音楽ナタリー PowerPush - FoZZtone
バンドの葬式を挙げる
9月にミニアルバム「Stomp the Earth」、11月にフルアルバム「Return to Earth」とリリースを重ねるFoZZtone。ハイペースなリリース活動の裏には、結成10周年を過ぎ11年目を迎えたバンドの葛藤が潜んでいた。今回ナタリーではフロントマンの渡會将士(Vo, G)にインタビュー。昨年発売された「Reach to Mars」から「Return to Earth」に至るまでのバンドのストーリーを語ってもらった。
取材・文 / 伊藤実菜子 インタビュー撮影 / 笹森健一
ソロ活動の理由
──昨年の「Reach to Mars」のリリースから4カ月ほどあとに、渡會さんはソロアルバム「I'm in Mars」を発表されましたよね。ソロ活動の発想は以前からあったんですか?
その前のアルバム(「INNER KINGDOM」)くらいからですね。いつも打ち込みでデモを作ってるんですけど、凝り性なんでその時点でもう音源として成立するようにかなりリアルに打ち込むんですよ。エンジニアさんにもよくネタで「これこのまま出せばいいんじゃないの?」って言われてたりしてて。だからバンドとは違うアプローチでやってみてもいいかなとか、FoZZtoneでちょこちょこボツにした曲を出せる機会があってもいいかなあと思ったんです。
──このタイミングでソロ作品を出そうと思ったのはなぜですか?
ただ単純に、それまで年間23~4曲レコーディングして2枚組のアルバムを続けて出してたから、10曲入りのフルアルバム(「Reach to Mars」)にしたせいでパワーダウンしたと思われたらやだなって(笑)。
──ははは(笑)。
「わし、できんぞ!」みたいな、ただの見栄で。「いや、まださらに10曲ありますけど。ミュージシャンとしてまったく衰えてませんけど何か?」っていう(笑)、謎の強がりですね。
自信と売り上げが比例しないストレス
──「Stomp the Earth」と「Return to Earth」は「Reach to Mars」から続く3部作、という紹介文を読みましたが、この3枚の構想は「Reach to Mars」の頃から綿密に練られていたんでしょうか?
それは後付けなんですよ。まず「Stomp the Earth」って曲自体は、「Reach to Mars」の全国ツアーを回ってる最中に武並(“J.J.”俊明 / サポートドラマー)さんが持ってきてくれて。FoZZtoneのライブはお客さんとのコール&レスポンスが密だし、ストンプやちょっと高度なクラップを要求する曲だとお客さんも達成感を味わえて面白いっていつも言ってくれてたんだけど、そういうことを意識して作られた曲なんですね。2人でデータをやりとりしながらアレンジをどんどん固めてって、去年の冬にはなんとなく原型ができて。で、そのあと新作のレコーディングをしようっていうことでいろいろネタ出ししていったんですけど、ちょっとこう……なんていうか、メンバーの気持ちが噛み合わなかったんですよね。
──ほう。
僕はわりとアルバムリリースした直後からもう次のアルバム作りたいっていうタイプなんで、すぐ「次! 次!」ってなるんですけど。ほかのメンバーがちょっと、すぐに新作を作るっていう波にうまく乗れなかったっぽくて。新しい曲をバンバン持ってっても、そこにうまく気持ちを乗せられないみたいな。結局その時期には2曲しか録れなかったんですよ。もっと、5、6曲くらい録る予定だったんですけど。そのときに録ったのが「Stomp the Earth」に入ってる「Stairway to you」と「Morning Glory」です。
──レコーディングが思うように進まないことはめずらしいんですか?
うーん、そうすね。それまでは普通に考えたら10曲録れりゃいいくらいの期間で20曲録るっていうレコーディングをやってたし(笑)、「あと3曲どうする?」「じゃあ俺2曲考えてくるからお前1曲考えてきてよ、明日までに」っつって、翌日書き上げて「はい、俺、神! 天才!」みたいなことをみんなで笑いながらやってたんで。速攻アイデア出していく、即興勝負に近いようなレコーディングが多かったです。
──今回メンバー同士で気持ちが整わなかったのはどうしてだったんでしょうか?
