ナタリー PowerPush - FoZZtone
10年間のキャリアが生んだ自信と快作
死ぬと思っていた20代、夢を見だした30代
──10年経った今、結成当初に思い描いていた姿になれていると思いますか?
渡會 全然!
竹尾 全然すね。もう、生きてなかったすもん。27で死ぬと思ってたもん。
渡會 出たー。「27クラブ」ね。
菅野 ははははは(笑)。
竹尾 偉大なロックギタリストとかロックミュージシャンはみんな27で死んでるんですよ。
渡會 カート・コバーンとか、ジム・モリソンとかね。ジミヘンもそうだね。
竹尾 そう。だから27を超えたあたりで、ひとつ諦めたとこありましたね。「あれ? 違ったんや俺」みたいな(笑)。
──ちなみに結成当時に思い描いていた10年後の姿とはどういうものだったんでしょうか。
渡會 すごい大きなビルの中の事務所と契約して、マネージャーと「おいちょっと焼きそばパン買ってこいよ」「はい! いつも焼きそばパン持ってます! これですよね」「バカヤローなんでお前のバッグに入ってたやつ食わなきゃいけねーんだよ!」みたいな。そういう王様みたいな、最低な感じに俺なりそうだなあってニヤニヤしながら思ってたんですけど、全然ですね。
菅野 俺はそうですね、普通にドームツアーとかスタジアムツアーができるぐらいまでになりたいなと思ってました。
──今もその思いは変わらずにありますか?
菅野 まあやれたら幸せですよね、それはもう。
渡會 やだよー! 大きいとこはいいけどさ、ドームとかクソみたいじゃん音。サイズはあんまり気にしたくないな。そっちよりも、みんな聴いてるとか、知ってるとかがいい。「あいつらの新譜出た」「うわ、買ってねえの? まじやばくね?」っていう。僕らの世代の、CDがバンバン売れてたときのカッコいいアーティストたちってそういう感じだったので。
竹尾 うーん、俺はもちろん売れてるやろうなっていうのは思ってたんですけど、ブームになるのだけはイヤだと思ってたかなあ。
──それは一過性のものだからですか?
竹尾 ブームになっちゃうと、終わったときに一番カッコ悪いものになるでしょ。そうなるのがイヤやったんで。ピラミッドでいうところの頂点を狙わずにこのあたり(8合目)で末永くいきたいなあって思ってましたね。
──わりと現実的ですね。
竹尾 そうですねえ。昔のほうがそういうことを考えてましたね。今はなんにも考えてない。
渡會 今はブーム来たらいいなあってほんとに素直に、子供のように思います。ブーム来ねえかなー、売ってねえかなどっかに。
──ははは(笑)。
竹尾 変な話30になってからのほうが夢を見てる気がする。20代の頃ってなんであんな現実的やったんかな(笑)。一生懸命大人になろうとしてたっていうか。でもさっき言ったように27で死ななかったときに、「(大人になるのは)無理だ!」って思ったんでしょうね。そのくらいから、ガキっぽくてカッコいいおっさんになろうっていうふうにシフトしたんだと思う。だからキャノン(菅野)が思ってた「ドームとかでやってんねやろな」ってことを俺が今思ってる感じですね。
渡會 僕、若いバンドの子たちとよく遊ぶんですけど、その子らが「25までには売れたいんすよね」ってすごい平気な顔して32の俺に言ってくるんですよね(笑)。「あーかわいいなー、それ俺も思ってたなー。でも25のとき俺、なんっにもなかったなー」って思うんですけど。実際自分が25歳を迎えたとき「ああ、俺の中の勝手な理想が1個死んだな」とは感じてて。そのあとどうするかは音楽を辞める / 続けるっていう2択だけど、どっちも間違ってるなって30になったときに思ったんですよね。辞めるのも、ただ続けるのも。そこから違うビジョンをしっかり作って進歩させていかないと、不幸な状態を維持するだけになるから。FoZZtoneがとりあえず新しいこと、誰もやってないことをやろうとしているのは、「ただ続けてもなんもねえしな」ってことをみんな理解したからだと思うんですよね。
すげーわかりやすいものを作ろう
──「Reach to Mars」は過去最高に振れ幅が大きくて、懐が深いアルバムだなと感じました。でも、この中にせっかくのアニメタイアップ曲「GO WAY GO WAY」が収録されていないのはなぜなんでしょう?
