを重ねるとどうしてもそうなっちゃうので、気分だけは抗いたいと思ってます。6人でやっていた頃は、下の3人は大人っぽいことをやりたがるんですよ。でも上3人はもっとバカなことをやりたい。逆転しちゃってたんだけど、その妙が面白かったんだと思います。
藤巻 音楽以外でも「バカをやりたい」という気持ちはあるんですか?
井ノ原 全部そうですね。30代中盤からは、ビシッとスーツを着て「おはようございます!」とテレビでやるような機会も増えましたけど、自分でオンエアを見ると笑っちゃうんですよね。逆にそれが面白いから、真面目にやってみるというか。どんなシチュエーションでも、どこかで面白さを求めちゃうのかもしれないです。
「不惑」を過ぎてもまだ迷ってる
藤巻 僕は20代をレミオロメンで過ごして、32歳からソロで活動し始めたんですけど、キャリアが10年あるうえでの再スタートをどう振る舞えばいいのかわからなくて。30代はひたすら迷走していたんです。
井ノ原 そうなんだ!? 全部わかってスッとやってるんだと思ってました。
藤巻 いえいえ、もう音楽さえもわからなくなり。そういう中で、登山家の野口健さんと出会ってヒマラヤに連れて行っていただいたりして、音楽以外の経験を積み重ねることができてきたんです。
井ノ原 面白いなあ。
藤巻 ソロ活動を始めたことで見える景色があったんだなと思えて、すごく感謝できるようになった。そういうときに、改めて自分のアイデンティティを見直すようになって、立ち戻ったルーツが地元山梨だったんです。そういえばずっと山梨の景色を歌にしてきたなと。その自分のルーツに何かお返ししたいなと思って始めたのが、「Mt.FUJIMAKI」なんです。
井ノ原 僕はそういう迷走の話、大好きなんですよ(笑)。みんな往々にしてありますからね。先日、トニセンで堀込高樹くんが書いてくれた「不惑」という曲を歌ったんです。この曲は僕がちょうど40歳になるときにできたんですよ。それで、今年49歳になって「もう不惑も終わるのか」と。でも、まだまだ迷ってるんですよね。孔子の時代に比べたら随分寿命が延びてますから、あと3回くらいは惑うんだろうなと思うんです。そういうふうに今から覚悟しておいたほうが楽だろうし。
藤巻 しかも、現代は1年1年の密度が濃いというか、10年経ったら景色がまったく変わっているじゃないですか。
井ノ原 そうですよね。我々は社会的にもテクノロジー的にも大きな過渡期にいると思うんです。芸能界もまさにそうですし。
藤巻 井ノ原さんはこの状況をどう見られていますか?
井ノ原 笹舟のようにふわふわ浮いていくしかないなと。流れに乗るもよし、乗らないもよしで。
藤巻 50代になってから初めて出会うこともありそうですしね。
井ノ原 めちゃくちゃあると思いますよ。AIを使えば3分くらいで曲が作れるようになったりしてるわけで。でも、そういう技術が出てくるほど、フェスの熱狂とか、ステージ上でのどうなるかわからないコラボとか、そういうことの価値が上がっていくと思うんですよ。
藤巻 AIは最適解にたどり着けるかもしれないけど、人間の生き方には最適解も最短距離もないですもんね。わからないからこそ、そこで足掻きたい。
井ノ原 わかります。最近、友達と「元気ってどういう状態だろう?」という話をして。その人は「最短距離で行かないことだ」と言ってました。大人だったら目的地まで一直線で行くけど、子供はジグザグしながら向かって、また戻ってきたりするじゃないですか。ペース配分なんか考えない。それが「元気」なんですよね。
藤巻 すごくいい話ですね! タイパ、コスパという言葉で世の中が埋め尽くされていますけど、その節約した時間で本当に有意義なことができるのか疑問なんですよね。結局スマホを見てるんじゃないのかなって(笑)。
井ノ原 僕もね、ドラマとか撮ってるとコスパ悪いなと思いますよ(笑)。「1日中やっててこれだけしか撮れてないの?」ってこともしょっちゅうですし。でも、そこにかけた熱量は無駄にならないし、撮影の合間に話したことがそのあとに生きてくることもありますから。
次のページ »
井ノ原快彦主催のフェスをやるなら