フレデリック特集|デビュー10周年を経てより自由に、面白く 刺激的な「CITRUS CURIO CITY」完成 (2/3)

自分たちが今面白いと思っている音楽の形

──今あえて「オドループ」の話を聞いたのは、あの曲が代表曲としての存在感を放つ一方で、ここ数年は「ジャンキー」や「スパークルダンサー」など、ライブでの盛り上がりや広がり方のパワーを持った王道の曲がどんどん生まれているからなんです。そういった流れを経て、「CITRUS CURIO CITY」はさらに音楽性の幅が広がった印象があったんですね。そもそも、新作はどんなアイデアから作り始めたんでしょうか?

康司 「優游涵泳回遊録」(2023年2月リリース)というアルバムはメンバーとしてもめっちゃいい作品だったと思っていて、そこから「次のミニアルバムはもうちょっと刺激的な、フレデリックの面白さみたいなものをより自由に出していく作品にしたいね」と。“キュリオシティ”には好奇心という意味もあるんですけれど、好奇心や刺激から発展してどういう曲を作っていこうかと考える中で「ペパーミントガム」という曲ができて。そこから「PEEK A BOO」や「CYAN」ができた。

三原康司(B, Vo)

三原康司(B, Vo)

──「ペパーミントガム」は「優游涵泳回遊録」以降最初にリリースされた曲ですが、作ったタイミングも「CITRUS CURIO CITY」の収録曲の中でも最初だった?

健司 そうですね。「PEEK A BOO」と「ペパーミントガム」が同時期くらいかな。

康司 何曲かデモを作ったんですけれど、フレデリックとして見られる景色をより広げてくれそうなものを選んで、それを4人でアレンジしてさらに幅を広げていくという。自由さだったり、自分たちがより面白い、好きだと思えるところにフォーカスして作っていった感覚はありました。

お客さんがよりボーカルを意識するようになってきた

──「ペパーミントガム」はここ最近のライブではセットリストに加わることが多く、重要な役割を担っている曲だと思いますが、この曲が加わったことでフレデリックのライブのモードはどう変わりましたか?

健司 これは個人の感覚なんですけど、ボーカルに注目するお客さんが少し増えたのかなと思いました。フレデリックのライブは盛り上がるのが大前提で。フロアで声を出したり、一体感を持って楽しんだり、そういう興奮状態になるのが、俺がフレデリックのライブの好きなところの1つで。一方で、以前は1人ひとりの演奏や歌をがっつり観るお客さんはあんまりいなかったような気がするんです。メロウな曲でもステージ全体を見ている感じで。でも「ペパーミントガム」ができてから、ライブの流れというか、お客さんの目線が変わったと感じています。

──「ペパーミントガム」や「ひとときのラズベリー」には、どことなくシティポップ的な感触があると思いました。ある種の大人っぽさや色気、歌謡曲にも通じるメロディがあって。それがより洗練されているがゆえにシティポップっぽく聞こえるというか。作るうえでそういったサウンドは意識しました?

康司 シティポップっぽく作ろうという意識はまったくなくて。この歳になったので、そういう曲をやってるバンドでありたいというのが優先された感じです。自分の好きな音楽の中にJ-POPや歌謡曲があるので、フレデリックでどれだけそのジャンルで遊べるかを考えながら作りました。「ペパーミントガム」がライブで歌を聴いてもらえるきっかけになったという感覚は自分にもありますね。どういう楽曲を歌ってもらったら今の健司の歌声やスキル、歌のニュアンスやメロウさの魅力が伝わるかなというところがあって。特に「ペパーミントガム」と「ひとときのラズベリー」はリズムよりメロディを重視した楽曲だったので、この2曲を作れたことで、今後の曲の幅も広がると思います。自分たちが今好きだと思う部分が入った結果、シティポップというジャンルに結び付いたような感じですね。

新たな発明をしていきたい

──「PEEK A BOO」はどうでしょう? 途中でハーフテンポに変わり、サイケっぽくなったりするストレンジな展開の曲ですが、この曲がフレデリックのディスコグラフィに加わったことで何か変わった感じがありますか?

健司 なんでもありになりましたね。「PEEK A BOO」をミニアルバムに入れたことで、いい意味でそれまでの流れがなくなるんですよ。どの位置に入れても、一旦何もかもがリセットされて「PEEK A BOO」の雰囲気になる。ライブのセットリストでも、前後にバラードを持ってきたとしても、めっちゃ速い曲を持ってきたとしても対応できるというか。この曲があることでフレデリックの幅が広がったなと、ライブでやっていて感じます。

三原健司(Vo, G)

三原健司(Vo, G)

──この曲はどんなアイデアから膨らませていったんでしょう?

康司 「“刺激”をテーマに楽曲を作っていこうぜ」というところから始まって、あとは奇妙奇天烈な表現でリスナーを驚かす、みたいな発想ですかね。あと、めちゃくちゃ変なダンスミュージックでアリーナを踊らせられたら気持ちいいよなと。ライブで「PEEK A BOO」をやると、見たことのない踊り方をしてるお客さんがいるんですよ。僕はそれを見るのがめっちゃ好きで。そういう自由に羽根を広げて本能的に踊る姿が見たかったから。ゆったりとメロウに踊れるシーンもあり、展開が変わればクラブっぽく踊れる瞬間もある。新たな発明のような曲にできたなと思います。

──1曲目に収録されている「CYAN」はどうでしょうか? 劇場アニメーション「数分間のエールを」主題歌ですが、どんなイメージがとっかかりになりましたか。

康司 この曲は映画のテーマをいただいてから作り始めました。「数分間のエールを」は「物作りの葛藤」をテーマにした映画で。主人公の(朝屋)彼方くんが純粋無垢に物作りをする初心の気持ちを持っていて、すごく共感できる部分が多かったんです。ちょうど僕もミニアルバムに向けて新曲を作っているときだったし、自分の物作りに対する思いと重なるものを感じたというか。そんなタイミングで、このテーマをいただいたからこそ生まれた楽曲です。映画の中にはトライ&エラーを繰り返す描写もあって。自分もその気持ちを経験したことがあるからこそ引き出されたものがあった。このタイミングで書けてよかったと思います。