brainchild's「coordinate SIX」菊地英昭、渡會将士インタビュー|“第7期。”の座標となるニューアルバム、多彩な楽曲を通じて提示したロックの可能性

brainchild'sのニューアルバム「coordinate SIX」が8月24日にリリースされた。

菊地英昭(G / THE YELLOW MONKEY)のソロプロジェクトとして始動したbrainchild'sは、2016年に渡會将士(Vo / FoZZtone)、神田雄一朗(B / 鶴)、岩中英明(Dr / Uniolla、MARSBERG SUBWAY SYSTEM)を迎えたバンドスタイルの“第7期”としての活動を開始。2019年からはMAL(Key)が加入し、音楽性の幅をさらに広げる足がかりを得た。“第7期。”としての始動直後にコロナ禍に見舞われたbrainchild'sだが、配信ライブや多数の新曲リリースといった活動を精力的に展開。その集大成として今回のニューアルバムを完成させた。

「coordinate SIX」には過去作と比較してさらに多彩な楽曲が収録され、“第7期。”の充実したモードを感じさせる作品となっている。音楽ナタリーでは本作のリリースに際し、菊地と渡會へのインタビューを実施。第7期の軌跡やニューアルバムの制作経緯、各楽曲の聴きどころなどについて語ってもらった。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 後藤倫人

MALくんを加えて、螺旋階段みたいに一段上に進んだ

──第7期brainchild'sは2015年末に始動がアナウンスされ、そこからすでに6年半以上が経過しました。現在までにいろんな変遷があったと思いますが、お二人にとってはどんな期間でしたか?

渡會将士(Vo) 最初、brainchild'sに招集していただいたときはメンバーたちも結構「ウェーイ」という感じだったんですけど(笑)、その直後に「なんだかTHE YELLOW MONKEYが再集結するらしいぞ?」と騒がしくなってきて、「そうなると、俺たちどうなるの?」という。

菊地英昭(G) タイミング的にね(笑)。

渡會 でも、THE YELLOW MONKEYの再集結によってエマ(菊地)さんのbrainchild'sという活動に興味を持ってくれた方もたくさんいたと思うんです。そういう意味では、最初は驚きと戸惑いの多い1年でした。音楽的にも7期になってからはコアなロックテイストが強くなって、新しいバンドの1枚目みたいな作品ができたと思っていたら、作品を重ねるごとにエマさんの思いつくものの幅がどんどん広がり、さらにMALくんという鍵盤メンバーを加えることでまた1周してコアなロックに戻ってきて。ただ、同じところに戻ったというよりは螺旋階段みたいに1段上に進んだという感じもしています。

左から菊地英昭(G)、渡會将士(Vo)。

左から菊地英昭(G)、渡會将士(Vo)。

菊地 7期では「こういうことがやりたい」というビジョンがしっかりあったので、最初のミニアルバム「HUSTLER」(2016年リリース)の中の「Phase 2」と「群衆」という曲に合ったメンバーでやりたいということで、それまで一緒にやってくれたメンバーとは違う、新しくソリッドなバンドを組みたいと思って始めたんです。それと並行して、さっきワッチ(渡會)が言っていたTHE YELLOW MONKEY再集結の話ももちろんあったんですが、別に昔と同じことをやろうという気持ちはなかったですし、いろんな思いがある中で「今自分がやりたいロックバンドのサウンドを形にしたい」と思ったのが7期だったので、当時のストレートな気持ちはあのミニアルバムの曲たちに込められています。それこそ、吉井(和哉)にもあれを初めて聴かせたときに「THE YELLOW MONKEYなんかやってる場合じゃねえだろ!(笑)」と言われたくらいですし(笑)。そこからライブを重ねていくうちにバンドらしさが増して、最初に思い描いていた以上にいろんなことができるなと気付いて、どんどん欲が深くなっていくわけです。

渡會 ふふふ(笑)。

菊地 「だったら俺も好きなの、ほかにもいっぱいあるよ?」ってことで、だんだんといろんな味を足していって、最終的には鍵盤も入れたいという欲も出てきて、現在の最強な“第7期。”の布陣ができあがったわけです。

──4人でスタートした第7期brainchild'sとしては、前作「STAY ALIVE」にて4ピースのギターロックバンドを極めた印象があったので、そこからどう進化させるのか気になっていたんですが、「ここで鍵盤メンバーを入れるのか!」とすごく腑に落ちました。

菊地 僕も最初はもっとシンプルにするか、それとも昔から好きな鍵盤を入れるかの2通りですごく悩んだんですけど、やっぱり欲に負けましたね(笑)。MAL以外の4人でやってきたサウンドはよりソリッドにもできるし、よりリズミカルにもできるけど、その先を視野に入れて考えたときにカラフルさが欲しくなって。自分がbrainchild'sを作ったときも、この7期を始めたときも最初はわりとダークな黒とかモノトーンのイメージをメンバーに強調していたけど、そこからはみ出しちゃう、隠しきれない色をどうにか音にしたかったのでMALに正式に入ってもらいました。

