FIVE NEW OLDがニューアルバムの制作で得たものは?新しい自分と出会う旅へ出発 (2/3)

FIVE NEW OLDをブッ壊したい

──「Departure : My New Me」はこれまでの作品と比べて格段に日本語詞が多くて驚きました。アルバムタイトルは「出発」「新しい自分に出会う」という意味ですが、この言葉に沿ってそうなったのでしょうか?

HIROSHI そうですね。今回のタイトルはみんなで考えたんですよ。僕たちFIVE NEW OLDは音楽の空港みたいなものだと思っていて。FIVE NEW OLDという空港に行くといろんなゲートからいろんな音楽が聴ける。それで“Departure=出発”だねと。このアルバムを聴く人たちが自己理解を深めて、新しい自分に出会って、自分をアップデートしていくことにつながればいいなと思っています。

WATARU タイトルを考えるにあたって、今年の頭くらいに「FIVE NEW OLDとは」「ONE MORE DRIPとは」ということを改めてみんなで考えるところから始めて。そこからどういうものを今届けるべきか話し合って、アルバムのタイトルやコンセプトを先に考えました。FIVE NEW OLDそのものを洗練させるようなミーティングでしたね。

HIROSHI そのときに僕が「一度FIVE NEW OLDをブッ壊したい!」と言い出して。

WATARU そういう意見を経て、「My New Me=新しい自分に出会う」というタイトルになりました(笑)。2020年にやるはずだった結成10周年記念のライブがコロナで延期になって2021年にやったんですけど、そこで一度バンドの歴史が終幕した感覚があったので、それもあってHIROSHIはブッ壊したいと言ったんだと思います。

HIROSHI ネガティブに聞こえてほしくないし、実際僕の中ではネガティブなことではなかったんですけど、自分たちが作っている音楽がどんな人に届いてほしいのかよくわからない、混乱した時期が続いたんですよね。最初にお話した「いい音楽を分かち合いたい」というのは、混乱の時期や年始のミーティングを経て出てきた思いなんですよ。そしてなぜ僕がブッ壊したいと言ったかというと、よく破壊と創造は表裏一体って言いますけど、今このバンドにはそれが必要だと思ったんですよね。

WATARU その一環として、今回はメンバーの人間味を音に乗せたほうがいいんじゃないかという話になって。でもいかんせん、今までは真逆の方向性だったからどうやっていいかわからなかったんです。僕らはライブでは人間味ある感じを出してきたんですけど、音源では人間味を排除してきたので。過去のレコーディングではブレやヨレを極限まで減らしてきれいに録ることを重視してきたけど、今回はそれを気にせずにレコーディングしました。そういう作業が重なった結果、「Departure : My New Me」は、メンバー4人の人間性が出ているアルバムに仕上げることができたなと思います。

HAYATO パンクロックから始まって、これまで洋楽をベースに曲を作ってきたバンドが、今回のアルバムでは歌詞で英語を20%くらいしか使っていない。僕は邦楽も大好きなので、こういうアルバムを作れたことがうれしいです。4曲目の「Home」とか、FIVE NEW OLDでこんなポップなバラードをやると思ってなかったので。そう言う意味でも新たな挑戦ができたアルバムになったと思います。

SHUN 僕はFIVE NEW OLDのメジャーデビューのタイミングから関わり始めて、約1年間のサポート期間を経て正式メンバーになったんです。これまではメンバーが今まで築き上げてきたものに自分のエッセンスを足している感覚だったんですけど、今回のアルバムからは自分も1人のメンバーとしていろいろ意見していいんじゃないかと思って。だから個人的にも今回のアルバムは“出発”の1枚です。このアルバムの制作を経てちゃんとバンドの一員になれたというか、胸を張ってFIVE NEW OLDが自分のバンドですと言えるようになりました。

SHUN(B)

SHUN(B)

過去と現在の融合

──皆さんの言葉からバンドとして新たなフェーズに進むぞという気合いが感じられました。率直にこのアルバムは難産でしたか? それともスルッと生み出せましたか?

HIROSHI 無理した記憶はないですね。リラックスして作れました。

SHUN 時間をかけて作れたのが大きかったかもしれない。難産だったのは「Trickster」(2023年1月放送スタートのテレビアニメ「HIGH CARD」オープニング主題歌)くらいじゃない?

HIROSHI 確かに「Trickster」はデモを10パターンくらい作ったかも。

HIROSHI(Vo, G)

HIROSHI(Vo, G)

──「Trickster」は、初めてアニメのタイアップ曲を作るという試みが難産につながったんしょうか?

HIROSHI そうですね。自分自身がアニメ好きなので、めちゃくちゃ気合いが入って。アニメサイドの方からは「自由にやってください」と信頼していただいたので、その信頼に応えたくて最近の僕ららしい心地よいサウンドのデモも作ったんです。でもなんか違う感じがするというか、置きにいってる感じのデモを作った自分に腹が立ってきて(笑)。それからは別の方向性にして、トランプを使ったバトル作品なので、山札からカードをめくるときの予測不可能な感じをイメージしながら作りました。最初のイントロのコードを思い付いたときに「これだ!」という感覚はありましたね。

──「Trickster」のイントロを聴いた瞬間、この曲がアルバムの1曲目なのかという驚きがあって。最近のFIVE NEW OLDらしからぬ感じというか、結成当初のパンクバンド感が出てますよね。

HIROSHI パンクスの部分が出ちゃいました。

WATARU 原点回帰というわけじゃないですけど、パンクロックと今の自分たちの音楽スタイルがうまく融合できた曲になったと思います。僕たちの今の音楽性と少し離れているとは思うんですけど、100%に近いくらい納得いったので絶対この曲は1曲目だろうと。

WATARU(G, Key)

WATARU(G, Key)

HIROSHI 昔の僕らを知っている人からすれば「戻ってきたじゃん!」と感じる部分があると思うし、最近の僕らの音楽を好きな人からしたら“My New Me感”あるんじゃないかなと。あとはなんといってもBloc Partyのギターのラッセル(・リサック)と一緒に曲作りをできたことが大きいです。高校生のときに「サマソニ」(「SUMMER SONIC」)でBloc Partyのライブを観た洋楽好きキッズからしたら、憧れの人と一緒に曲を作れてめちゃくちゃアガりましたし、彼がこの曲にすごく真摯に向き合ってうれしかった。最後の仕上げのやりとりはコーディネートの人が忙しかったのか、電話番号だけ渡されて(笑)。

SHUN LINEのグループに電話番号だけボンって送られてきたよね(笑)。

HIROSHI そうそう。まずロンドンへの国際電話のかけ方を調べるところから始めました(笑)。彼と電話してるときも「しゃべってるじゃん! やべえ!」と思いながらやりとりしてました。ラッセルが「バンドのやりたいことがすべてだから、自分のアレンジのいい部分だけ使ってくれ。僕はベストを尽くしたけど、それが君たちにそぐわないのであればそこは好きにしてくれて構わない。僕の曲じゃなくて君たちの曲だから」と言ってくれたのがすごくうれしかったですね。無理を言ってギターのフレーズのパターンを変えてもらったりしたんですけど、すぐに対応してくれて。サビで右側で鳴っているギターのフレーズなんかは、普段自分たちじゃ弾かないようなものになっていると思います。