渡會将士インタビュー|とめどない創作意欲のまま第3章へ、「Third eye」で描く人間と音楽の関係性

「渡會将士20周年」と題して、ひさびさのアルバムリリースや活発なライブ活動を展開した2024年に続き、渡會将士は2025年も走り続けた。絶え間ないライブ活動に加え、4月にEP「恋の量子論」、9月にEP「引力について」をリリースし、年末にかけてはbrainchild'sとしてのツアーも実施。EPではカントリーなどルーツミュージックに接近した作風を展開するなど、20周年を超えてなお燃え盛る創作意欲は、とどまるところを知らずに発展中だ。

その勢いは2026年に入っても衰えることなく、1月21日にはニューシングル「Third eye」がリリースされる。自ら「第3幕の開幕」と語る、新たなフェーズのスタートを強く意識した楽曲をバックアップするのは、FoZZtone時代の盟友・菅野信昭が所属するバンドEG & his Drawersだ。ソロとバンド、弾き語りとエレクトリックセットなど、さまざまなスタイルを駆使しながら突き進む、渡會将士の創作エネルギーの原動力はいったい何か? 彼の胸の内を聞いてみよう。

取材・文 / 宮本英夫撮影 / 入江達也

二足のわらじで活動した2025年

──猛スピードで駆け抜けた2025年を振り返ると、どんな言葉が出てきますか?

2025年は……摩耗しました(笑)。その前の2024年がデビュー20周年で、バンドや弾き語りでかなり細かくツアーを回らせてもらいました。2025年もその勢いに乗って走り出したんですけど、自分のプロジェクトに加えてbrainchild'sの活動も入ってくると、途中でbrainchild's用の自分に切り替える作業が必要だったりするので、1年で2年分の時間が経過したような気がします。

──brainchild'sのライブハウスツアー「brainchild's TOUR 2025 THE MEMORIAL」は、10月から12月にかけて計13本公演が行われました。そこに組み合わせる形でソロライブもやっていましたね。

とんでもないスケジュールでしたね(笑)。その時期にソロも含めると17、8本ぐらいライブをやったんじゃないかな。

──2026年以降も続くわけですよね。この二足のわらじは。

でも、「THE MEMORIAL」というツアータイトルだったので、EMMA(菊地“EMMA”英昭)さんも特に明言はしていないものの、メンバー的には“そういうこと”なんだろうなと思っていますね。それぞれの新しいプロジェクトが始まったり、より一層忙しくなっているので、いい頃合いなのかなという気はしています。

渡會将士

──それについては続報を待ちます。そして、2025年は渡會将士としてEPを2作リリースしました。

まず春にEP「恋の量子論」を出して。さらに、秋に開催するbrainchild'sのツアーに合わせて、ライブ会場で渡會将士を知ってもらう趣旨の作品を作ろう、という感じでもう1作のEP「引力について」を制作しました。

──「恋の量子論」と「引力について」は、タイトルもアートワークも含めて、対になる作品でした。

この2作に関しては、たまたま量子力学の勉強をし始めていたタイミングだったので、そういうテーマになりました。

──そこ、ツッコみたいんですけどね。なぜ量子力学だったのか。

2024年に大阪・枚方の蔦屋書店で「BOOKトーク&アコースティックLive」というイベントがあって、いろんな方がオススメの本を紹介する企画に、中田裕二くんと一緒に出たんですね。そこで裕二くんがニッチな本をすごく楽しそうに紹介していて、それがいい刺激になったんです。裕二くんは、世阿弥が書いた芸事の指南書とか、仏教の教えとか、大人の礼儀作法の本とかを紹介していて。「人生についていろいろと考えたときに、そういうものを勉強していったらめちゃくちゃラクになった」みたいなことを言っていて、そういった本の読み方もあるんだなと思ったんです。

──渡會さんは、どんな本を紹介したんですか?

僕は、今年映画が公開される「木挽町のあだ討ち」という江戸時代を舞台にしたサスペンス / ミステリー作品や、2024年に「中央公論文芸賞」を獲った「笑う森」を紹介しました。そんな中、裕二くんに刺激を受けて、何か変わったものを読んでみようかなと思っていたところに、たまたま「量子力学が最近来てるっぽいぞ」という話を聞いて、軽い感じで勉強し始めました。そういう本では、理数系の筆者が量子の世界で起こっている不思議なことを何かに例えて説明しているんですけど、その例えが全部イマイチで(笑)。「文系だったらこうやって例えるんだけどな」と思ったのがきっかけで、「恋の量子論」や「引力について」を作りました。ただ、生活に即したことを、わざわざ数式を持ち出して喧々諤々やっている人たちが世界中にいるのは面白いなと思いましたし、物理学者って意外とロマンチストが多いんですよね。SFとリアルを真剣に結び付けようとしているところもあって、学問として好感が持てるなという気はしています。