アルバムは“第7期。”のメンバーで進むうえでの“座標”

──MALさんが加入した5人編成の“第7期。”brainchild'sは、デビュー10周年を迎えた2019年12月に翌年の全国ツアー開催を発表しましたね。しかし、2020年に入るとコロナの影響で思うように活動ができなくなってしまいます。

菊地 アルバムを作ってツアーをやりたかった時期だったので、それに関して腰を折られたのは事実ですね。ただ僕も、コロナ禍になってからbrainchild'sに求めるものが、それまで持っていたダークサイドじゃないほうが多くなってきたので、それを表現するうえでは配信で新曲をリリースしていったり、オンラインライブを行ったりするスタイルのほうがよかった。そういう意味では、それはそれでよかったのかなと思うところはあります。

渡會 brainchild'sに関してはエマさんの曲がまずあって、そこにメンバーが音を乗せていくという作業工程になるので、正直コロナがなかったらこうしたかったみたいな絵が僕はそこまで浮かんではいなくて。歌詞を書くうえではコロナのことを避けてなかったことにはできないので、あとはどう歌っていこうかなと試行錯誤を繰り返したことは、すごくいい経験になったなとは思います。

──現編成で最初の楽曲が、2020年8月に配信リリースされた「Set you a/n」です。今回のアルバムにも収録されていますが、初めてこの曲を聴いたときは今の状況に関係なく、とにかく聴いているだけで気持ちが高揚するロックナンバーに対して安心したというか。ちょっとだけ日常を取り戻せた感があって、すごく励まされたことをよく覚えています。

渡會 そう言ってもらえると、すごくうれしいです。

菊地 あのときは、ちょっと悩んだんですよ。「Set you a/n」と「Heaven come down」、どっちにしようかって。

渡會 ああ、そうでしたね。

菊地 ストレートな歌詞と、ちょっと俯瞰しているものと。でも、その当時は本当にコロナ真っ只中だったので、「Set you a/n」で大正解でした。

菊地英昭(G)

菊地英昭(G)

──その頃から次のアルバムのイメージは、なんとなくあったんですか?

菊地 コロナがなかったら作っていただろうという作品のイメージはありましたけど、そのアイデアは一度なしにしたので、今回のアルバムに至るものはまだなかったですね。コロナ禍で配信リリースやスタジオライブを重ねていく中で、徐々に固まっていきました。この「coordinate SIX」というアルバムタイトルも、brainchild'sのフルアルバムとしては6枚目という意味が込められているんですが、「coordinate」とは座標のことで、6枚目のアルバムに向かって“第7期。”のメンバーで進んでいるというイメージからこのタイトルを選びました。これも、配信やスタジオライブを重ねた結果、出てきたタイトルですね。

──状況の変化はありながらも、流れに沿いつつ、ここに導かれていったと。

菊地 そう、導かれていく形を表現したかったんです。

──なるほど。先ほどエマさんから「カラフル」というキーワードが上がりましたが、今作では楽曲の幅がさらに広がった感がありますよね。

菊地 そうですね。変に気負わず、いろんな曲を選んだ気がします。カラフルさというのはサウンドはもちろん、楽曲自体もカラフルだと感じてもらいたくて。ポップと言ってしまうと言葉が簡単すぎるんですけど、ちょっと身近にあって手に馴染みやすいものをイメージしながら作っていきました。

──渡會さんはエマさんから曲を受け取る際、以前の楽曲との違いは感じましたか?

渡會 デモのときの感覚としてはちょっとリバイバルというか、懐かしいものをあえて取り込んでいるような印象がありましたが、いろんなニュアンスが入っていると感じました。それこそBTSっぽい最新のリズムがあるかと思えば、「これ、歌がムズいっすね!」って曲に対しては「Queenみたいにしたいんだよね!」と言われたり(笑)。エマさんとしては「今このタイミングの旬を詰め込みました」というよりは「今までの全部を詰め込みました」みたいな感覚だと思うし、とっ散らかっている風ではあるんですけども、なぜか自分の中では前作「STAY ALIVE」よりも最初のミニアルバム「HUSTLER」を作っていたときの感覚に近い気がしていて、最初に話した「帰ってきた感」がすごくあるんですよ。

渡會将士(Vo)

渡會将士(Vo)

菊地 うん、そうだね。

渡會 結局エマさんの頭の中にしかゴールはないんですけど、僕たちはなんとなくそのゴールの外堀を埋める役割だったのかなって。それこそさっき話題に出た座標にみんなで向かっていっているのかなと、作りながら感じていました。