ナタリー PowerPush - FoZZtone
10年間のキャリアが生んだ自信と快作
栄養バランスのいい音楽ができるように
──2曲目の「情熱は踵に咲く」はスパニッシュギターが大胆に取り入れられていたりスペイン語の歌詞が盛り込まれていたりと、スペイン色が強いですね。このアイデアはどこから?
渡會 前のレコーディングのときかな、竹尾が「スパニッシュギターを覚えたんだ」って恐ろしい速度の連弾をずっとみんなに自慢してて。
竹尾 そう、それだけです。「これすごくない?」って(笑)。次のアルバムにでも使えたらとはなんとなく思ってたんですけど。
渡會 それとはまた別のところで「情熱は踵に咲く」を作ってたんですけど、「なんかこれいけそうじゃね?」って(スパニッシュギターを)合わせてみたらそれがよくて。「これ楽しいからフラメンコの足踏みとか手拍子とかも入れようぜ」って進めていったら、サポートドラマーの武並(“J.J.”俊明)さんがワールドミュージック全般をとても好きで詳しいので「それだったらこういう手拍子だ」って教えてくれたり。それまでのなんの気ない伏線みたいなものがパッパッパッと一瞬で回収されたような感覚でしたね。
──でもそこに借り物感や強引さはなく、すごく絶妙なバランスで成立してますよね。このバランスはどうしたら取れるものなんでしょうか。
渡會 たぶん、全員が精通してないっていうところが一番いいんだと思います。全員ちょっとずつ外すっていう。言ったらキャノン全然スパニッシュ通ってないじゃん?
菅野 うん、うん。
渡會 俺のギターも全然スパニッシュじゃないし、武並さんにも「メタルっぽいドラムにしてください」って言いましたし。今まで「要素が1つじゃないと伝わりづらい」ってさんざん大人に言われてきたんですけど、ほんとに一番カッコいいのは、1つ目立つ要素があってその影に2、3個こっそり別の要素があるものなんですよね。そうすると単調じゃなくなるんですよ。ごはんと一緒ですよね、主菜がバーンとあるだけじゃなくて副菜がちゃんとあるみたいな(笑)。そういうバランスをいつの間にか取れるようになれましたね。栄養バランスのいい音楽だと思います。
竹尾 レコーディング終わったあと、初めて指が血だらけになったんですよ。スパニッシュギターは普通はナイロン弦なんですけど、鉄弦でやったんで。たぶんそういうところもひとつあると思いますよ。あれを普通にナイロン弦でやったらもうちょっとフラメンコっぽくなるんでしょうけど、ないから「わっちアコギ貸して」って。
渡會 そのあとそのアコギ持ったら、ちょっと普通の錆とは違う色が付いてた(笑)。
──しかも今回はひさびさの菅野さん曲「1983」や、初の武並さん曲「ニューオーリンズ殺人事件」もありますね。
渡會 ここ数年はアルバム制作に取り掛かる前に曲順表を作るんですけど、そこに今ある曲を適当に入れてくんですよ。空欄になったところには適当なタイトルとか、「ギュッてしたやつ」「エグいの」みたいな雑なワードを書いて。だいたい俺と竹尾の曲でそれが埋まるんだけどあと2つくらい違うテイストのものが欲しいなと思って、10周年だしってことでキャノンと武並さんに作曲を振って(笑)。
菅野 そう。仮タイトルだけ渡されたんですよ、「この曲作ってきて」って。武並さんはそのまんま「ニューオーリンズ殺人事件」で、俺は「ポリフェノールインザチョコレート」って言われて。「なるほど」と(笑)。
渡會 なんかすごいPerfume聴きたくなったんですよね。「『チョコレイト・ディスコ』みたいな曲がいいな、よしじゃあタイトルは『ポリフェノールインザチョコレート』で」って。武並さんには、渋いのがよかったから「ニューオーリンズ殺人事件」で書いてきてくださいって言ったら、ほんとにニューオーリンズっぽいジャズテイストの曲を作ってくれて。僕これすごいお気に入りなんですよねえ。
──「1983」には「チョコレイト・ディスコ」っぽさはないですね。
菅野 それはもうなくなりました(笑)。最初は「じゃあダンスビート作るか」って思ってたんですけど、できませんでした。
俺たちは天才なんだ
──お話をお聞きしてると、FoZZtoneは音楽に対して柔軟な姿勢で向き合っている印象を受けます。
渡會 そうですね。もうどういう形のネタが出てきても、とりあえずカッコよくするっていうのはできる気がします。
──その自信はどこからくるものですか?