渡會 「GO WAY GO WAY」はアニメのためだけに作った曲だから、そこはアルバムと分離したかったんです。それにアニメで「GO WAY GO WAY」を聴いたら、「FoZZtoneはほかにどういう曲歌ってんのかな」って気にしてくれるんじゃないかと思ったし。「GO WAY GO WAY」のリリースからわりとすぐ10年目のデビューアルバムみたいなすごくいい作品が出るから、「ほかの曲聴きたいんだったらこれ聴いて」って言えるしね。
──「10年目のデビューアルバム」というのはひとつのキーワードですね。そういうアルバムを作ろうと思ったのはなぜですか?
渡會 2枚組のアルバムを2年連続で出したら、「FoZZtoneはディープだ」とか「濃い」とか、「理解するのに時間がかかる」みたいなイメージが付いてしまって……そんなはずはなかったんだけど。だからここらでいっちょ、すっげーわかりやすいものを作ろうと思ったんですよね。僕は最初にこのアルバム録る前に、80年代とか90年代のB級ハリウッド映画みたいに、スカッと終わってカラッとしたやつにしようってみんなに言ったんですよ。「ドカーン! うわー! 宇宙行った、イエー!」みたいな、わかりやすくて華々しい大団円で終わりたいんだよねって。そしたらみんなももう2枚組はいいと思ってたみたいで。だから今回はコンセプトとか細かいことは一切話さずに、「イエー!」っていう雰囲気だけで作っていきました。
竹尾 今回のアルバムのレコーディングが今までで一番楽しかったかもしれないですね。いい意味で力が抜けてるっていう感じがみんな共通してあったかな。
渡會 あと恐ろしく早かったね、録るのが。
竹尾 そうなんですよ。ほんとね、いろんなメーカーさんとかにどんどんそういうの言ってもらいたいですね。「FoZZtoneは録んの早いぞ、金かからへんぞ」って。
渡會 「ほかのバンドが1日まるまるかけて1曲レコーディングしてる間、FoZZtoneだったら4、5曲録れるよ」って。ほんとにそのぐらいでした。たぶん全部込みで1週間かかってないのかな。1週間くれればこのアルバム作れます。
──作詞作曲やアレンジを詰める作業にも、そんなに時間はかかってないんですか?
渡會 そうですね。
──それは意外でした。ものすごく時間をかけて緻密に作っているのかと……。
渡會 けっこうそう言われがちなんですけど、わりと感覚なんですよね。実は今までの2枚組のアルバムも、こっそりと抜きのテクニックみたいなものをいっぱい使ってるんですよ。収録時間が長いんで、重厚ってイメージに取られがちであんまり気付かれてなかったんですけど。自分たちはシンプルにもやれることを理解していたので、今回はそのままシンプルに出したというか。あとは大仰なことをしなくても伝えられるテクニックが付いたっていうことだと思います。有名な俳優がちょっと眉を動かしただけですごい雰囲気のある表情作ったりするのと一緒で。こういう情景なんだよっていうのを、1音でポンッと説明するテクニックが付いてきてる。そのおかげでだいぶシンプルになりましたね。
- ニューアルバム「Reach to Mars」 / 2013年6月5日発売 / 2800円 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3050
- ニューアルバム「Reach to Mars」
収録曲
- 世界の始まりに
- 情熱は踵に咲く
- Master of Tie Breaker
- She said
- Shangri-La
- BABY CALL ME NOW
- 1983
- ニューオーリンズ殺人事件
- 21st Century Rock'n'roll Star
- Reach to Mars
FoZZtone(ふぉずとーん)
2001年に竹尾典明(G)が渡會将士(Vo, G)と前身となるバンドを結成。2002年に越川慎介(Dr)、2003年に菅野信昭(B)が加入し、2007年にミニアルバム「景色の都市」でEMIミュージック・ジャパンよりメジャーデビューを果たす。2008年、1stフルアルバム「カントリークラブ」を発表。2009年には亀田誠治がプロデューサーとして参加した2ndフルアルバム「The Sound of Music」をリリースした。2010年、越川がバンドを脱退。以降はサポートドラマーに武並“J.J.”俊明を迎えて活動している。2010年から、ユーザーが収録曲と曲順を決定できるという“オーダーメイドアルバム”のプロジェクトを開始。2011年に「NEW WORLD」、2012年に「INNER KINGDOM(内なる王国)」と、組曲形式の楽曲をDISC 2に収めた2枚組のアルバムをリリースした。2013年にバンド結成10周年を迎え、“オーダーメイドアルバム”やEMI在籍時代のベストアルバムを立て続けに発表。6月には10曲入りのフルアルバム「Reach to Mars」をリリースする。