渡會将士

第3期に突入して、何かが開かれていくような感覚がある

──「引力について」は新曲に加えて、過去数年の未CD化曲やリミックス、セルフカバーも入れた11曲入りで、フルアルバムと言ってもいい作品でした。

brainchild'sのライブに来てくれる方に向けて「僕のことが気になったらこれを聴いてください」という気持ちで、ベスト盤のつもりで作りました。

渡會将士

──「引力について」では、FoZZtone時代の楽曲「ベーコンエッグとシェービングヒーロー」をセルフカバーしましたよね。あれに関しては?

あの曲はデジタルでは音源化しているんだけど、弾き語りバージョンだけだったので、ベースの菅野くんに参加してもらって、ようやくバンドで音源化できました。彼とはお遊びのバンドを組んだり、僕と菅野くんと星羅さんと3人でBar Bar Poleというユニットをやったりもしていたので、ちょこちょこ会ってはいたんですけど、いざFoZZtoneの曲をやりましょうとなると、2人とも「おー、エモいね」という感じになりました。

──その再会が、今回の新曲にもつながったのかなと思いました。

菅野くんとはずっと「いずれ一緒にできるといいね」と言っていて、コロナのタイミングでも一度、FoZZtoneを再結成しようかとメンバーと話したりもしましたが、ちょっとうまくいかなくて。そしてFoZZtoneが活動休止してから2025年でちょうど10年目なので、僕が年始にやったライブを菅野くんが観に来てくれたときに、「10年目だから何かやろうか」と伝えたんです。彼は今EG & his Drawersというバンドのメンバーなんですけど、その後彼らとツーマンをやるときに「せっかくだからFoZZtoneの曲をやろう」という話になったりして。なんだかんだFoZZtoneを演奏する機会が増えてきた中で、「じゃあこのメンバーでシングルを1枚録りますか」と。

──すごく自然な流れですね。今回のシングル「Third eye」収録の3曲のうち、EG & his Drawersが参加したのは2曲。リード曲「Third eye」はヘビーなギターリフとブルージーな歌でぐいぐいと押していくようなナンバーですが、これはどんなふうに作ったんですか?

きっかけは単純で、FoZZtone時代が自分の中の第1期で、brainchild'sに入ったときに「第2幕が開けたな」という感覚があったので、EMMAさんが作った曲に「Phase 2」という歌詞を乗っけたりしたんです。そしてbrainchild'sの「THE MEMORIAL」ツアーが終わった今はまたひと区切りついて、「第3の」というニュアンスの曲を作ろうかなと思っていた中でできたのが「Third eye」です。スピ界隈の人がこのタイトルを見て、すごくワクワクしながら「スピリチュアルお好きなんですか?」って聞いてくるんですけど、「Third」が付けば僕はなんでもよかった(笑)。

──そうなんですね。

ほかにも「The Third Man」「The Third Door」とか、調べたらいろいろな言葉が出てきましたが、「3」には何かが開けるイメージがあって、数学的にも一番バランスが取れる数字らしいです。スピリチュアル的な解釈は特に否定しないですけど、自分の中で第3期に突入して、何かが開かれていくような感覚があるのは本当です。2025年は政治の状況もガラッと変わって、世の中も新しいタームに入った感じがありますよね。日本だけじゃなくて、広い範囲でいろいろと新しい動きが始まるんだろうなと。よかれ悪しかれ、この瞬間だけを切り取って何か言うのは難しい時代だなとは思いますけど。

──確かに。時代の変わり目というのはすごく感じますね。

音楽だと、自分らがデビューしたときはCDバブルの崩壊後で、いかにしてCDを売るか?ということが重要になり、アイドルが握手券付きのシングルを売ったりして、そこからCDは完全にグッズ化しましたよね。次にデジタル主流の時代がやってきて、自分自身も必要なとき以外はCDを買わなくなりましたけど、またここから新しい動きが始まるのかもしれないな、という気がするんですよ。レコードがまた流行っているという話もありますけど、レコードがもう1回主流に戻るか?といったら疑問だし、物質に対して満足感を得るというよりは、体験にシフトするのかな?という気がしています。ライブというもののあり方がどんどん変わっていく中で、そこを模索しようかなと今は考えていますね。