渡會 改めて過去の自分たちを振り返ったときに、自分たちでいい曲だなあって思える曲が多かったんですよね。しかもこんだけのペースでこんだけの枚数作れて、いい曲って思えるんだからこれはもう天才だろと。
菅野 ふふふふふ(笑)。
渡會 もう普通に俺たちは天才なんだと(笑)。そういう前提でいないととてもとても虚しいことになるんですよ。世間には売れているミュージシャンと、そうではない僕らぐらいのバンドたちがいっぱいいますけど、僕らが上のステージに上がれないのは曲がよくないからとか、演奏がよくないからとか、あるいはメッセージがよくないからって理由では絶対にない。そこは自信を持って曲は素晴らしい、プレイも素晴らしい、メッセージも何も間違ってない、最高だと。……じゃあなんで売れねえんだろうなー、なんて言いながら酒を飲んだりもしますけどね。
──でもそういうモードでいるからこそ、アニメのタイアップの話が来たり、とてもいいアルバムが作れたりするんでしょうね。
渡會 そうですね。
──この10年間はとても意義のあるものになったんじゃないかと思います。
渡會 今は早く成功を求められる時代だけど、時間をかけるっていうのは成長にすごく大事なことなんですよ。FoZZtoneはとても時間をかけて、ここまで運良くメンタリティの面も含めて成長することができた。だから若いバンドの子たちには、27で死ぬとか「30までに大金持ちになってやろう」じゃなくて「30からバブルが来るんだろうな」っていうふうに思ってもらいたい。長い時間かけて自分がステップアップしていった先に、もっとハッピーな世界があるっていうことを知ってほしい。やっぱこう、積み重ねてった人間が美しくあるべきだと思うんです。それが讃えられるべきだと思うんですよ。
- ニューアルバム「Reach to Mars」 / 2013年6月5日発売 / 2800円 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3050
- ニューアルバム「Reach to Mars」
収録曲
- 世界の始まりに
- 情熱は踵に咲く
- Master of Tie Breaker
- She said
- Shangri-La
- BABY CALL ME NOW
- 1983
- ニューオーリンズ殺人事件
- 21st Century Rock'n'roll Star
- Reach to Mars
FoZZtone(ふぉずとーん)
2001年に竹尾典明(G)が渡會将士(Vo, G)と前身となるバンドを結成。2002年に越川慎介(Dr)、2003年に菅野信昭(B)が加入し、2007年にミニアルバム「景色の都市」でEMIミュージック・ジャパンよりメジャーデビューを果たす。2008年、1stフルアルバム「カントリークラブ」を発表。2009年には亀田誠治がプロデューサーとして参加した2ndフルアルバム「The Sound of Music」をリリースした。2010年、越川がバンドを脱退。以降はサポートドラマーに武並“J.J.”俊明を迎えて活動している。2010年から、ユーザーが収録曲と曲順を決定できるという“オーダーメイドアルバム”のプロジェクトを開始。2011年に「NEW WORLD」、2012年に「INNER KINGDOM(内なる王国)」と、組曲形式の楽曲をDISC 2に収めた2枚組のアルバムをリリースした。2013年にバンド結成10周年を迎え、“オーダーメイドアルバム”やEMI在籍時代のベストアルバムを立て続けに発表。6月には10曲入りのフルアルバム「Reach to Mars」をリリースする。