うーん……単純に言ったら……まああんまり言いたくない話なんですけど(笑)。結成して10年やってきて、「ああこの感じか」っていう。「Reach to Mars」は自分ら的にはかなり画期的なアルバムで、これはウケてほしいなあと思ってて。リリース後は毎週毎週、「今日何位ですか」「今日は売り上げどのくらいですか」「何枚ハケましたか」みたいに聞いてたんですよ。でも売り上げが爆発的に変わるっていうことはなく……まあ当然なんですけど。別にいい音楽作ったからって万人が聴いてくれるわけでもなんでもないので。でもやっぱり「あれ、あんまり今までと売り上げ変わってねえぞ」「どういうことだろう」っていうのはあって。前よりもさらにいいものを作っていってるという自信と売り上げが比例していかないのが、ちょっとストレスになったのかもしれないですね。
──それはモチベーションに直結しそうな問題ですね。
うん。ライブではお客さんはすごく盛り上がってくれるし、どこのバンドと比べても類を見ないくらいお客さんとの関係性は親密だなあと思うんですよ。ツアー回ってけば「やっぱ俺たち、すごいな!」みたいに楽しくやれる。だけどふと現実に立ち返ったときに、あれだけ「いい感じで録れたぞ!」って思ってたアルバムがそんなたいした結果に結びついてないっていう。だから、次の作品をもっといいものにすれば売れるっていう発想になりづらかったんです。
──なるほど。
でも、今まで売れなかったことはもう置いとこうじゃないかと。これからはよりポップに、中学生でもサラリーマンでも楽しめるような、広い年齢層に訴える音楽を作ろうじゃないかと。そういう、もっと広義でのポップに進むことを意識して僕が持ってったのが「Stairway to you」と「Morning Glory」だったんですけど。メンバーはそのシフトチェンジに対して、それはロックバンドと言えるのかどうなのかっていうことに不安を感じたんじゃないかなあ、たぶん。
──渡會さんとほかのメンバーの間で、バンドの方向性に齟齬が生まれてしまっていたんですね。
うん。今までは売り上げが伸びなくても「腹立つからもっといいの作ろうぜ」っていう、ヤンキーがケンカに負けて悔しいから格闘技覚えるみたいな(笑)、そういうニュアンスで10年やれてたと思うんですよね。それが11年目ってなったときに、ワンサイクル終えてしまったというか。「これもう完全に新人でもなんでもないし、ド中堅だな。どうするよ」っていう感じはあったと思いますね。
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- ニューアルバム「Return to Earth」2014年11月12日発売 / 3000円 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3106 / Amazon.co.jp
- 「Return to Earth」
収録曲
- Return to Earth
- 溺れる鯨
- 開きっぱなしの扉か俺は
- Message from the front
- Gloria
- ベルティナの夜
- 青い炎
- Anomaly
- Cry for the moon
- 風によろしく
- Fortune Kiss
- ミニアルバム「Stomp the Earth」2014年9月3日発売 / 1944円 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3099 / Amazon.co.jp
- 「Stomp the Earth」
収録曲
- アウトサイダー
- Stomp the Earth
- Stairway to you
- Morning Glory
- ひとりぼっちのミュージカルスター
- Return to Earth DEMO 2
FoZZtone(フォズトーン)
2001年に竹尾典明(G)が渡會将士(Vo, G)と前身となるバンドを結成し、2002年に越川慎介(Dr)、2003年に菅野信昭(B)が加入。2007年にミニアルバム「景色の都市」でメジャーデビューし、2009年に亀田誠治がプロデューサーとして参加した2ndフルアルバム「The Sound of Music」をリリースした。2010年に越川がバンドを脱退して以降はサポートドラマーに武並“J.J.”俊明を迎えて活動中。ユーザーが収録曲と曲順を決定できるという“オーダーメイドアルバム”のプロジェクト、組曲形式の楽曲をDISC 2に収めた2枚組アルバムのリリース、セカイイチとのコラボバンド「セカイイチとFoZZtone」の結成など、柔軟な活動を続けている。2013年にはバンド結成10周年を迎え、“オーダーメイドアルバム”やメジャー在籍時代のベストアルバム、5thアルバム「Reach to Mars」をリリースした。2014年9月にミニアルバム「Stomp the Earth」、11月にフルアルバム「Return to Earth」を発売する。